バランスが悪いのは
大崎佳織から読み取った記憶によると、彼女は頭は悪く無いが自分からは発言しない内気なタイプで、先生に指されても答えられない時も多かったりで中学・高校時代は『テストの点だけは良い真面目チャン』と周囲から見られていた様だった。体型もちょっとぽっちゃりしがちだったし、お洒落をするのも及び腰でいつも地味で無難な格好をしていた。
1歳下の妹はもう少し自意識が高く、幼い頃は似た様な顔と体型だったが小学校を卒業する頃には頑張ってスリムな体型になり、ハキハキと周囲の友達や先生と話す態度から密かに(でも本人達に聞こえる範囲で)周囲から『大崎家の当たりな方な子』と言われていたのも内気な傾向を強めたらしい。
高校1年の時にテニス部のちょっと格好いい先輩に憧れてそこにマネージャーとして入り、只管尽くしまくったものの『妹の方ならまだしも、あんな地味なのは遊び相手としてでも無いでしょ』と友人と話しているのを聞いて部を辞め、男と言う生き物に期待するのも諦めた。
代わりに美人でお洒落な女性を憧憬の念と共に見つめる様になった。そして……大学に入って同じサークルの新入生達とネズミランドに行った際に豊橋 葵とランチで席が隣になり、ちょっと雑談をした事でそんな美人と友達になれると思い、機会があったら只管注目し、側に居ない時でも彼女の事を夢想する様になったのだ。
「うわぁ、葵さんたらどうやらサークルの人達とネズミランドに行った時に昼食時の席が隣で、その時にちょっと雑談したのが原因でロックオンされたみたい。
葵さんは彼女の顔すら殆ど覚えてなかったよね??」
大崎佳織の記憶をざっと読み取って、思わず溜め息を吐きつつコメントした。
「まあ、人数が多いグループだったらそう言うこともあるんでしょうねぇ」
碧が肩を竦めた。
「大崎佳織にとっては憧れの美女と友達になれる!と思うきっかけだったみたい。
高校時代にも憧れの先輩に尽くしまくって可能な限り四六時中近くに居ようとして尽くしていたのが、本人に『地味過ぎて遊び相手にすら値しない』って評価されているのを聞いちゃって男に認められるのは諦めたようね。
その時は危険な反応は示さなかったから、今回も葵さんがキッパリ拒絶したら諦めると良いんだけど……」
男に懲りて美女に粘着したのだ。
ここで美女に拒絶されたら次はどうなるんだろ?
離れ過ぎててほぼ会う可能性が無く、会ってもファンサを多少は期待できるアイドルとかの追っかけでもするんかね?
もう少し自分に自信を持ってもっとバランスの良い生き方をする方が無難だと思うんだけど……下手に黒魔術で根拠のない自信を植え込むとなんか変な方向に暴走しそうでそれはそれで怖い。
「地味過ぎてダメって言われたなら、普通だったらまずはお化粧とかの腕を磨かない?
なんで代わりに美人な女性をストーキングするの??」
碧が首を傾げた。
「あまり自分を磨く方向に努力しないタイプなのかな?
そこら辺をもっと頑張れと意思誘導しておいたら良いかも」
もっとも、表面だけ死ぬ気で磨き、綺麗になったと思えるようになったら自信過剰な美人モドキになって男を追いかけ回し始めるかもだけど。
なんかこう、暴走癖があると言うか、アクセルとブレーキのバランスが悪い感じなんだよねぇ。
これは生まれつきの欠陥なのかも?
少なくともさらっと見た過去の中にこのバランスの悪さを説明できる様なトラウマ的記憶は見当たらなかった。
「行きましょうか。車も前に出してあります」
大崎佳織に関して碧とボソボソ話し合っていたら、葵さんが戻ってきた。
どうやら今日着ていた服は室内着扱いだったらしく(十分お洒落な感じだったけど)、着替えてメークもした姿は、確かに大崎佳織が憧れるのも不思議は無いぐらいに綺麗だった。
凄いな、隈が綺麗に消えてる。
どこのメーカーのコンシーラーを使っているんだろ?
まあ、私の場合は碧と言う強い味方がいるから、もしもの時には目の下の血行を力技で改善して貰って隈も解消出来るからコンシーラーは必要無いけどね。
表に出たら、露骨に大きくは無いけどよく見たらドイツ製な車が停まっていた。
しかも運転手付き。
「私が助手席に座りますね」
大崎佳織の生霊は中身が分からないぐらいに縮めた結界に押し込んで引っ張ってきている。
生霊なので車の外を引き摺っても問題は無いし、怖くなったら可哀想なのでほぼ周囲を知覚しないレベルまで本霊の意識を落としてあるが、葵さんの隣に座って近付けない方が良いだろう。
大崎佳織の家の前に戻ったら体に戻す予定だが、うっかり早く開放してどこかに逃げられたら困るからね。
逃げなきゃいけないと言う意識があるかは不明だが。
そうじゃ無くても普通に食料品の買い出しとかに出て行かれても面倒だし。
このまま今日中に依頼を終わらせられると良いな〜。