価格設定
「こちらが残りのアイピロー試作品になります。
フィードバックを元に多少手を加えた部分もあるので、使い勝手が悪くなったとか前回のと比べて効果に違いがあるとか、使える回数が違うとか何か気付きがあったら何でも構わないので教えて下さい」
柳原会計事務所に来て、昨日渡せなかった試作品(試供品?微妙にどっちと呼ぶべきか不明)を柳原氏に渡す。
「ありがとうございます。
こちらが頼まれていた各人が出しても良いと思った値段の幅とその計算根拠です」
アイピローの入った袋を受け取った柳原氏が何やら書かれた紙を渡してくれた。
「うわ、随分と沢山払う気がある人もいるんですね」
値段が5千円から3万円弱、凄いのは10万円なんてのも書いてある。
10万円は無いでしょ??
思わずそこにいる柳原氏を無視して計算根拠の方を確認してしまった。
一番安い5千円と言うのは、『ネットで見かけるアイピローが3千円前後なので効果の凄さを鑑みて5千円』と言う感じのことを書いてある。
ある意味納得な考え方だよね。
まあ、そうすると私の取り分が符を含めて実質2千円なのでちょっと時間的収益率が低すぎるので売る動機が無くなるが。
もう少し金額が大きいのは「一月に12錠入りの睡眠導入剤を5箱使うとして1700x5で8500円。毎日の目覚まし用のコーヒー500円x25日で12,500円。合わせて21,000円』
ちゃんと計算しているけど……毎日睡眠導入剤を飲み続けるのはダメでしょう。
更に大きいのは『朝と昼食後のコーヒー代の1日千円が30日で3万円』
これって休みなしで毎日働いているって事なのだろうか? コーヒー代もこうやって見ると意外と高いね。
一番大きかった10万円には『繁忙期の事務所全体の残業代が一割減ったと想定して支払いの減った給与及び社会保険料が300万円前後、事務所の固定費その他を勘案してアイピローの貢献分として1個あたり10万円相当と考えられる』なんて書いてあった。
「え、残業代がそんなに減ったんですか?!」
思わず紙から目を上げて柳原氏を見やる。
「まだ計算していないですが、大体全員が2時間早く帰った印象なのでそんな感じじゃ無いかと思いますよ。
終電を逃してタクシーで帰る人が居なかったから経費が減った分もあるので本当はもっと節約出来ているし、社員の健康はお金に換算出来ない価値があるからもっと高くても買いますけど、流石にあまり高いと経費として落とす際に税務署に怪しまれかねないので」
柳原氏が苦笑しながら答えた。
うわぁ。
残業代節約分って考え方があるのかぁ。でもアイピロー一個10万円はないわぁ。
「基本的に個人相手に数を限定して売るつもりなので、経費削減分の値段で売ると言うのは無しですね。
でもまあ、色々とありがとうございます。
これらを参考に値段を決めて来年までに販売を開始をしますので、その際には宜しくお願いします」
まあ、企業として快適生活ラボは既に実在しているんだから、販売開始そのものに柳原氏の助けは要らないと思うが。
「本格開始前にプレ販売を是非お願いします」
柳原氏が拝むように言ってきた。
「ええ、そちらは月に一人1個の制限内でしたら構いません。
近いうちに会員制の販売のサイトを作ろうと思っていますので、そちらのテストも兼ねてお願いします」
兄貴を捕まえてウェブサイトの作成を頼まないとね。
さて。帰る前にあの依存していた高田さん(だっけ?)をちょっと捕まえて意思誘導しなくちゃなんだが。
アイピローを配る形でどさくさ紛れに何とかしようかな。
「じゃあ、これを配って帰りますね。
皆さんに使いすぎない様に釘を刺して回りたいですし」
アイピローの一つは柳原氏に渡し、残りの七つを配って回ろう。
「杉浦と大井は外出中なので、こちらで預かっておきましょう。
机の上に置いておいて無くなったら人間関係に罅がはいりそうです」
柳原氏が笑いながら言った。
確かに、机の上に置いておいたら山根さんか高田さんあたりが誘惑に負けてくすねそうだね。
と言う事で事務所の方へ。
「アイピローの替えです。
これからは出来れば1日2回、多くても3回に自制して使ってくださいね」
そう言いながら部屋の中を回る。
最後に高田さんのところへ。
真面目に仕事をしている様な様子だが、オーラ的にはこっちに全身の注意が向いているね。
「はいどうぞ。
高田さんならちゃんと使用回数の制限を守って貰えると思いますが、1日2回を目指してご利用下さい。
仕事も100%の完璧な結果を求めるのではなく、95%ぐらいを目指す感じにやると突発的な事象に対応する余力を保てるし、疲れやストレスも減るし応用が効く様になると思いますよ」
後半部分に魔力を込めて意思誘導を精神に埋め込みながら話しかける。
本人の性格的には100%を追求しないなんて怠慢だと感じるのか、ちょっと抵抗を感じたからこの意思誘導も長持ちしないかもなぁ。
夏休みの後ぐらいに、何か柳原会計事務所に来る理由を見つけて様子を見にこよう。