パワーナップ
ビーズ系や小豆、玄米諸々のアイピローを試してみたが、どれも可も不可も無しと言った感じだった。
「洗うのも使い捨ても微妙に大変そうだから、もっとお手軽にモコモコな生地のにヨモギやラベンダーとかのハーブと符を入れるだけの形にして、3ヶ月ごとに捨てて下さい、新しいのを送りますって形のサブスクにしよう!」
元々、ハーブの香りが不眠対策に効果を齎すって売りなんだから、長期間保つわけは無いのだ。
使い捨ては今のサステナビリティな時代では関係者全般にとって良心の咎めを多少感じさせる事業モデルだが……清潔好きでちょっと潔癖な日本人が、他人が使ったアイピローを再利用されて送られるのを許容出来るとは思えない。
許容出来るだけの洗浄なり殺菌なりをする手間を考えたら、使い捨てにする方が現実的だ。
どうせそれ程沢山売る(=作る)つもりも無いし。
「古いのを回収しないとそのまま使い続けてサブスク契約を切る人もいるんじゃ無い?」
碧が指摘する。
「単に目を覆うだけのアイピローが欲しい人はそれで良いよ。
プラセボ効果で眠れる人も。
そうじゃなくてマジで符の助けなしに眠れない人はサブスク契約を継続するでしょ」
サブスクではなく、3ヶ月で効果が切れるから買い換えてくださいって形にするだけでも良いんだけど、やっぱ3ヶ月で効果が無くなるよって言うのをはっきりと認識して貰う為には『サブスクです』って形にする方がケチって効果が切れても使い続ける人が減ると思うんだよねぇ。
「それだったらついでに、こうパワーナップ用に30分だけ眠ってスッキリ目覚めて頭痛とか眼精疲労が無くなるアイピローも作れないかな?
オフィスで短時間昼寝するにはアイピローが向いてそう」
碧が提案してきた。
「パワーナップねぇ。
30分で目覚める紋様なんて知らないけど、頭痛や眼精疲労用のは作れなくは無いかな?」
確かに忙しい日本人には必要かも?
会社で30分の昼寝を出来るかは不明だが、昼食時にネットカフェの個室にでも篭って30分寝るって言うのもありか。
「ちなみに提案しといてなんだけど、頭痛とか眼精疲労って黒魔術の符でなんとかなるものなの?
必要だったら私の符と一緒にするって言うのもありだけど」
碧がちょっと首を傾げながら聞いてきた。
「黒魔術って魂に強く効果が及ぶんだけど、肉体的な神経にもそれなりに効くから、神経のストレスとか緊張をリセットするのは可能なんだよね。
それで神経性の頭痛は大体治るかな。
くも膜下出血とか脳内での腫瘍とか言った、ヤバい病気が原因な頭痛はダメだけどね。
眼精疲労も神経の緊張をリセットして30分目を閉じていればかなりマシになる筈」
前世で頭痛持ちの同僚を助けた事が時折あったからね。
普通に術を掛けただけで紋様にはしなかったが、術を覚えているから符に描き出すのにそれ程時間は掛からない筈。
それよりも、30分で起きると言う機能を組み込む方は大変かな。
今時だったら携帯なりスマートウォッチなりのタイマーをセットして寝ろと言っておけば良い気もするが、30分程度で眠りが浅くなるように工夫しておいた方が良いだろう。
「頭痛持ちに効くなら高くても売れそう。
でも、人気が出たらそれこそ職場で使い回しされて魔力が早く尽きちゃったりしない?」
碧が問題点を指摘した。
確かに?
普通のアイピローを夜寝る時に使う分には1日一回しか使わないが、パワーナップ用だったら持ち主が起きた後に周囲の同僚が貸してくれって強請る可能性はありそうだね。
特にデスマーチ中の職場なんかで。
他人が使ったアイピローなんぞ使い回したく無いだろうが、二徹や三徹とかでフラフラしていて頭がガンガンするような状態だったら、ティッシュなりハンカチなりを間に挟んで人のアイピローでも使うかも。
「体温で温まると香り成分が飛ぶから、1日複数回使うとその分早く効果が切れますって注意書きしておいて、早く切れちゃた時用の追加購入メニューも提供するべきかな?」
まあ、ある意味デスマーチを3ヶ月も続けたら体が壊れそうだから、1ヶ月ぐらい酷使された後は仕事も落ち着いてパワーナップが必要なくなると期待したいね。
そう考えると、サブスクとは言っても、必要ない時はスキップ出来る形にすべきかな?
取り敢えず、まずはパワーナップ用の符を生成しないとだね。