ある種の自爆行為
なんか良いように利用された感が強くてうんざりした私たちだったが、暫くして碧が気を取り直して立ち上がり、清めの祝詞を謳い始めた。
そうだよね、此処に祀られた仏様への信仰の念で生まれた(?)氏神さまっぽい存在(仏教だと何て言うのか知らないけど)はこんな穢れた状況に残されるべきじゃあない。
一応床に倒れて居た仏像は碧が既に戻していたようだが、あとはちゃんと業者の人かお寺業界の人が廃寺する際の手続きを正式にやってここを解体してくれるだろう。
碧が祝詞を終えるのに合わせて、清らかな風が煌めきながら本堂の中を吹き抜け、穢れも怒りも綺麗さっぱり消えていった。
「あれ?? 仏像に宿っておられた存在もいっちゃった??」
怒ってはいたけど祟っては居なかったから碧の浄化の対象では無かったと思うんだが。
「なんかもう、最近はほぼ放置状態で祈りもおざなりだったし、もういいやって見捨てたみたいね」
碧が本堂を見回しながら言った。
「これだったらこの酷い状態で放置しても闇堕ちする存在が居ないけど……空いた空間に変なのが棲みついても困るだろうし、どちらにせよ解体するのが正解だよね」
祟るよ〜と脅したのはちょっと当て嵌まらなくなったが、此処に居た見守ってくれる存在に気付かなかった連中なのだ。
怒る存在が居なくなった事にも気付かないだろう。
「まあ、ちゃんと解体の手続きをしっかりやるって言うのは神の愛し子である私との約束なんだから、契約書が無くても破ればバチが当たるし。ある意味『どうぞどうぞ、約束破って良いよ』って感じだね」
碧がちょっと不快げに言った。
「ご先祖さまのやった行為をいつまでも責任取れって求めるのも違う気がしないでもないし、お花見にここを提供して色々やらかされて碧を呼び込むのが成功したのも確信犯的な狙いがあったとしても実際に悪事をした訳じゃ無いから罰せられないにしても、なんかこう、割り切れない感じだね〜」
これって利用された事に関する不快感かね?
『ここは過去にやらかした事の償いだけでなく、一族の守りと厄祓いの祈りも捧げて居た寺なんじゃ。
一族の守り神的な存在を手放したのだから、これからは色々と上手くいかなくなる。それで満足するんじゃの。
勿論、その前に約束を破れば我がバッチリ天罰を下してやるが』
白龍が現れて碧へ慰めるように言った。
「あれ、ここってイチャモンつけて襲撃して、お偉いさんを買収して死に追い詰めた一族を鎮める為のお寺だったのでは無いんですか?」
墓地に眠って居た霊は実際に昔攻め込まれた挙句に嵌められた一族の一員達だったけど。
代々祈ってきた住職さん達は、此処に埋葬された人たちでもあっさり昇天したのか霊は居なかったんだよね。
『悪い事をやったなぞ、祟りでバタバタ一族の人間が倒れて居た時期はまだしもその後は公に認めたら外聞が悪いじゃろ?
だから表向きには一族を災厄から守る祈りをやっておったんじゃ。
意外と真面目に長年祈っておったからそれなりに守り神……とまではいかなくても厄除けの効果はあったようじゃぞ?』
白龍さまが教えてくれた。
「で、今回それを要らなくなった不用品の如く捨てたと。
ざまぁってやつだね!」
碧がスリッパを脱いで靴に履き替えながら言った。
「だね〜。
退魔師として働いているなら厄除けや何百年も蓄積して来た一族の安寧を願う祈りの大切さも分かって居そうなものなにね。
当主は此処に来たことがないのかね?」
まあ、祀られる存在が怒っていない状態だったらあまり存在感が無かったのかもだが。
それでも注意して視れば気付けただろうに。
殺した一族側の悪霊が落ち着いて静かになっただけだと思っていたんかな?
「助けてくれる存在とか、災厄を弾いてくれる存在って意外と目に見えにくいからね。
親みたいな見守ってくれる存在って居なくなって初めて有り難みが分かるのと同じで、好意的な存在って気付き難いのかも?」
碧が指摘した。
まあ、確かにねぇ。
白龍さまみたいな超弩級に大きな存在はまだしも、それこそ家妖精とか座敷童っぽい存在って怒らせて祟りになるまでは助けてくれてたのを気付かない事が多いって話だもんね。
此処の存在は座敷童より多分もっと力を蓄えていたと思うけど。
まあ、取り敢えず。
また一つ地上に居た人間に好意的な存在が消えたんだね。
色々と技術と科学を発展していく中で古くからの祈りや慣習を見捨てる人が増えたのも、世の中がなんかギスギスして来ているのに関係しているのかなぁ。
まあ、昔の村社会はそれはそれで排他性がバリバリに強くて同調圧力が痛いぐらいにキツかったんだろうけど。
取り敢えず。
微妙に後味が悪い依頼だったが、少なくともちょっとはザマァがあるっぽいからそれで満足しよう。
これでこの話は終わりです。
明日は休みますがまた明後日からよろしくお願いします。