身近だけど難しい
「次の予約は昼食後だっけ?
イマイチ食欲が無いんだけど……」
ニョロニョロの視覚的ショックが大きすぎて、食欲が微妙。
パスタも肉もちょっと無理って感じだし、おにぎりもちょっと米粒が寄生虫の卵と似ているかもなんて言う要らん想像が思い浮かんじゃったせいで食べたく無い。
「確かにあれはキツかったね。
栄養的にダメダメだけど、取り敢えず今日のランチは無難にアイスクリームかクレープでも食べない?」
碧もちょっとげっそりした顔で言った。
アンコちゃんの体を切り開いて、ニョロニョロをビニールの手袋越しとは言え手で掴んで引き抜いて集めたのだ。
碧の方が更に嫌な思いをしてるよね。
「アイスクリームにしようか。
ちょっと頭がキーンとするぐらい冷たい物で気分転換したい」
かき氷でも良いけど、あれって考えてみたらどこで買うんだろ?
子供の頃に家で何度か食べた気がするけど、考えてみたらウチにかき氷機なんてあったのかな??
まあ、兄貴に強請られて買って、私が物心ついた後ぐらいに壊れて捨てたのかも?
若しくは、食べたのが家じゃなくてどこか出先だった可能性もある。
と言うか。
かき氷を急いで食べると頭がキーンと痛くなるのって内政無双系ラノベに出てくる知識として知っているけど、自分で経験したのか、読んで知っているから経験したことがある気になっているのか、考えてみたらイマイチ自信がないなぁ。
「そうだね、駅の近くにバスキン?ダンキン?なんかそんな感じな名前の色々とアイスの種類がある店が開店してたから、あそこで適当に選んで食べよう!」
碧がバッグを手に取りながら言った。
「いいね!」
昼食代わりなら、3スクープ入りぐらいの大きいカップ入りのを食べるのもありかも?
◆◆◆◆
アイスクリームをがっつり食べた後に神社に戻った。大分と気分もスッキリした感じだ。
「午後もニャンコだったっけ?」
碧に確認する。
碧が一番愛するのは猫だけど、カリスマ祈祷師は犬や文鳥でも対応はしている。流石に蛇やカエルは断っているけど。
ハムスターも寿命から来る老衰が多過ぎたので、最近は対象外にしている。
「そう。
なんかやたらと便が緩くて下痢ばかりしているって話らしいね。
獣医に便検査して貰っても大した菌とかは見つからなかったらしいから、それこそ大腸がんだとでも言うんじゃない限り、アレルギーな可能性が高いと思うんだよねぇ」
碧が溜め息を吐きながら応じた。
「あれ、菌の検査しても大腸がんかは分からないんだ?
なんかそう言う癌マーカーみたいのが最近は検出できるのかと思っていた」
癌だったら癌だって飼い主も言うよね??
「癌のマーカーは血液検査で出てくるんじゃない?
じゃなきゃ便に血が混ざっているから更に検査をして分かるとか。
便から直接癌マーカーが見つかるとは思えないし……猫でそれが出来るとも聞いたことないよ?」
碧が指摘する。
そっかぁ。
大腸がんの検査のために便検査をしてはどうかってお知らせがこないだ退魔協会の健康保険組合から来ていたけど、あれって血が混ざって無いかをチェックするだけなのか。
てっきり便に癌マーカーがあるのを見つけられるのかと思っていた。
まあ、それはさておき。
「アレルギーって治せるんだっけ??」
認知症はある程度治せる(脳神経の再生は出来るから思考能力は戻せるけど、失われた記憶は戻らない)って言っていたし、癌や内臓疾患とかもほぼOKって話だったけど、考えてみたらアレルギーについて聞いた事がないかも?
免疫系の反応って厳しそうな気がする。
体の免疫を全部一度リセットしたらアレルギー反応も消えるのかな?
免疫をリセット出来るのか知らないけど。
それこそ白血病で骨髄移植する時みたいに、一度骨髄を破壊して白血球が作られないようにしてからそれを治したらリセット状態になるのかな?
でも、骨髄を破壊だなんて、怖すぎるし1時間やそこらでなんとか出来る処置じゃ無いよね。
「アレルギーはねぇ。
炎症を起こしてる大腸とか皮膚とかを治して正常な状態に戻したら過剰反応は止められるけど、元々アレルギーがあるんだったら厳しいかなぁ」
碧が言った。
祈祷だと言っているからあまり詳しい情報を求められないのも助言を与えにくくするんだよね。
祈祷する際に集中すべき問題が分かりやすいように獣医からの所見があったら書いてくださいって申し込みのページに書いてあって、そこはそれなりに書き込む飼い主が多い。だけど食事に関するアレルギーの場合は何を食べさせてるか程度は書いてくれても、流石に食べさせている食料全てのサンプルを持ってこいって言うのはちょっと祈祷っぽさから離れ過ぎるからねぇ。
そうなると何がアレルゲンかの解明も厳しいだろう。
「免疫反応を抑えきっちゃったら別の病気で死んじゃいそうだし、難しいのよねぇ」
願わくは、次の患者さんが癌であってアレルギーじゃ無いことを期待しておこう。