思ったより面倒そう・・・
「工場見学とかってよく聞くから、水力発電をやっているダムの見学とかも簡単に行けるかと思ったんだけど・・・車がないと中々厳しいのね」
1時間近くタブレットで色々調べたものの、思うように情報が見つからなかった私は思わず溜め息を吐きながら碧に愚痴った。
「うん?
無いの?」
オモチャを振って源之助を誘惑しながら碧が聞いてきた。
「自力で行けば見学させてくれる発電所やダムはある事はあるけど、都合よく新宿や東京から近くまで来る長距離バスが出てるのは無いみたい。
ダムも最近は観光地化して直通の移動手段が出来たかと思っていたんだけど、甘かったわ〜。
あと、ダムって長野県とかに多いみたいだから、ちょろっと気軽に日帰りで行くには向かないね」
しかも、古い発電所の方が時間の経過と共に精霊モドキが生じている可能性が高くなる筈なのに、古いと廃止されていたり、ボロいから見学させたく無いのか見学情報が無かったり。
お陰でお手軽に紅葉狩りのついでにでも行こうかな〜と言う安易な考えは早速座礁に乗り上げていた。
「長野って言ったらウチの実家の近所?
だったらまた来年の春か夏休みに戻る際にでも一緒に行かない?
その頃だったら源之助が大きくなっていて留守番も出来るだろうから、車をレンタルしてちょっと遠出しても良いし。
それまでにどうしてもオンラインで何かしたいんだったら、大学でコンピューター関連が得意な人を探せば?
今時だったらハッカーもどきな人だって校内にそれなりに居るんじゃないの?
じゃなきゃ東京タワーでも登ってみるとか。
あれだって電波塔という事でそれなりに電気系のエネルギーに満ちてそう」
ひょうひょいっとオモチャをソファの後ろに出しては引っ込めてを繰り返して源之助を右へ左へとジャンプさせながら、碧が提案した。
東京タワーか。
確かに一番お手頃に行ける場所だね。
都心のど真ん中にあるし。
そんじゃあ水力発電所の方は碧の里帰りのついでにでも試してみるとして、手始めにまず東京タワーをじっくり探索してみよう。
白龍さまの聖域に近くて魔素が多い地域の発電所の方が、精霊モドキが生じている可能性が高いかもだし。
源之助に留守番をさせるなら一泊二日での短い里帰りになりそうだからあまり時間は無いだろうが。
青木氏の猫部屋モドキに預けるのもありかな?
じゃなきゃ車に乗せて一緒に連れて行くか。
まあ、クルミ経由で尋ねて本猫の意向次第ってところだね。
「そうね。
発電所は碧に里帰りまで待つことにして、取り敢えずは東京タワーに行ってみるわ」
ガバッとソファの影からオモチャに飛び掛かった源之助をむぎゅっと抱き締めてモフモフを堪能しながら、碧がふと首を傾げた。
「火力発電所じゃだめなの?
火力発電だったら海沿いの工業地帯にでも古いのがありそうだけど?」
「うん、見学させてくれるかは書いてないけど品川や大井、川崎や横浜にもあるんだけど・・・火だからねぇ。
電子の精霊モドキだと思っていたのに火精霊の赤ちゃんだったりしたら、ヤバいから。
家の中だったら炎華が抑えてくれる可能性は高いと思うけどさ。
どちらにせよ、水精霊の赤ちゃんならまだそれなりに使い道があるけど、火じゃあライターやマッチが普及している現代社会ではあまり使い道が無いからね〜」
火精霊の一番の使い道は発火だ。
元素魔術に適性が無い私が魔力を供給しても、火の攻撃魔術は一発か二発でエネルギー切れになる。なので実戦ではほぼ使えないし、悪霊系しかほぼ居ない日本だったら私の素の能力で闘う方が使い所に注意が必要な火魔術を使うより効率的だ。
下位の火精霊は前世だったら野宿する際には非常に役に立つ使い魔になったが、今世では野宿なんぞしない。
そうなると他は放火程度にしか使い道がなく、放火魔になるつもりが無い私としては危険だけあって使い勝手の悪い使い魔になる。
「火の精霊っているの??」
ちょっと興味を持ったように碧が聞いてきた。
「電気が溢れるところで電子の精霊が生じるなら、火のエネルギーが過剰にあるところで火の精霊が生じていてもおかしくないと思うよ?
前世では火山地帯に多かったから、こちらも桜島とかにならいるんじゃない?
火力発電所とかも可能性はありだろうね」
まあ、火山王国と言っても良いぐらい火山が多い日本なのにあまり火精霊系の伝説を聞かない事を鑑みるに、地球の魔素が薄すぎてそう簡単に精霊が具現化出来ない可能性は高そうだが。
「ふうん。
でもさぁ、火精霊モドキが危険なら、電気の精霊モドキも危険じゃない?
落雷とかでも火災は起きるんだから、電気系の精霊だって火精霊と同じぐらいヤバい気がするけど」
再び猫じゃらしを手に取って源之助に向かって振り始めた碧がちょっと首を傾げた。
「まあねぇ。
元々ネットやPCにアクセスさせるなら微量の力をデリケートに使って貰う必要があるから、量より質的な感じで与える魔力を絞って被害が出ないようにしたいなぁと思っているよ」
どのくらい友好的に付き合えるかにもよるけどね。
まあ、大前提として精霊モドキを見つけられ、使い魔になって貰え無ければ話が始まらないんだけど。