利用されてきたの?
「こないだ大学の同級生から依頼受けてたじゃない?
その呪詛を返したら、同級生の父親に金で頼まれて呪詛を掛けた弁護士が『転嫁されなかったじゃ無いか!』って父親を刺した上に、父親の依頼で呪詛を掛けたって警察に告発したんだって」
家に帰ってから、碧に大学で聞いた話を伝えた。
私一人で行ったけど、一応快適生活ラボの依頼だからね。
碧は私個人の収入にすればと言ってくれたけど、退魔協会からの収入が私個人のと快適生活ラボのと二種類あると税金の申告が面倒な事になるらしいから、快適生活ラボ内での収入計算では全額私の収入分にするにしても、形式上は快適生活ラボの依頼って事にしたのだ。
「刺された?!
って言うか、父親が弁護士に呪詛を掛けさせたって何それ?!?!」
眠っている源之助にそっと近付き、爪をこっそり切ろうとしていた碧が驚きに大きな声をあげてこちらに振り向いた。
お陰でびっくりした源之助が逃げちゃったよ〜?
「びっくりでしょ?
私も大学で西江に聞いた時、何と言って良いのか困ったわ」
つうか、西江的には事前に誰が真犯人だと思っていたのか、興味があるところなんだけどね。
折角、人の意識を読みまくって人間の汚い裏を目の当たりにする羽目にならなくていい状況に生まれたのだ。私は今世では、人の命や尊厳に関わる様なヤバい事を計画していると疑われる場合以外、基本的に人の考えは読まない様にしている。
だけど今回はかなり切実に好奇心が疼いたわ〜。でも好奇心に負けてたらキリがないからね。頑張って我慢した。
「西江家って20年ぐらい前にも呪詛返しでその父親の叔父や兄弟が死んでるんでしょ?
それって結局、その時も呪詛の転嫁をさせて他人に呪詛を掛けさせてた感じだね」
碧が指摘した。
「確かに。
呪詛返しの転嫁って珍しいとは言え、昔から完全に知られていないって訳では無かったんでしょ?
となったら周囲の人間も調べられただろうから、その20年前も弁護士なり他の知り合いなり経由で呪詛を掛けた可能性が高そうだね」
今回の呪詛返しを喰らった弁護士が何歳かは知らないけど。
もしかして、前の二回は平気だったから今回も大丈夫だと思ってやったら駄目だったってケースなのかな?
「って言うか、二回連続で呪詛返しが転嫁されたのを疑われたとなったら、退魔協会もそれなりに非難されてそう。
一応呪詛返しの転嫁を見抜く事は依頼書に明示されてない限り退魔師側の責任じゃあないんだけど、怪しい状況だったらちゃんと転嫁を回避できる退魔師を派遣するべきだったよね」
碧が指摘した。
「だね。
その時にどんな話が西江の本家と退魔協会とでされたのか、興味があるところだけど……考えてみたら、弁護士が西江父を告発した件を退魔協会は知っているのかな?」
前に成功したから、今回は妻が姪を虐待しているのが顰蹙を買っているって程度の問題で呪詛を使う気になったのかも?
成功体験って繰り返したくなるもんだよね。
「遠藤さんに教えてあげる感じで、聞いてみたら?
ついでに過去の呪詛で誰が得したのかとか、呪師が捕まる可能性がどのくらいあるのかとか、聞いておいても良いだろうし」
碧が唆してきた。
確かに気になるからなぁ。
ちょっと聞いてみるか。
と言う事で。
遠藤氏へ連絡した。
「先日の西江家の呪詛の件ですが、弁護士が依頼人の父親からお金を受け取って呪詛を掛けていたと聞きましたが、呪師が捕まったのかご存知ですか?」
考えてみたら呪師まで辿れって依頼人が要請しない限り、呪師って自分で呪詛を掛けたんじゃ無い場合は実質殺人の幇助をしても捕まらないよね。
一応警察が呪詛を掛けた人間から辿れないか探しはするらしいけど、それこそ殺し屋の依頼と同じでこう言うプロって依頼主からあっさり辿り着けるような連絡の取り方はしてないんだろうなぁ。
『前回も今回も、呪師は捕まっていませんね。
その呪師は今回返された弁護士の叔父経由で紹介されたと西江信三は警察に言っているそうですが』
遠藤氏が教えてくれた。
うん? と言う事は。
「その20年前の呪詛事件も西江君の父親がやったと本人が認めたんですか?」
呪詛返しの転嫁まで付けた上に弁護士に金を払ってやらせているのだ。『上手くいくと思いませんでした』の言い訳が通用するとは思わないが、自発的に認めるとは思わなかった。
『弁護士の方が、叔父が西江信三に依頼されて呪師に呪詛の依頼をしていたと証拠付きで証言したので、『上手くいくと思わなかった』デフェンスは使えなかったそうです』
遠藤氏が言った。
流石弁護士。
証拠固めは自分の前の分も合わせてしっかりやっていたんだね。
呪師を紹介された側と呪詛依頼を実行した側で、どちらも後ろ暗さ満載だけど。その弁護士の叔父とやらは既に他界しているのかな?
「ちなみに西江信三は他にも誰か呪殺していたんでしょうか?」
二回連続で上手く行っていたなら、20年間も待たずにまた利用しそうなものだが。
『仕事で競争相手の足を引っ張る程度の軽い呪詛はずっと使い続けていたらしいですが、今回は奥様の態度があんまりだったのでついやってしまったと警察には言っていますね。
実際のところはそろそろ老けてきて口煩い妻を捨てて若い愛人に乗り換える際に、財産分与を避けるのに丁度いいと思っての行動のようですが』
遠藤氏が言った。
うわぁ。
「西江信三って呪詛返しの転嫁で邪魔な人間を殺すタイプなんですね。もしかして、そう言う人って今までにもいたのに退魔協会は何も手を打ってこなかったんですか?」
最近になって呪詛返しの転嫁がやたらと増えたせいで返す際にも注意するようになった様だが、以前は数が少なかったからって転嫁を気にせずに返してたの??
数が少なかったって話だって、本当にそうだったのかちょっと疑問に思うのは私だけ?
『一応呪詛返しの転嫁が疑われる案件ではできる限り転嫁を回避できる術師を送る様努力してきましたが、何分できる人材が少な過ぎるので……』
溜め息混じりに遠藤氏は応じた。
マジか。
もしかして、大学を卒業したら私は転嫁付き呪詛返しの依頼を次から次へと延々とやる羽目になりそうなの??
うげぇ〜。
取り敢えず、ここでこの話は終わりとします。
明日は休みますが、また明後日から宜しくお願いします!