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刺された?!

「父が刺されたよ」

 呪詛返しの依頼を終わらせた数日後、こないだの呪詛を返してあげた講師の授業に出たら西江に声を掛けられた。


「刺された??

 呪詛返しを受けたのではなく?」

 適当に大学構内にある林っぽい緑の多い区画を歩き回りながら詳細を尋ねる。

 立ち止まって他の人がいる様なところで話す話題では無いだろうが、態々カラオケで昼食を食べる程の内容ではない。

 父親が刺されたなんて食欲が失せる話題だろう。

 と言うか。

 父親が刺されたのに大学に来てるの??


「妹のご両親が亡くなった時に色々と手続きをしてくれた、父が個人的に雇った会社の顧問弁護士が呪詛を掛けたらしい。

 どうも父に依頼されてやったそうだ。呪詛返しが来て、『約束が違う』と父のフロアにまで執念で来てハサミで刺したと言う話だ」

 西江が無表情に教えてくれた。


 顧問弁護士って社内ではなく別の場所に自分の弁護士事務所を開いていそうだけど、偶然呪詛が返された時に西江父の勤務先に来てたのかね?

 それとも根性でタクシーを捕まえて出張って来たのか。


 若い女の子が入院しちゃう様な呪詛の倍返しなんだから、その弁護士が動けた事が意外だ。呪詛返しも徐々に体調が悪くなるタイプの効果だったんだね。

 妹さんに掛けられていたのは内臓がゆっくり時間をかけて壊死していく呪詛だったが、考えてみたら妹さんはそれこそ数年掛かってあそこまで体調が悪化したんだろうし、死ぬとしてもまだまだ時間が掛かるだろう呪詛だった。返された効果が早送り的に出るとしても、激痛は凄いし最終的には死ぬ可能性が高いにしても、体はまだ暫く動く状態だったんだろう。


「ハサミって事は大した怪我では無かった?」

 ぐっさり目を刺されたとか、偶然大きな動脈が切られたんじゃ無い限り、ハサミではそうそう人は死なないよね。


 そう考えると、弁護士さんは偶然社内にいたんじゃ無いかな?

 態々タクシーで外から来るんだったら包丁なりカッターなり、もう少し殺傷力の高い凶器をゲットしてから襲いかかるだろう。


「怪我自体はそれ程でも無かったけど、その弁護士が父に依頼されて妹に呪詛を掛けた事を警察に告発したから、父も逮捕されている」

 西江がそばにあったベンチに座り込みながら言った。


 座って話すと関係ない人に話を聞かれるリスクが高まるけど……警察に告発されたならニュースが漏れるのは不可避だと思っているのか、そんな事を気にする気力も失せて来たのか。まあ、近くに人は居ないからいいか。


「遺産狙いだったの?」

 入院させるんじゃあ出費が嵩むと思うが。それとも怪しまれずに遺産を受け取るために必要な経費だと思ったんかね?


「母が人目を憚らずに妹を邪険に扱っていたから、それを止めるのが一義的な目的。呪詛で死んだらそれはそれで遺産が入るから良いと言っていたらしい」

 西江が言った。


「ちなみに、約束が違うって言うのは、呪詛返しをやらせない筈だったから?」

 西江が勝手に自分が貯めたお金で呪詛返しを手配したせいで父親が逮捕されたとなると、中々微妙な心境かも。


「いや。

 元々、呪詛返しは母に転嫁される予定だったんだ。

 呪詛がそのまま完了して妹が死んでもいいし、呪詛が返されて転嫁先の母が死ぬのでも妻による孤児になった姪への世間体の悪い虐待は終わるし生命保険も入る。

 どちらでも金が入るし、危険もないって話だったらしい」

 膝についた手で顔を覆いながら西江が言った。


 えぇ??

 呪詛で姪、失敗しても呪詛返しで妻を始末するプランだったの??

 無駄がないかもだけど、家族に対して冷血極まりないね。


「ちなみに、自分でやらずに弁護士に呪詛を使わせた理由は?」

 転嫁先を提供するとはいえ、今回みたいにそれを回避されるリスクはあるんだから呪詛は絶対に安全と言える攻撃手段ではない。弁護士にやらせるのだってそれなりに対価を払う必要があった筈。

 弁護士にとってはリスクはごく僅かで入ってくる金は大きい美味しい頼まれ事だったんだろうけど、カルマ的にはかなりマイナスそうだ。まあ、そう言うのは気にして無かったんだろうけど。


「呪詛で死んだ事がバレた場合に遺産や生命保険の金が入る父が疑われる可能性は高いから、それを避ける為に弁護士に大金を払ったらしいね」

 深い溜め息を溢した後、顔を上げて西江が立ち上がった。


「確かに、会社の顧問弁護士なんて利害関係者としては上がってこないでしょうね」

 とは言え、警察に疑われなくても呪詛返しで死ぬ可能性があったんだけど。しかもその弁護士だって呪詛を掛けたって事で今回は殺人未遂で逮捕だよね。

 もっとも弁護士本人は自分が助からないと思ったから、大々的にやった事を認めつつ西江父を道連れにしようと刺した上で告発したんだろうけど。


「まあ、取り敢えず妹は元気になったし、母は父が呪詛返しで殺そうとしたと知って離婚届を残してさっさと家を出て行ったから、問題は無くなったと言えなくもないかな?

 父が殺人を依頼した罪で逮捕されたから、家には妹と俺だけになったけど」

 ちょっと複雑そうな歪んだ笑いを浮かべながら西江が言った。


 呪詛にドロドロな感情が付着してなかったのは、完全にビジネスな取引で代わりにやった代理殺人モドキな呪詛だったからなんだね。

 何と言ったら良いのか。


「え〜と、これから大丈夫そう?」

 父親が逮捕されて母親が消えちゃった場合って、生活費はどうなるんだろ?

 と言うか、夫は逮捕されたんだから、殺され掛けたとは言っても子供の世話ぐらい母親としてちゃんとしなさいよ!

 まあ、家に居たら帰ってきた妹さんを虐待しそうだからそれはそれで問題かもだけど。


「まあ、何とかなるだろ」

 ちょっと疲れた様に西江が言った。


 西江も成人しているんだから、両親はどちらも妹さんを害そうとしたって事で妹さんの後見人に西江がなれば、妹さんの生活費とかも遺産から何とかなるかも(あればだけど)だし、西江が上手くちゃんと就職できれば西江本人もなんとかなりそうだが。

 父親が殺人を依頼したって言うのは風評被害が出て就職に差し支えそう。


 まあ、呪詛関連だったらワンチャン政府とか退魔協会が情報を消して回る可能性もある?

 どちらにせよ。

 子供側にとっては良い迷惑だよねぇ。


「まあ…‥頑張ってね」



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― 新着の感想 ―
>家族に対して冷血極まりないね そういう性格だと、誰に対しても冷血でしょうから 相当余罪がありそう
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