ニョロニョロ?!
今日はカリスマ祈祷師の日だったのだが……飼い主がブチっぽい猫を乳母車みたいなカートから抱き抱えて碧の前のタオルを敷いた木箱に入れたのを見ていた碧が、微妙に顔を歪めた。
おや?
虐待でもされた跡を見つけたのかな?
でも虐待した飼い主は祈祷師なんぞに縋らないと思うんだが。
なんか呼吸が苦しげなものの、猫も飼い主が触れるのに身を任せているっぽいし。
「ちょっと凛の手伝いも欲しいから、一緒に来てくれる?
新井さんはこちらに座って待っていて貰えますか?
もしくは1時間ぐらい掛かると思いますので、何処かに出掛けられても構いません」
碧がアンコちゃんを箱ごと抱き抱え、私と飼い主さんに声を掛けた。
「分かりました。
ここで待っています」
何やら希望と絶望とがごっちゃのなった様な感情を振り撒きながら飼い主の新井さんが待ちスペースとして借りている場所のベンチに座った。
「折角天気が良いですし、ちょっと境内の中を歩き回って来てはどうでしょう?
申込時に記入された携帯番号に掛ければ連絡が取れますよね?」
このベンチ、あまり座り心地は良くないんだよね。
いつもは碧の祈祷()って10分か15分程度で終わるから、必要事項を書いてもらったりお金のやり取りとかしている間に終わっているんで座り心地がどうでも構わないんだけど、1時間待つとなったらちょっと辛いかも。
ゴソゴソとバッグの中を漁って携帯を取り出した新井さんが、充電とレセプションを確認してから頷いた。
「そうですね、ちょっと歩き回ってみます」
「では失礼します」
一声かけて、碧が引っ込んだ裏の方へ行く。
「あ、そこの手袋して、そっちのバットを持ってきて〜」
祈祷部屋()に入ったら、碧が声を掛けてきた。
バット!?!?
え?何処かに殴り込みに行くの??と思ったら、碧が指したのはちょっと深めなキッチン用の金属のトレーだった。
そう言えば、これもバットって言うんだっけ?
まあ、vatらしいんで正確にはヴァットって言うべきなんだろうけど。紛らわしいよねぇ。
「どしたの?」
言われた通りにラテックス(多分? 箱にはビニールグローブと書いてある薄いゴムっぽい白いの)手袋をしてバットを手に持ち碧に近づいたら、猫ちゃんは意識を失ってぺたりと眠っており……碧の手にはテレビで時折見かける手術用のメスっぽい刃物があった。
「この子、フィラリアに寄生されてるのよ〜。
下手に寄生虫だけ殺してたらそれが肺や心臓で詰まって死んじゃうなんて事もあるから、思い切りよく肺と心臓を切り開いて虫を取り出してから傷口を治療しちゃうのが一番確実なの」
碧が嫌そうな顔をしながら言った。
「え?!?!
心臓まで切り開くの?!」
幾ら碧なら切り開いた心臓も元に戻せるとは言え、ちょっと無謀じゃない?!??
「足の血管まで引き寄せて抜き出すって言うのも一応可能だけど、やたらと時間が掛かるから、バッサリ行く方が楽だし早いのよ。
めっちゃ気持ち悪いけど。
アンコちゃんは仮死状態にしてあるから出血も最小限になる筈だけど、早く終わらせた方がいいから凛も協力して」
碧がアンコちゃんを万歳ポーズにして、メスを構えた。
うわぁ。
前世では魔物が解体されるのを何度か見た事があるけど、今世では豚や鶏を捌く場面すら見た事がないんだけど〜〜!
ちょっと嫌だなぁと思いつつもここでばっくれる訳にもいかないから、諦めて碧がやりやすい様に側に立つ。
「手足のどれかを押さえてようか?」
特に動く様子は無いけど。
まあ、仮死状態では動かないとは思うけど。
「いや、バットを持ってて」
そう言いつつ、ザクっと思い切りよく碧がアンコちゃんとの胸を切り開いた。
下からちょっと肋骨を押しやる感じにバッサリやってるけど……過去にやった事がありそうだね。
寄生虫に侵された野良猫でも助けてあげたのかな? 流石に素人の子供がそこまで思い切るとは思えないが……回復師だっていう叔父さんにでも教わったのかな。
そんな思いは、切り開かれた肺の中から現れた白く長いニョロニョロを見た時点で、吹き飛んだ。
「ぎゃぁぁっぁぁ!!」
思わず飛びのきそうになったのだが、それより先にメスを置いた碧がぐいっと手でニョロニョロを掴み取ってバットに入れ始めたので、バットを持っていた私は動けなくなってしまった。
うえぇぇっぇえ!!
気持ち悪い!
こんなのが体の中に居たなんて!!」
既に碧が殺していたのか、猫と一緒に仮死状態にされていたのか知らないが寄生虫は自ら動いてはいないようだったが!! ニョロニョロなのでバットに放り込まれた後も微妙に動いているように見えるんだけど!!
マジで気持ち悪い〜〜!!