天罰デフェンス
「親切だね〜。
でもこれ、車通勤な教員にはダメじゃ無い?
まあ、都心だったら車で通勤する人はあまり居ないかもだけど」
正門前の結界を満足げに見ている碧に声を掛ける。
「一応職員用駐車場からの入り口にも設置しておいたから、大丈夫でしょ」
碧が応じた。
うわぁ。
マジで徹底してしっかり消すつもりなんね。
かなり魔力が籠っている感じだから、これだったら一週間ぐらい保つかな?
弱いのがわらわら通る程度なら良いが、強い呪詛を掛けられている人が偶然通ったらダメかもだけど。
「警察があのサイトをさっさと潰してくれると良いんだけど。
つうか、考えてみたらあのサイトっていつからあったんだろうね?」
こんな弱い呪詛は2月の受験会場依頼の時には特に見た記憶はないが、受験生と大学生とじゃ交流関係が違うからヤバいサイトが流行るタイミングもズレるのかも。
その前のこっちの大学での試験時にも多分無かったと思う。最後のラストスパート的な復習に忙しくて気付かなかった可能性もゼロでは無いけど。
「年度末の試験の時は今日みたいに構内中が瘴気まみれじゃ無かった筈だから、始まったのがいつだったか不明だけど流行ったのは3月の間なんじゃない?
今日みたいに頭が痛かったら、絶対に試験に気が取られていても気付いたと思う」
碧が顔を顰めながら言った。
あれれ?
「この程度で頭が痛くなるの?
普段仕事で遭遇するによりもずっと薄いでしょうに」
どうやら親切心よりも、頭が痛くなると言う切実な個人的事情で浄化結界を設置したらしい。
瘴気からくるマイルドな不調って白魔術の回復で必ずしも治せるモノじゃ無いらしいからねぇ。
「なんかこう、色んな種類の呪詛が近くに複数あると変な感じに共鳴して変質するみたい?
変な音と言うか、波長が発せられる感じで頭が痛くなるのよ〜」
碧が首の後ろを揉みながら言った。
へぇぇ。
碧の学部に特に呪詛の被害者が多かったんじゃ無い限り、これって白魔術師の意外な弱点って感じ?
まあ、部屋の中を全部さっと浄化しちゃえば問題解決なんで、弱点と言う程の事でも無いんだろうけど。
「じゃあさっさと家に帰って、田端氏に早くサイトを潰してよとせっつこう。
あ!
碧に苦しみを与えたんだから、白龍さまがあのサイトの運営者に天罰を下せられないかな?!」
上手くいけばあのサイトの運営者を罰せられる?!
どうせなら呪詛返しを喰らえ!と思うんだけど、そうじゃなくても苦しむ天罰だったらなんでも良い。
『ふむ。
確かに、あの『さいと』とやらが我が愛し子の苦しみに繋がっておるの。
倍返しされた呪詛の半分が、呪詛を売り出していた輩達に行く様にしよう』
白龍さまが現れて頷いた。
お?!
「それってあのサイトで売った呪詛が返されたの全部ですか?
それとも碧が苦痛を受けた分だけになります?」
碧が苦痛を感じた分だけでも無いよりはマシだけど、どうせなら売った分を全部、返って欲しい。
警察に捕まってサイトを閉鎖する事になっても違法行為で儲けた金が全部ちゃんと没収されるか不明だし、みみっちいし個々の呪詛に致死性が無いからって事で罰則も連続殺人より緩い扱いになる可能性もある。
だからこそ、呪詛返しで死ぬほど苦しんで貰いたいね。
『己らが世に放った呪詛全ての返った分にするのが因果応報じゃろう』
白龍さまが重々しく応じた。
「おっしゃ!
ありがとうございます!」
この数の呪詛を売っているのだ。
今日とこれから数日の間にこの大学で返される分だけでも寝込むぐらいの効果は十分にあるだろう。
複数の呪詛が返ってきて混じり合ったら、それこそ碧の頭痛じゃ無いけど変な感じに変質してガッツリきついモノになる可能性も高そうだ。
やったね!
「ちなみにあのサイトって何人ぐらい関与してるのか、分かりますか?」
碧が白龍さまに尋ねた。
そう言えば、呪師が一人でやっているのかと思っていたが、『輩達』って言っていることを考えると複数だよね。
呪詛担当とサイト担当で二人?
プラス金関係とかで三人かなぁ。
金の流れも警察に簡単に追って取り返されない様に、それなりにマネーロンダリングとかの知識がある人が必要なのかも?
『そこそこな人数の集団が関与しておるようじゃぞ?
だが売った呪詛の量も多いから、問題なく全員無効化されるじゃろ』
白龍さまが教えてくれた。
え??
そこそこな人数の集団??!!
個人のショボイ金儲けじゃなくて、どっかの犯罪集団の収入源なの、あれ??