サイトの傾向
疲れが溜まっていたのか、結局葵さんは夕食の時間まで起きなかった。
普通だったらこれ程昼寝しちゃったら夜に眠れなくなると思うが、体力の限界に近い感じだったし、不眠用のお守りがあれば夜も問題なく寝付ける筈だから、一日ぐらいなら良いだろうと放置しておいた。
で。
「夕食が出来ました」
お手伝いさんらしき女性が部屋に現れた。
「ありがとうございます」
外に食べに行っている間に生霊が出てきては困ると言う事で、一応依頼が完了するまでずっと葵さんと私らのうちのどちらかが一緒にいる事になっているので、当然食事も一緒だ。
碧がそっと葵さんの肩に触れて起こす。
ついでにソファで寝ていて固くなった体も解してあげると良いかも?
ソファって狭いから寝返り打ち辛いせいか、長時間その上で寝るとあちこちがギシギシ痛くなるんだよねぇ。
「うん……?」
葵さんが手で目をこすりながら起きた。
「夕食の時間だそうです。
一緒に食べましょう」
葵さんは声を掛けても暫し壁の時計をぼ〜と眺めていたが、やがて意識が覚醒してきたのか、びっくりした様にぴょこんと起き上がった。
「え?! もう6時???」
「疲れていたんでしょう。
今晩もその不眠用お守りをベッドのそばに置いておくと良いんじゃないかと思いますよ」
考えてみたらあのお守りにはどこで販売されているかなんて書いてないから、もっと欲しくなったら言ってくれと伝える方が良いかな?
まあ、若いんだし生霊問題が解決したら不眠用のお守りなんて必要なくなるだろうけどね。
「あ、どうもありがとうございます。
ここのところ、ベッドに入っても変な夢を見るし電気を消すと部屋の中に誰かがいるような気がしちゃうしで、疲れているのに寝入っても直ぐに起きちゃって熟睡出来なかったんです。今日は退魔協会の方が居ると思って安心できたのか、すっかり熟睡出来ました。
お相手もせず、すいません」
起き上がって伸びをした葵さんが、頭を下げながら言ってきた。
「いえいえ、私たちは大学の授業を受けたり本を読んだり、色々とやりたい事をやっていましたのでお気遣いなく」
ダイニングルームに案内されながら答える。
と言うか、寝ていてくれる方が相手しなくて済むから気楽だったんだよね。
起きている葵さんを無視して私と碧だけで会話するのは感じ悪いだろうし。
「そうですか?
どうもすいません。
ちなみに何を読んでいたのか、聞いても良いですか?」
ダイニングテーブルの席に座りながら葵さんが尋ねる。
「本と言うか、ネットの無料小説サイトのお気に入りな小説の更新分を主に読んでいたんですよ〜」
と碧が応じ、彼女のお気に入りに関して話し始めた。
「ああ、なろうとカクヨミですね。
私もあの二つのサイトはよく読んでます!」
葵さんが言った。
彼女の好きな小説はファンタジーの戦記系なのだそうだ。
ちょっと意外かも? 戦記系ってこう……孫子とかを誦じる厨二病少年か、凝り性なオッさんが好きなジャンルかと思っていた。美人な女子大生のイメージではない。
偏見だったね。
「そう言えば、最近流行りな乙女ゲーム系の話とかって読みます?
あれに出てくるお金持ちの常識っぽい部分って、異世界の貴族社会だとしても納得できる部分があるのか、単なるフィクションだなぁって苦笑しちゃう感じなのか、実際のお嬢様としてどんな感じですか?」
碧が私も気になっていた事をズバリ尋ねた。
「異世界のファンタジーってかなりキツい階級社会じゃないですか。
だから日本の常識とは合わないんで何とも言えないですね〜」
葵さんが首を横に振りながら応じた。
そっかぁ。それこそ、葵さんの祖父とか曽祖父が金持ちだったらその人らが若い頃の日本が異世界の階級社会に近いものがあったのかも?
ちょっとその人らから話を聞けないのが残念だね。
「そう言えば、最近ってなろうのランキングがやたらと乙女ゲーム系が多くなり、カクヨミはハーレム系が多くなってますよねぇ。
実際の読書層って昔からあるなろうは男性の方が多そうな気がするのに、男性でも乙女ゲームのざまぁ小説って楽しいんですかね?」
夕食を食べながらお互いにお気に入りなネット小説について話している間にふと最近気になっていた事を口にする。
「あ〜それねぇ。
私もちょっと意外に思ってた。乙女ゲーってどうしても出てくる男がバカ寄りになるから、男性が読んだら不快そうな気がするけど、フィクションだと思って気にならないのかしら?
なろうの広告は相変わらず男性向けなエロゲばかりだから、読者層層は女性よりも男性が多いんだと思っているんだけど。
まあ、カクヨミも最近はエロゲっぽい広告が増えてきたけどね」
碧が相槌をうつ。
「あら、そうなんですか。
カクヨミは気に入った作家にスポンサーするつもりでギフトを色々と送っているから、広告は出てこないんですよ。
なろうも同じ制度があれば良いのに。どうも目に入りやすいのを重視しているせいか、ドギツくてちょっと下品な広告が多くてその点だけは本当にウンザリですよね」
葵さんが言った。
そっか、ギフトの分だけ出資して広告を無くすのも一つの手だね。
月当たりクレープ一食分より安いんだし、ストレス回避費用だと思えば高くないよね。帰ったらちょっとそっちを申し込もうかな。
ついでにあのハーレムだらけな傾向も少し直してくれてば嬉しいんだけど。別に運営会社が恣意的にハーレムモノをランキング上位に選んでいる訳じゃあないんだろうけど。
「ハーレムって男性にとってそんなに憧れなんでしょうかね?
どう考えても女性は不快にしか感じないだろうと思うと、カクヨミの読者って男性が多いんでしょうか?」
葵さんが首を傾げながら言う。
「メジャーなネット小説サイトの読者層なんてそうそう変わらないと思うんだけど、何故かランキング上位に出てくる小説の傾向は偏っていますよねぇ。
アルゴリズムの違いなのか、本当に読者層が違うのか、気になる〜!」
碧がちょっと悶えながら言った。
いつかそう言う内輪の情報を暴露してくれる記事でも出ないかなぁ。
マジで私も気になる。