ヨロシク!
「お久しぶり。
最近はどうしてる?」
もう流石に北海道の山奥でも雪は無いだろうから兄貴も仕事モードに戻っているだろうと、忘れないうちに兄貴に連絡を取った。
ウェブサイトそのものは卒業までに出来上がっていれば良いかなと言う気もするんだけどね。あまり早く作り上げてもプロバイダーなり運営会社なりに維持費を取られるだけだし、アイピローやクッションを私らが量産出来る時期の見極めも気を付けておかないと。
卒論を書く合間にひーひー言いながら注文に対処する羽目になるのは避けたい。
とは言え、うっかり秋まで待っていると北海道で雪が降り始めたら兄貴が仕事仕舞いしてしまう。
「怜子は良い感じに腕が上がって来たようだぜ。
俺は結婚式の準備に忙しくなりつつあるかな?」
あれ?
もしかして、今年結婚するんだ?
「一人前の退魔師になるまで待つんじゃなくて、さっさと結婚しておくの?」
下手に長谷川って名前で登録すると私との関係を探られないかね?
まあ、あまり嫌がらせをし過ぎると白龍さまの怒りを買うかもって事で大丈夫かな?
「おう。今年にやっちゃう方が、実際に一人前として働き出す年にするよりも時間的余裕があって良いだろうし、既婚になっておく方が変な合コンもどきな仕事や会合に呼ばれなくて済むって言われたからな」
あ〜。それはあるかもだね。
おめでたい事だけど、じゃあ頼み事は難しいかな?
「ちょっと会員制の販売ウェブサイトが欲しいんだけど、作って貰えそう?
それとも時間的余裕がないかな?」
結婚するから仕事をやる暇が無いって事はないだろうけど、無料の家族サービスは厳しいかな?
最近はメッセージアプリで動画付きで通話出来るから便利だよねぇ。
相手の顔が見えれば電話で話だけするよりも相手の反応が見やすい。
もっとも、兄貴だったら嫌だったり忙しかったりしたら遠慮なくそう言うだろうけど。
家族に対して遠慮するなんて言う考えは最初から頭に浮かばない人だからね。特に悩む様子は無く感じだったので遠慮はしないことにした。
それなりに助けてきたのだ。恩を返してもらっても良いよね?
『会員制の販売サイト??
何を売るんだ?』
兄貴が首を傾げながら尋ねた。
「大学で皆が内定貰うのに目の色を変えてて、貰えた人はお互いにマウント取り合っている中で無職になるのって言うのは嫌だけど、退魔師になるって言うのも微妙でしょ?
だから起業して健康グッズを売るって言う事にしたの」
厨二病に未だに罹患中な兄貴だったら退魔師になるって大学の在学中でも友人たちに言って回りそうだけど。
とは言え、兄貴の仲間だからね。
感性が違う。
『健康グッズって……変なビジネスを起業すると却って出費が嵩んで赤字になるぞ?』
兄貴が心配そうに言ってきた。
「私が赤字になる様なビジネスに手を出すわけないでしょ〜。
不眠症や眼精疲労対策に向いた符入りのアイピローを作って小規模に高額で売る予定。
碧も肩凝りや腰痛に効くクッションを売るから、知る人ぞ知る系なサイトにしたいの。
だから会員制の、紹介された人しかアクセス出来ないサイトが欲しいんだけど」
考えてみたら、紹介できる人数に関しても制限をつけないと、既存の顧客からの紹介だったらデフォルトで認める形にしたらあっという間に会員制の狙いである人数制限が形骸化しそうだね。
一人五人までしか紹介できないとでもしておくかな?
でも、五人紹介した後に更に紹介したい人ができた場合に最初に紹介した人を排除すると勝手に決める訳にもいかないからねぇ。
年に二人とでもするかな?
そんでもって2年間購入履歴がなかったら会員権を削除って事で。
クレジット情報とか送り先の会員情報もキープしたくないが。そこらへんをプラットフォームの運営会社みたいなところが請け負ってくれたら良いんだけど。
『え?
符の入った不眠症用のアイピロー??
そんなのが可能なのか?』
兄貴がびっくりした様に聞いてきた。
「符を道具に使えるか否かは魔力の適性によるから。
風の適性だったら扇風機っぽい使い方は出来るかも?」
扇風機だったら500円ぐらいでハンディ型が買えちゃうのであまり売るのに適していないだろうが。
『ふうん。まあ良いや。
会員登録しなきゃ買えないって言うんじゃなくて、会員じゃないとウェブサイトにアクセス出来ない秘密クラブ的なサイトにしたいのか?』
兄貴が頭をボリボリと掻きながら聞いてきた。
「秘密クラブなんて言うと、怪しげなオカルト狂いな秘密結社みたいのが思い浮かぶからやめて欲しいんだけど〜。
ただまあ、会員じゃなきゃウェブサイトにアクセス出来ないし、会員登録には既存会員からの紹介が必要。そんでもって既存会員も毎年決まった人数しか紹介出来ない形にして、出来るだけ販売数は絞りたいの」
そこまで人気になるかは不明だけど、柳原事務所での人気を見るに、ブラックな労働環境な人の間で話が流れたら一気に客が押し掛けてきそうなんだよねぇ。
まあ、ブラック勤務に忙しい社畜な人はそんな情報を集める暇もないかもだけど。
『商売を始める前から販売数を絞ろうとするなんて、失敗の元なんじゃないか?
まあ、退魔師として働くのがメインで、そのウェブサイトは大学の同期へ見栄を張る為だって言うなら良いのかもだが』
兄貴がちょっと呆れた様に言った。
「見栄を張るって言うのは酷いじゃない。
スムーズな人間関係のためだと言って欲しいわね。
取り敢えず、試作品を二十人弱の事務所で配ったらめっちゃ人気だったから、それなりに売れるとは思う」
まあ、売れない様だったら大学を卒業して数年したらウェブサイトを閉鎖しちゃっても良いかもだしね。
もしも情報管理が想定外の上手く(?)いって柳原事務所の人以外に会員が広がらなかったら、ウェブサイトはやめて適当にメッセージアプリかメールで販売のやり取りをしても良いし。
『へいへい。
どんな機能が欲しいのか、書いて送ってくれ。
ついでその商品もサンプルを一つづずつ使い方の説明書と一緒に送ってくれたら売り文句と一緒に写真を撮って販売用の映像もそれっぽいのを作っておくぞ?」
兄貴が肩をすくめながら応じた。
そう言えば、そう言うのも必要なんだっけ。意外と手慣れてるね、兄貴。
男って肩こりとかしにくいらしいから試作品を送ってもそれほど感激しないかもだけど。
馬鹿にされたらちょっと業腹だが、まあどれかが刺さるかもだし、取り敢えず1セット全部商品を送ってみよう。
「そんじゃあ諸々を送るから、よろしくね〜」