落ち着きがない!!
疲れていたのか、葵さんは私の提案を受けて不眠用お守りを枕元に、アイピロー(快適生活ラボ産ではない)を嵌めてソファに寝転がった瞬間に眠りに落ちていた。
元々あの不眠用お守りには眠りを齎す効果があるんだけど、極度に疲れていなければここまで早く眠りに落ちない。やっぱ疲れが蓄積していたんだろうねぇ。
寝ている間にも取り憑かれていたみたいだし。考えてみたら、取り憑かれて生霊の夢想している光景を一緒に追体験させられていたら体的には寝ている事になるのかね?
イマイチそこら辺の知識はないんだよねぇ。前世では殆どの人がある程度は魔力があったから、生霊が付き纏っていたらかなりあっさり撃退されていたんで。
夢で取り憑くタイプの方が発覚は遅れたとは思うけど、怪しい夢を見ているっていうのも神殿か魔術師かに相談すれば何とかして貰えたからね。
「あら。
もう来たね」
私の授業が終わり、バトンタッチ的に碧の授業が始まっていたのだが、碧の授業の半ばぐらいの時点で生霊が現れる気配が部屋に生まれた。
何日掛かることやらと葵さんに同情しつつも実は内心うんざりしていたのだが、意外とこの生霊、堪え性が無いようだ。
つうか、大学生なら今は授業中じゃないの?
もしくは午後のサークル活動中とか。
取り敢えず、捕まえようと結界を展開しようとしたところで生霊の気配が消えた。
「ありゃりゃ。
授業中にうたた寝し始めてこっちに来そうになったところで目が覚めたのかな?」
振り向いていた碧が溜め息を吐き、タブレットの方に向き直った。
この分だったら今日中にもう一度来るかな?
「これ、嫌がらせでやっているならマジで悪意マシマシだね」
最初の訪れから4回目の瞬間的出現の痕跡が消え去るのを呆れたように眺めながら碧が言った。
「何かしらの才能が大学に入った刺激で発現して、まだ使い方……どころか使っている事すら分かっていない段階なのかも?」
ふっと一瞬現れたと思ったら消える感じの短期間な出現が数十分毎に起きるのだ。
これじゃあ被害者は休まる暇もなくってノイローゼ一歩手前になるのも不思議はない。
多分ちょっと授業でうたた寝しかけた時とか、ふと何かの拍子に葵さんの事を思い浮かべた瞬間にこちらに生霊を送りつけているけど、直ぐに他の事に気が取られて集中力が切れ、接続が消えるっぽい。
ここまで短時間な出現じゃあこっちも捕まえられない。
一瞬から数秒なので、気がついて捕縛結界を展開しようと魔法陣を脳裏に描いている間に消えてしまうのだ。
もっと纏まった時間が加害者側にあればバッチリ現れるんだろうけど、大学に行って授業なりサークル活動なりに参加中の無意識的生霊ストーキングだと、どうしても集中力に欠けてこんな形になるんかも。
葵さんが短期間の出現でも生霊の気配を感じられる程度に敏感なのも不幸だったね。
これがガッツリ体を乗っ取られない限り気付かないぐらいに鈍感だったら気がつく被害回数もずっと少なかっただろうに。
「これって葵さんが大学を休んでサークルにも出ていないせいで憧憬の念が薄れかけてて、出てくる回数はまだしも長さが減ってるんじゃない?」
碧が溜め息を吐きながら指摘した。
「かもね〜。このまま放置したら、もしかしたら他の美人に気を取られてそっちを取り憑く様になるかもだけど、葵さんが大学に戻ったら元の木阿弥な可能性は高いからねぇ。
下手に長期戦にならない様、何が何でも今日か明日にでも捕まえたいところだね」
今の状態の葵さんに、囮になる為に大学へ行ってサークルに参加する様説得するのは難しいだろう。
と言うか。これって生霊の元が分かって、本人に生霊を送り出さないように封を刻み込んだとしても、前の様に葵さんは大学に戻れるのかね?
少なくともその相手がいるサークルに参加する気は起きないんじゃないかと思うんだけど。
意図的ではなく、うっかりした本人も自覚していない変な才能の具現化だとしたら、相手側に不快だから大学に顔を出すなと脅すのも難しいだろうし。
まあ、父親の依頼主が娘のストレス軽減の為に、生霊ストーカーが別の地域の大学へ行く様に金を使って『説得』する可能性はあるかも?
ある意味。
自分がやっている事を自覚した時に、この生霊の元の人物がそれをどう使おうとするか、興味があるかも。
まあ、使いすぎると寿命を削る事になるから、はっちゃけちゃってアホな使い方をしたら若死にする事になるだけだけどね。
取り敢えず。
「明日の朝までに捕まえられなかったら、一度家に帰って霊を捕らえる捕縛結界生成用の符を作ってくるわ」
符があれば一瞬で結界を展開できるから、瞬間的な出現でも捕まえられる筈。
まあ、大学から帰ったら落ち着いて葵さんに思いを馳せて、生霊がどっかり現れる可能性が高いと思うけどね。