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「どうもお手数をお掛けしてすいません」

 柳原氏の事務所に行ったら所長本人に出迎えられた。


「いえいえ。

 それだけ使い道のある道具が作れたと言うのは嬉しいですし、仕事が大変な職場に無制限に提供するとどうなるかも分かったので、とても参考になりました。

 取り敢えず、ちょっと想定以上な使い方をされたみたいなので会議室を借りて一人ずつ使ったフィードバックの聞き取りをしながら血圧を測らせて貰えますか?

 昨日の今日でまだアイピローの試作品を10個しか準備出来なかったので、まずは既に使い切っちゃった人から始めてアイピローを回収して新しいのを渡し、十一人目からは話だけ聞いてアイピローの回収と新しい試供品の配布は明日で良いでしょうか?」

 この事務所には二十個提供したんだけど、ここで働く人は柳原氏を含めて十八人らしい。スペアの一つは柳原氏の奥さんに渡しちゃったらしく、もう一つは偏頭痛持ちでガンガンアイピローを使いまくって最初に使い切っちゃった人に提供したとの事だった。


 なのであと必要なのは全員が必要だとして8個。3つは既に出来上がっている。回収した符の5個はリサイクルを試すつもりだが、雑草を入れ替えるだけなら今晩中にサクッと出来る筈。


「やはりちょっと使い過ぎでしたかねぇ」

 少し恥ずかしげに柳原氏が言った。


「昼に20〜30分昼寝するのは効率アップするとは言いますが、細切れな昼寝をなん度もして夜の睡眠時間の代わりにするのは健康には良くないでしょう。

 そうじゃなくても2、3時間ごとにあれを使うと言う状況は想定していなかったのでどんな副作用が出るか分かりませんし。

 取り敢えず、今後は最高でも1日3回の使用に抑制して下さい。

 アイピローの試供品も正規品も、これからは月に1個以上は提供しない予定ですから」

 少し顰めっ面な表情を作って柳原氏に言い渡す。


「ちなみにこれって3ヶ月しか保たないと言う話ですが、使わなくても効力が落ちてしまうのでしょうか?」

 私の言葉に直接合意はせずに、柳原氏は別の事を尋ねてきた。

 そっか、季節によって繁忙度に波があるなら暇な時期にも月1で買い溜めしておいて、忙しい時期に規定回数以上に使うリスクもあるのか。


「ハーブの新鮮さが重要なので、時間経過と共に効果が薄れますから全く使っていなくても残念ながら3、4ヶ月で効果が無くなる可能性が高いですね」

『香り』だったら真空パックにでも入れれば散らないかもだが、魔力は何に入れようとこの魔素の薄い地球じゃあ希薄化しちゃうからねぇ。


「ダメですか……」

 柳原氏ががっかりした様に項垂れた。

 おいおい。

 社員が買い溜めするのを心配していたんじゃなくて、自分で買い溜めするつもりだったでしょ。

 ダメだよ〜、トップがこちらの使用指示を率先して無視するなんて。

 使用説明書通りに使ってよ??


 取り敢えず、柳原氏の部屋で先に彼の血圧を測りながらアイピローの使い心地やどのくらいで効果が切れたかを確認。

 ここに来る前に近所の家電量販店に寄って態々血圧計を買って来たんだけど、お陰で自然な感じに相手の手に触れながら色々と聞けている。

 やっぱ肩を触れたり手を握りながら質問って言うのは微妙だからねぇ。


「いやぁ、素晴らしいですよ。

 目の疲れや疲労頭痛がかなり薄れますし、偏頭痛には飛び切りな効果がありますから。

 あと、不眠用のお守りと同じでスコンと眠れるのも便利ですね」

 血圧を測っている間に柳原氏が熱心にアイピローの事を褒めてくれた。


「ちなみに、これが販売停止になった場合は仕事の効率がどのくらい悪くなりそうですか?」

 仕事の効率なんかどうでも良いんだけどね。

『これが販売停止になったら』と言う言葉への反応が知りたいだけなので。


「かなり落ちるし、社員の不満がグンと上がっちゃって困るでしょうねぇ。

 外へは販売停止になっても、ウチだけにはこっそり売ってもらえませんか?」

 ちょっと悪戯っぽく柳原氏が提案する。


 取り敢えず、『販売停止』に対して極端な反応はないから『便利』だとは思っていても『依存』はしてないね。

 良かった。


「なんか想定以上に売れちゃいそうなので、紹介制で登録した会員にだけ売る形にしようと思っていますから、販売数が手に負えないレベルになる事はないと期待しています。

 ちなみに、正規販売する様になってもネットとかで『偏頭痛や眼精疲労に対して物凄く効果がある』なんて言う様な口コミは書かないで下さいね。

 医療器具並みに効果があるなんて噂が広まったら法律違反だとかなんだとか医療機関からイチャモンをつけられて、販売停止に追い込まれる可能性が高いですから」

 善意の販売促進への口コミでも、邪魔なだけだからね。


 会員制な限定販売だったら口コミを書くサイトもないとは思うが、変な掲示板でバズったりしても困る。


「なるほど。

 確かにそれはそうですね。

 気をつけておきます」

スンっと真面目な顔になって柳原氏が約束してくれた。


 頼むよ〜?

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