設置。
「おや、まだ微妙に残ってるじゃん。凄いなぁ」
先日碧が受験会場に設置した浄化結界の場所に来て、思わず驚きの声が漏れた。
もうあれから1ヶ月半も経っているのに、微かに浄化効果が残っている。
最初の結界はかなり早い段階で弱っていたし、2日目に設置したのだって3日目に来た時にほぼ無くなっていたのだから、当然3日目のやつはとっくのとうに空気に溶け消えていると思ったんだけど。
あの時は受験という普段よりも通行者が多い状況だったから早く消耗していたのかね?
まあ、取り敢えず大学の構内側に浄化結界をもう一枚設置しよう。
私たちの大学ほどでは無いが、それなりに薄っすらと呪詛の瘴気が頭の周辺に漂っている人がいるからそこそこ魔力を込めておかないと一週間は持たないだろうなぁ。碧の結界も近いうちに消えるだろうし。
一週間保ってくれれば大体の被害者を一巡できると期待したいところなんだけど。
さて。門の内側に板…‥と言うか20センチ厚ぐらいの壁状に浄化結界を張ろう。
普通の瘴気とか悪霊は今回はどうでも良いので、結界を長持ちさせる為に呪詛にだけ焦点を当てた結界にする事で魔力の消費量を抑える。
私の魔力は碧のみたいに呪詛特攻持ちじゃないから、工夫しなくちゃ直ぐに効果が尽きて消えちゃいかねないんだよねぇ。
その場で浄化の術を掛けるだけなら特に問題は無いが、黒魔術師の魔力は呪詛に対して特に効果が高い訳ではないので、魔力の消費量はそれなりになる。
今回はあの弱い呪詛を返せば良いだけなので、ちょっと弱めだけど長持ちする様に持続性に配慮した感じに術を込める。
魔術って意思の力の具現化だから、意外と融通が効くんだよね。
だから普通に何も考えずに設置した浄化結界だったら汚れや悪霊も浄化しちゃうんだけど、今回のは呪詛のみを対象とし、強すぎる場合は弱めるだけで通す感じに。
「これでどうかな?」
術をかけ終わり、ちょっと離れたところで待ち合わせをしている様な顔をして携帯を弄っているフリをして立つ。
五分ほどで呪詛を頭につけた男が通りかかった。
が。
外から来たので碧の結界に触れたらそこで呪詛が返されてしまった。
おっと。
と言うか、内側に設置したから、碧の結界が完全に消えるまでは大学構内に居る間に呪われた人が中から出ていく場合にしか効果を確認できないや。
考えてみたらこっちの大学の方が呪詛憑きの人が少ないのって、碧の結界で返されてるからか。それでも中に呪詛憑きの人が居るから、もう一つの門に設置した浄化結界は消えてるんだろうな。
う〜ん。
外側に設置してもその直ぐ内側に碧の結界があったらそっちで祓われるから確認は難しい。
どうすっかなぁ〜と思いながらもう一つの入り口の方へ行ったら、そちらの方が呪われた人の通行量が多かったのか、やはり碧の浄化結界が完全に無くなっていた。
こっちを通る人の方が呪いを掛けたくなる様な輩と付き合いが多いのか、それとも単なる偶然でこっちに強い悪霊か呪詛を憑けた人が通って結界の力がそれで使い尽くされちゃったのか。
興味があるところだけど、調べようが無いね。
取り敢えず。
さっきと同じ様に呪詛特化の弱いけど持続性重視な浄化結界を門の内側に設置する。
悪いが、大学の前を歩いている普通の歩行者は対象外だ。
まあ、元々一般人がそれ程呪われるとは思わないけど。
そこそこ呪師が捕まっているのに呪詛被害が増えているのって、最近の人は『人を呪わば穴二つ』と言う言葉を信じずに、人への悪意をお金で安易に具体化するのを躊躇わなくなっているのかね?
海外で極右の政治家やとんでもポピュリストな野郎が選挙に勝ったりしているニュースを見て、日本はまだマシだよね〜と思って居たけど、日本も社会に不満を抱く人が増えているのかな?
昔より平均寿命が長くなったし、ウサギ小屋と言われる程小さな部屋に家族で暮らして毎日ちゃぶ台を片付けて布団を敷いて一緒に寝る様な貧しい生活をしている人も減った筈なのに、なんで世の中はもっとギスギスしてきているのかちょっと不思議だ。
そんな事を考えながら結界を設置し終わり、また人を待っている感じに携帯を弄りつつこっそり見守って居たら、十分後ぐらいに薄い呪詛を漂わせた人が外から入ってきた。
しゅぽん。
私の設置した浄化結界に触れたらペロンと言いたくなる様な感じに呪詛が剥がれて返っていった。
うわ〜。
弱い呪詛を私が返すとああなるんだ。
碧の結界だと触れた瞬間に溶けた様に消えてたんだけど、ちょっと違うんだねぇ。
まあ良いや。
これでこの大学に通う学生で呪詛を掛けられた人は大体返せる筈。
3日後ぐらいになって、まだあのサイトの運営者が見つけられていないようだったら結界の魔力を充填する必要があるか、確認しに戻って来ても良いかも。
さて。
次は池袋だ。