ダンジョンは実在できるか
「ねえ白龍さま、境界門っていつも地上に出来るんですか?」
南米の方で鉱山で崩落が起きて閉じ込められていた鉱夫が救出されたと言うニュースを見ていた碧がふと白龍さまに質問した。
うん?
そう言えば、どうなんだろ?
以前何処ぞの政治家の厨二病な御曹司が哀れな婚約者を伴って境界門を意図的に潜って行方不明になったせいで山探しをすることになった時は、洞窟の中とかもそれなりに探したよね? って事は経験論的には洞窟の中とかにも境界門って存在できるのかな?
『境界門を維持できる程の力がある存在は大型幻獣が多いからな。
地下なんぞにあると出入りに使いにくいってことで維持しないから、直ぐに消えるのでは無いか?
人型な神族とて地面の下を奥深くまで潜って行くのは嫌いじゃろうし』
白龍さまが応じた。
なるほど、地上以外の場所に出来るか否かは不明だが、地下じゃあ境界門に魔力を注いで閉じない様にメンテする存在が居ないから、たとえ地下に出来たとしても比較的直ぐに閉じて消えるだろうって事なのね。白龍さまの『直ぐに』がどの位の年数かは不明だけど。
冥府へ続く場所として信仰の対象にされそうな気もするが、神族好みな場所じゃないんだろうねぇ。
引きこもりで暗いところが好きな神族だって存在するかもだが、そう言う存在は人間に己の存在を知らしめて信仰されたくないだろうし。
「じゃあ、白龍さまとか神族って境界門を意図して開けられます?」
碧が尋ねた。
『世界と世界との境界をぶち抜くことは可能じゃが、門という形で固定するのは儂は苦手じゃな。
神族には出来るのがおるかも知れんが。
だが、境界へ新たに穴を開けようと思うと周囲にかなりの影響が出るから、今時の神族ならやらんじゃないのかの?』
白龍さまが応じる。
今時の神族()。
今時の神様ってネットのゲームとか小説や漫画を読むのに夢中になっているラノベあるあるなタイプの神様なのかな?
もしもどこぞの神様が暴れまくって人間社会に支障をきたす様な事があったら、政府や退魔協会が絶対に『白龍さま、助けて!』って事で碧のところに土下座してでも助力を頼み込みに来るだろうから、考えてみたら最近の神様ってひっそりと大人しいか人間に比較的好意的なタイプしか地球には残っていないっぽいよね。
宗教の血みどろな歴史を考えるとちょっと意外だけど。まあ、あれは神が異教者の死を求めていたと言うよりは、宗教に付随する権力と金を独占して増やしたい宗教家が勝手にやっている事なんだろうけど。
と言うか、キリスト教やイスラム教の神様って本当に実在したんかね?
もしも一神教の神様が実在していたとしても、歴史の中で今までに神の名でやらかされてきたアレやコレやが居た堪れな過ぎて、とっくのとうに姿を消しちゃっていそう。
もしくは完全に引きこもりになって自分の世界から出てこないとか。
それはさておき。
「どったの、急に?」
何か気になる事があったのかと尋ねる。
「いやぁ、救出された人の何人かが何日も地下にいる間に精神的にヤラレちゃった感じで、幻視したのか妖精とか幽霊とか魔物っぽい存在を見たって言っていたみたいなんだよね。
で、ふと……境界門が古い鉱山の底とかに出来たら、空気が動かないから魔素があまり拡散しなくて坑道の中の魔素濃度が比較的濃くなり、境界門を通り抜けてきた異世界の生き物も死なずに生き残っちゃって、ある意味ダンジョンみたいな環境が出来上がるかも〜?って思ってさ」
碧が説明してくれた。
なるほど。
それこそ、古の精霊が生き残って眠りについている様な古い火山にでも出来た鉱山の奥深くだったら、ちょっとは魔素の濃度が高いかもだよね。そこに境界門が出来て、魔素が拡散しにくい環境だったらダンジョンっぽい空間が出来る、かも?
「魔素が閉じ込められやすい素材が多い地層の鉱山とかだったらあり得そうでちょっと夢があるかもね。
空間が拡大しているとか魔物がリポップするとか、魔物を倒すとドロップアイテムが現れるなんてことはないだろうけど」
ついでに魔物を倒したらお金がその場に落ちることもないだろうねぇ。
『ちょっとした地震や火山の噴火が起きても構わぬなら、境界門を少し動かすのは可能じゃが……本体でないと流石に難しいから、そうなるとよほど大きな坑道のある鉱山跡でもないとそう言う環境を作るのは無理じゃの』
白龍さまがちょっと面白そうに応じた。
あ〜。
龍サイズの本体が入れる様な大きな坑道じゃあ魔素の拡散も多そうだから、前提条件的にダメか〜。
最近ダンジョン物の小説が増えたからちょっと興味を感じたんだけど、無理ですか。
残念。