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「碧〜。
柳原氏の事務所の人たちがあのアイピローの試作品を使いまくり過ぎて、既に何人か符の魔力が枯渇しちゃったからもう一つくれって懇願がビシバシ上がってきているって柳原氏から連絡がきた。
ちょっと変な依存症になってるかとか、体に副作用が出てないかとかを確認したいから、明日一緒に来てくれない?」
柳原氏との電話を終え、碧に声をかけた。
腰痛用の符を描いていた碧が紋様を描き終えてそっと筆を置き……こちらにぎゅるん!と顔を向けた。
「はぁぁ?!
1日1回で90日の筈のアイピローを既に使い切った?!
実は何かハイになるヤバい効果でもうっかり付け加えちゃったの??」
90日分のを二週間で使い切るなんて、やっぱ怪しいよねぇ。
「こう、化学的成分からくる麻薬みたいな効果は無い筈だと思うんだけど、頭の痛みや目の疲労が楽になるって言うのに精神的な依存性がある可能性は否定できない……かも?
だからそっちは明日私が調べる。
だけど、神経の緊張をリセットするのをそんな1日に何回もする様な使い方って想定していなかったから、それを1日に4、5回毎日二週間続けても変な副作用が体に蓄積していないか、確認してくれる?」
つうか、ブラック企業じゃ無い筈の柳原氏の事務所ですらそんだけ働くって日本人って、社畜属性が強過ぎじゃ無い??
内定をもらっているのに就職活動を辞めない大学の同期は、誰もが『仕事のやり甲斐を実感できるか』とか『会社が隠れブラックじゃ無いか』とかを確認出来る会社から内定が欲しいみたいな事を言っているが。ある意味下手をしたらやり甲斐搾取ってやつでやり甲斐のある会社ほどブラックになり易いんじゃ無い??
それこそ、劣悪な会社だったらうちの大学の卒業生だったらさっさと会社を辞めて転職すれば、今の売り手市場な状況だったら第二新卒って事でそれなりに次の仕事が見つかりやすそうだ。却って仕事にやり甲斐があるなんて思っていると柳原氏の事務所みたいにブラックな労働環境にハマってしまう気がしてきた。
まあ、柳原氏の事務所は1月半ばから5月末ぐらいがピークでそれが過ぎると大分と楽になるし、夏とかは長期休暇を取ってバカンスに行けるぐらい緩いらしいからブラックな社畜文化だと一概には言えないのかもだけど。
「まあ、柳原さんのところだったらちょっと肩とか触らせて貰って健康チェックを出来るから良いけど。
精神的な依存性がありそうだったらどうするの?」
碧が聞いてきた。
「なんかねぇ。
マジでヤバい人にはヤバい感じに求められそうだから、もう普通に売るのは辞めて、紹介制の通信販売にでもして顧客番号ごとに販売数を把握して1月1個しか売らない形にしようかと思う」
下手にネットで売ると、1月1個のベースで使って下さいって言っても追加で買われてしれっと使われたら分からないからね。
まあ、それでも誰かを紹介した形で家族とか知り合いの名義を使って購入されたら分からないが……そこまでやられた場合は流石にどうしようもないよね。
「紹介制か〜。
それもアリかもね。
私のもそれにしちゃおうかなぁ。
あまり数を売っても捨てられるクッションが増えるのは心が痛いし」
碧がバタンとソファに床に寝転がりながら言った。
「つうかさ、考えてみたら数を売り過ぎて私らが符を描くのに忙しくなるのも問題だけど、あんまり売れちゃったら聖域の雑草が足りなくなるでしょ。
夏はまだしも冬は秋までに育った分の在庫で賄わなきゃいけないんだし、最近じゃあ真夏も暑過ぎて草の発育が悪そうだし、作れる数に限界があるよね」
符はもしかしたらリサイクル出来るかも知れないが、聖域の雑草は確実に新しいのと入れ替えなきゃならないのだ。
そう言えば、今回の使い終わったアイピローも回収して、雑草を入れ替えたら符がそのまま新しいのと同じ様に使えるかもテストしたいな。
明日渡すアイピローの数を少なくして残りは来週までに作って持っていきますと言っておいて、いくつかは無作為にリサイクルした符を入れておいてみたら良いかも。試作品のテスト期間中ならリサイクルも全然OKだろう。
「あ〜確かに。
って言うか、あんまり売れ過ぎたらしょっちゅう諏訪まで雑草を刈りに戻らなきゃだよね。
うん、数は制限して紹介制で良いか。
としたら、会社のウェブサイトも不要?」
碧が首を傾げる。
「購入手続きにカードを使える様にしたいから、電話やファックスで受付って言うのは面倒すぎるんじゃない?
紹介制な販売サイトみたいのが無いか探してみて、良いのがなかったら兄貴にそこそこセキュリティのしっかりしたID認証式な販売ウェブサイトを作れないか、聞いてみよう」
ウェブサイトのデザインとかは兄貴よりも彼女の怜子さんの方が専門だったと思うけど、流石に彼女は退魔師の鍛錬で忙しいだろうからなぁ。
普通のビジネスとしてそう言うサイトのサービスがあれば一番だけど、なかったら兄貴に作れると期待しよう。