快適な生活への道具
「そう言えばさ、快適生活ラボで売る商品開発、どうしよう?
流石にお守りを実家の神社に納品してますってだけじゃあ大学で起業したって言い辛い気がするんだけど」
いつもの不眠用お守りを作っていたら、碧が声を掛けてきた。
あれ?
「そう言えば、事務所を起業した頃に卒業までに何か適当にそれっぽいクッションかサポーターか何かを作って売れば良いって話をしていたっけ?」
どうせ実際の収入は退魔師としての売り上げがメインなのだが、何か副職的な収益があれば退魔協会と喧嘩別れになっても焦らなくて済む。それに友人とかに卒業後に何をやっているか聞かれた時に『退魔師』よりは『起業した』と言う方が受け入れられ易いって話だったんだよね。
本格的に働き始めて収入を得なくちゃいけない卒業まで、まだまだ時間があると思って起業した会社で売る商品に関してはちょろっと考えた後は放置していたわ。
「お守りもそれなりな定期収入にはなるし、碧のカリスマ祈祷師も意外と需要が減らないけど、確かにそろそろ卒業後の事が話題になる様になってきたよね」
インターンシップや内定の話題が飛び交う中で、『凛はどう?』と言われた際に『起業しようと誘われているの』は現時点では良いが、それなりに何か人に見せられる商品が無いと後で微妙な感じになりそうだ。
何を売っているのかとかを話せなかったら、起業形投資詐欺にでも引っ掛かったんじゃないかと心配されても面倒だし。
大学を卒業したら全ての友人関係を切り捨てる訳じゃあないんだから、退魔師の事を一般人には口にしないからこそ何かそれっぽい収入源が見せ掛けだけでもあった方が良い。
「確かにお守りを売ってますって言うのは微妙だよね。
朝から晩まで頑張って作っていればそれなりな収入になるとは言え、態々それなりなレベルの大学に行ってまでしてやる作業じゃ無いし」
と言うか、お守り作りと大学教育は全く関係ないしね。
退魔師も関係ないっちゃあ無いが。
元々、私にとっては大学に通うのは魔術を活用したちょっと怪しげな探偵事務所でも始める前のモラトリアム期間であって、実際に何か役に立つ事を学ぶとはそれ程思っていなかった。
碧に出会えて退魔協会の事を知り、碧とパートナーとして働ける様になったのは望外な幸運だったけど、ある意味私の人生設計的には入学してかなり直ぐに碧と出会えた事で『将来の為の伝手作り』と言う大学に来た目標は達成できたに近いとも言える。
まあ、それはさておき。
「何か快適な生活用のクッションとか座椅子っぽいのを適当にネットで売っている事にしようかって話だったっけ?」
碧が昔の話し合いを思い出そうと目を細めて遠くを見ながら言った。
「かも?
でも、実際に快適になる物を作るのは難しいからねぇ。
それこそ聖域の雑草と魔法陣を使えば不眠対策に効くポプリとかクッションを作れるけど、3ヶ月で効果が消えるから、返品だらけになるか、使ってボロくなったのを返金されても困るって拒否したら悪評立ちまくりになりそう」
実質お守りと同じ効果になる様に聖域の雑草と紋様を描いた符を中に押し込めば、碧だって腰痛や肩こりに効くクッションとか頭痛を和らげるアイピローみたいのを作れるが、それも効果が3ヶ月になるのが痛い。
まあ、もっと効果が長いのを作れたとしても、それはそれでヤバいから売らない方が良いだろうけど。
「考えてみたらさ。
3ヶ月ごとに買い替えし続けてくれれば効果がある物を提供出来るんだから、サブスクで提供したらどうかな?」
碧がポンっと手を打って提案した。
「……確かに?
クッションにせよアイピローにせよ、中に入れてあるハーブの鮮度が落ちるので効果が失われるから、サブスクで3ヶ月ごとに新しいハーブを入れたクッションとかと交換して新品を提供しますって言うのはありかも」
定期的にクッションの中を入れ替えるとなったらそう言うのを縫う用のミシンを買う必要があるだろうけど。
流石にジッパーでお手軽に開けて交換できる様なポケットに入れたら、中身を漁られて色々盗まれそうだ。
「ちょっと面倒かもだけど、効果は実際にあるんだから、良さを分かって貰えれば固定客がつきそうだよね」
碧が言った。
「ネットで適当にそれっぽいのを入手して、手を加えて提供すれば良いだけだしね。
実際に効くんだし、安くして私らの労働時間的に赤字になっても困るから、ちょっとオシャレなクッションやアイピローを3ヶ月ごとに私らが新規購入して手を加える手間を掛けても痛くない程度に高くして売ろうか」
退魔協会での依頼から逆算した時給と極端に乖離が無いぐらいの値段でのサブスク契約にしたら、客が来すぎる事も無いだろう。
実効性があるって言うのがバレて客が怒涛の様に押し寄せて、退魔協会の依頼をしばらく休む羽目になっても損がないぐらいの値段でサブスク提供すれば、問題ない筈。
評判になっちゃったら医療業界から横槍が入りそうだし大量に作るのも大変だから数は制限したいところだけど。
「じゃあちょっと良さげなクッションとアイピローを探さないとね。
でも、ある意味売り出されているのを勝手に部分解体して売り出すんだから、『うちの商品に何しやがる!』ってクレームを付けられないぐらい没個性的で、かつそれなりにオシャレか可愛いのにしないとだから、探すの大変そう?」
……あるんかな、そんなの?