やっちゃった?
今日は碧も私も取ろうと思っている講義があるので一緒に大学に向かった。
向かったのだが……駅から大学に向かい、正門前の構内への銀杏並木っぽい一本道に来たところで碧が唖然として足を止めた。
「うわぁ〜。
確かに流行ってるねぇ」
昨日と同じ様に、今日も薄っすら弱い呪詛を受けた黒い靄の様なモノが頭の上に漂っている人間がかなりいる。
考えてみたらこれってあの呪詛幇助サイトが潰されたにしても、既に呪詛を掛けられた人の呪詛は消えないよね? どうなるんだろ?
日本人だったら新年とかに初参りする可能性は高いし、誰かと旅行に行ったりした場合も国内だったら近くの神社とか寺に観光ついでに寄って五円払って軽く祈るぐらいはするだろうから、どこかでいつかは呪詛返しが成立するとは思うけど。
流石に1年近くこんな状況が続くと考えると、微妙な心境だ。
「これで儲けたサイトの運営者に呪詛返しも行かないなんて、なんか悔しい心境だわぁ」
溜め息を吐きながら再度歩き始めた碧が言った。
「呪詛を売ってるんだから呪師扱いで、初犯だろうが警察に摘発されたら一発でアウトなんじゃない?」
呪師の刑罰が司法上どうなのかは詳しくは知らないが、基本的にまだ殆ど何もやった事が無い見習い程度じゃない限り実質大量殺人鬼扱いだと聞いた気がするから、あのサイトの運営者も二度と外に出られない状態になる……と期待しよう。
だけどマジで呪詛返しがサイトで金を儲けていた奴に行かないのはムカつく。
まあ1000円だからって気軽に人を呪おうとした購入者もダメダメだけどさ。
「じゃあ、また後でね」
碧と別れ、自分の講義の方に向かう。
何人か知り合いがいたが、今度は誰も呪われていなかった。
知らない男女数人が呪われていたけどね。
どうせ本格的に講義が始まる頃には授業に物理的に参加する人間はぐっと減るのだ。
その頃になれば呪詛も気にならないだろう。
そう思っていたのだが。
セカセカと部屋に入ってきた講師を見て、思わず頭を抱えた。
呪われてんじゃん!
考えてみたら、単位をあげなかったとか、テストの評価が低かったとか、教室でお喋りをしているのを注意したって言うのでも生徒から恨みを買いかねない職業だよね、大学の教員って。
大学の内部でもアカデミアの陰湿な闘いがあるらしいし。
まあ、教員内部だったらマジもんの呪師が雇われる可能性の方が高いかな?
下手に1000円なんて言うしょぼい詐欺もどきなのに手を出して、そこが摘発された際に利用者として名前が漏れたりしたら名門(一応?)大学の教員に相応しくないって進退に影響が出る可能性があるかもだからね。
本来ならば詐欺の被害者っぽい立ち位置かもだけど、それこそ児童ポルノサイトの詐欺で利用者として摘発されるのと同じで、利用者もお世辞にも無実とは言えない立場だからねぇ。
それはさておき。
考えてみたら、前期の試験の結果が出るまでにサイトが潰されなかったらマジで教員達が呪詛塗れになるかも。
弱いとは言え、ああ言うのでも何重にも掛かったら危険そうだなぁ。
そんな事を考えつつ、講義の内容に耳を傾ける。
承認欲求とか、なんか聞いたことがある言葉が出てきている。中々分かりやすくて悪くない講師なんだよね、この人。
取り敢えず。
講師が体調不良とか精神的異常で講義が休講になったり途中で担当が変更されたりしたら困る。
なので講義が終わったところで前の方へ行き、質問をする集団に紛れ込んだ。
意外と人数が多かったので、待ってらんね〜とちょっと魔力を放出させてやんわりと威嚇して他の学生を追い払った。
悪いけど、質問があったら来週にして下さいな。
「あ、ちょっと糸が付いていますよ」
黒板に書かれた内容に付いて適当にサラッと質問しつつ、糸が垂れていたと言って肩を払う。
ついでに呪詛返しだ!
今回の呪詛は、『人の話が聞こえにくくなる』と言う呪詛だった。
声じゃなくて話が聞こえ難くなるって、人の話に耳を傾けなくなるって事かね?
……アメリカ人なんかは生まれつきこの呪詛に掛かってない??
そんな事を考えつつ、取り敢えず呪詛を返しておいた。
再度呪われない限り、これでこの講義は大丈夫な筈。
まあ、助けてあげても恩知らずな事に単位をもらえない可能性もあるが。
通り魔的な手助けって支払いは勿論、恩すら認識して貰えないからちょっと悔しいんだよねぇ。
そんな事を思いながら次のコマに向かい、夕方になったら出口に向かう。
「……あれ?」
正門のところに、先日の国立名門大学でやった様な碧の呪詛返しの結界が設置されていた。
碧がやったのかな?