1日に何回も昼寝できない
「こんなもんかなぁ」
2日掛けて魔力を脳裏で注ぎ込み続けた結果として生成できた魔法陣を符に描き終え、筆を下ろす。
結局30分で起きるという機能は無理だったけど、最初にストンとしっかり眠る様にしたから、30分で目覚めてもそれなりに充足感は得られると思う。
と言う事で、テストだ。
アイピローのカバーに聖域のヨモギと一緒に挟み込み、目の周りに付けてソファに横たわる。
机の上で椅子に座って寝ることも考え、今回は水平に寝る事はトリガーにはせず、寝ようと目を閉じて何かに頭を預ける事で符が起動する様になっている。
机の上で腕に頭を乗せるのでもOKだが、当然ソファでクッションに頭を乗せるのでも大丈夫。
すやぁ。
ピ〜ピピピピ!
携帯のアラーム音で目覚めた。
うん、20分で起きても特に不快感はないかな?
後で10分で起きても大丈夫かも確認してみよう。
流石に5分じゃあ昼寝として認められないから、そっちはテストしなくて良いや。
「どんな感じ?」
ソファで源之助を膝の上に乗せながらタブレットでネット小説を読んでいた碧が声を掛けてきた。
「問題ないと思う。
後はどのくらいの回数を使うと魔力が尽きるかとか、想定外な使い方されても大丈夫かの使用テストだけど……どうしようかなぁ」
テストの為に1日に何度も昼寝をしまくるのって体に良くなさそうだが、使いまわされて1日に複数回使われる状況もテストした方が良いよねぇ。
普通の夜寝る時に使う不眠用の符はお守りとしてそれなりに売って使われてきたから今更問題は起きないと思うけど、パワーナップ用って言うのは今までの不眠用とはちょっと違うからなぁ。
使い方も違う上に、魔法陣も新しいからテストなしにこのまま売りに出すのは不安だ。一応『頭痛持ちの方に!』とでも謳い文句を付けるつもりだからそっち効果があるのかのテストも必要だし。
「柳原さんの事務所で使用テストして貰ったら?
3月末までの一番ヤバい時期は終わったとは言え、まだまだあそこは忙しいでしょ」
碧が提案してきた。
確かに?
会計事務所として確定申告とかをやって貰っている柳原事務所は毎年3月にゾンビを量産しているからねぇ。
今年も私と碧のお守りを大量購入していた。
確定申告なんて毎年やる事はほぼ同じだし、時期も決まっているんだから多少は最終確認的な作業があるとは言え、なんでそこまで忙しくなるのか分からない。だが、今年も私らの確定申告をやって貰うついでにお願いされてお守りを届けに行ったら事務所の皆さんの隈が凄かった。
会計事務所に外部委託しているからとギリギリまで自分がしなきゃいけない準備しなかったり、後になって色々と注文をつけたりするアホな顧客が多いらしい。
そう言うのを断れないのがビジネスというモノらしいが……あれを見ると、退魔師として仕事を選べる私らはあまり文句を言っちゃいけないな〜と思ったわ。
個人事業主や年度末を12月にしている法人用の確定申告作業で3月末までは忙しかったようだが、4月からは3月末を決算にしている法人の相手で忙しいらしいから、いまだにゾンビがあそこを徘徊している可能性は高い。
とは言え。
「不眠用のお守りはまだしも、このパワーナップ用のアイピローってちょっと露骨に効果がありすぎじゃ無いかな?」
簡易的な魔道具だとバレそう。
「私らが退魔師だと知っている人達なんだし、ちょっと退魔協会の規制ギリギリラインを攻めてるんで秘密にして下さいねって言ったら何も言わないでくれるでしょ。
というか、誰かにテストして貰わなきゃならないんだから、一般でテストするより遥かにマシじゃ無い?」
碧が指摘する。
まあねぇ。
実際に売り出す時は『凄い効き目があるけど、まさか魔道具なんて存在しないよね?』と考える一般社会の『常識』を利用して素知らぬ顔をして流通に流すつもりだが、テストに関しては何か気になる点があったのを『気のせいだよね』で流されちゃあ困るからね。
テストだけは超常の術が存在する事を分かっている人たちに試して貰う必要がある。
「寝不足で頭が痛かったり眼精疲労に悩まされている知り合いなんて、あまり居ないもんねぇ。
柳原氏の事務所の人たちにモルモットになって貰うしかないか」
何と言っても私も碧も頭痛なんて全く縁がないのだ。
私のアイピローで神経のストレスをリセットして30分昼寝したら本当に頭痛が薄れるか、確認のしようが無い。
「試作品として機密保護の契約書でも作って、あそこでテストして貰おう。
ついでにどこにも漏らさないなら試作品を暫く安く提供しますよって賄賂をちらつかせれば更に頑張って問題点を指摘してくれるんじゃ無い?
なんだったら、売れすぎたら販売制限を掛けなきゃいけないかもと言っておけば無闇矢鱈と話を広めないだろうし」
碧が付け加える。
だね。
効果があるからと、口コミを広げられるのもちょっと困るんだよね。
ある程度は売れるのは良いけど、爆発的に人気が出たら色々と面倒な事になりかねない。