昔は熱血な人が多かった?
「取り敢えず、こっち半分は私、そっち半分は碧が浄化するんで良い?」
碧に尋ねる。
ちょっと穢れが濃厚だが、私一人でも碧一人でも十分浄化出来る程度だ。だけど半分ずつの方が楽だし、どうせ快適生活ラボの収益になるのだから二人で分担すべきだろう。
ちなみに、私の方に呪詛っぽいのが混じっている古書を含めてある。
流石に100年以上前の呪いだったらうっかり清めた際に転嫁されて誰かが被害を受けるなんて事は無いとは思うが、変な風に子孫に何か害が飛んだら可哀想だからね。
触れたら問答無用に解呪しちゃう碧よりも、私が中身を理解しつつそっと解体して浄化する方が無難だろう。
「ほいほ〜い」
碧が頷き、自分の方の古書を小さな結界で覆った。
特に碧だと意識して結界の中だけ清める様にしないと、うっかりしたらこの部屋全体を清めちゃいそうだもんね。
他にも穢れや怨念の憑いた書や手紙があるから、気をつけないと。大学側も、どうせなら保管室全部の書類を依頼対象にすれば良かったのに。それだと予算オーバーだったのかな?
と言うか、古書ってこんなに怨念塗れになるんだねぇ。
藤山家の蔵にあった古書は普通の古い紙ってだけで物によっては紋様を描いた術師の魔力が籠っていたが、穢れは全然無かったから古書がこうなるとは思っていなかったんでびっくりだ。
古い壺や武器並みだ。
紙って意外と穢れや怨念を吸収してキープするんだねぇ。
そりゃあ、前世では羊皮紙やもっと最悪な人間の皮を使ったヤバい魔術書みたいのを作る悪の魔術師だって居ない事は無かったし、そう言うのは穢れやヤバい魔力がマシマシだったが、和紙にそう言う力や怨念を残す機能があるとは思わなかった。
まあ、考えてみたら怨念が強ければ木製の日常品だって危険な付喪神の依代になり得るのだ。
紙だって長い年月に破損しない様に注意して扱えば、付喪神はまだしも怨念程度は余裕でキープ出来ると考えるべきなのだろう。
悪霊祓う術師として働いている国が羊皮紙なんて無い日本で良かったのかも。
下手をしたら、羊皮紙(もしくはもっとヤバい皮を使ったモドキ)で出来ている欧州の古書なんて、マジで更にドロドロでおどろおどろしい怨念だらけかも。
取り敢えず、自分の方の古書にも結界を張り、浄化の術を掛けていく。
成り掛けな呪詛に関しては幸い箱に入っていたので横にどけ、後回しだ。
しっかし。
寄贈した人が歴史の闇を主に研究していたせいか、妙に血判状が多い。あちらこちらに血の残滓が残っている。
これってそれこそこれらの紙に付いている血を使って過去の人のDNA鑑定とか、病気とか栄養状態とかの研究が出来たら面白そうなのに。『歴史の闇』よりもずっと表に出せて役に立ちそう。
考えてみたら、50〜60年ぐらい前の殺人事件に関して新手法のDNA鑑定が開発されたから冤罪が分かるとかなんとか争っている様な話を新聞で読んだ気もしないでもないから、150年ぐらい前の血判状の血だって研究対象として実用性があるのかも?
まあ、人が一人殺された時のたっぷりな血と、指紋を押す程度のちょっぴりな血では量が違うけど。指紋程度の量じゃあ色々テストしたら血が無くなっちゃうから難しいかもだね。
それはさておき。
普通の穢れや怨念を浄化し終えて、呪詛一歩手前な書が入っている箱を開けてそっと中を覗く。
うわぁ。
これ、血を少量の墨に混ぜて書いてる。
しかも丸めて結んでいる黒紐、これって髪の毛を編んだ物だよね??
呪いの対象が紐に触れたら呪詛が発動する様に仕組んだっぽいが、幸いにも条件に一致する人間が触れなかったみたいだ。
狙った相手へ送りつける筈だったのが、出し損ねたのか受け取り拒否されたのか。
寄贈した人がどっちの子孫だったのかは今となっては分からないな。
取り敢えず、トリガーは呪いの対象が触れる事みたいだから、呪詛を解呪しちゃっても変に他所へ転嫁する事もなさそうだ。
いまだに微妙に呪詛の力が残っているって、一体何をどれだけ犠牲にしてこれを仕組んだのか、知りたくもないなぁ。
「終わった?」
私が呪詛を解体して箱ごと浄化したところで碧が声を掛けてきた。
「うん、
なんかやたらと血判状が多かったけど、この血の情報って碧だったら何か読み取れる?
流行っていた病気とか、栄養状態とかが分かるんだったら面白そう」
少なくとも私よりは白魔術師の碧の方が何か情報が得られる可能性は高そうだけど。
「流石にこんなに古いんじゃあ、何も分からないねぇ。
凛の方が、血判状を書いた人たちの熱意とか目的が分かって研究に纏めやすくない?」
碧が応じた。
「あ〜。
祓う前だったらある程度は読めたと思うけど、多すぎて面倒だったからちゃんと情報を集める前に全部浄化させちゃった。
昔の人って暑苦しかったんだねぇ」
血判を押す様な大事をやろうと言う熱意があったのだ。
今の政治に無気力な日本人とは全然違う感じだね。
いや、時々変なSNSに熱中してヤバいパワハラ男を再選させたりしているから、熱意が全然ないわけではないか。
その癖、痛みを受容して子供や孫たちの世代のために社会を良い方向へ動かそうとする良識ある動きへの熱意は見当たらないけどね。
氷河時代世代の年金対策も実現するかかなり怪しい雰囲気だし。
ちゃんと将来の問題に対策を講じようとするのを反対する政治家と、それに文句をいわない市民が国民の大多数だなんて、終わってない?
やっぱ、それこそ黒船クラスの危機が来ないと血判状を作るぐらい熱意ある政治的活動って起きないのかな?
まあ、血判状を作った合意が良い方向への動きだったか独善的なヤバい動きだったかは今となっては不明だけどね。
取り敢えず。
ヤバい寄贈物は清められたから、それで良いとしよう。
これでこの話は終わりです。
明日は休みますがまた明後日からよろしくお願いします。