要らない技術革新
「うわ〜。チリつも狙い?」
萌から恭弥氏経由でサークルの女性からオカルトサイトのアドレスを入手して貰い、帰ってから確認したら中々凄いサイトだった。
「どしたの?」
源之助のブラッシングを終えた碧が聞いてきた。
「なんか大学に行ったら妙に軽い呪詛に掛けられている人が多くってね。
クラスメイトにも掛けられているのが居たからランチついでに話を振ったら、偶然彼女は知り合いから呪いを手伝ってくれるオカルトなサイトがあるって聞いたらしくて。
それを教えて貰って確認したのが、これ」
サイトが出ているタブレットのスクリーンを碧に見せる。
「なになに?
躓きやすくなる呪詛や足の小指を扉や箪笥にぶつけて易くなる呪詛、水虫になり易くなる呪詛?
ありがちだけど地味に嫌なのを集めた感じだね」
碧がスクロールしてサイトを確認しながらコメントした。
「私の知り合いが掛けられているのは粘着タイプな男を引き寄せる呪詛。実際に嫌なタイプの男にインターンシップ先で粘着されて困っていたから、当たりな神社を縁切りに良いらしいよって言って勧めておいたけど。
一回1000円で下手したらストーカー男に粘着されるかも知れない呪いなんて、意外と危険だよね」
小指をぶつける程度はいいけど、躓きやすい呪いだって場所によっては危険だ。
このサイトでは、お金を払ってプリントアウトして、呪いたい相手の髪の毛や爪の欠片などの体の一部を包んだ上から自分の血を数滴垂らして燃やすと呪詛が成立すると書いてあった。
「これってプリントアウトしたのをコピーして再利用したらどうなるんだろうね?」
碧が支払い方法のページを見ながら首を傾げた。
「無断コピーしたら禿げる呪いを掛けると書いてあるから、ある意味効果があるから再度呪詛を使いたい客だったら禿げる呪いを受けるリスクは避けるんじゃない?」
呪詛そのものは1000円。弱いとは言え実効性のある呪いだとしたらささやかな値段なので、ケチる必要もさほど無さそうだし。
「なんかこう……『人を呪わば穴二つ』と大きくサイトのトップに書いてあって一見呪いは良くないですよ〜と言いつつ1000円で売っているところが嫌味だね」
碧が眉を顰めながら言った。
「だねぇ。それがサイトの名称にもなっているみたいだし、呪詛返しは倍の効果でそれに関しては自己責任だから苦情は受け付けませんとあちこちに執拗に書いてあるけど、あれだけ大学の生徒が呪われているとなると、学生の間でサクラでも使って冗談半分な感じに流行らせて金儲けしてるのかな?」
考えてみたら、大学で今日私が見かけた人数に1000を掛けたら、それだけでも数万円の売り上げにはなっている筈だ。
他の大学とかでも流行らせていたら、実はかなりの儲けになっているかも?
呪詛をこんなお手軽に売って、同業者から制裁を受けないのか気になるが。
「金儲けもだけど、これってどうやって機能させてるんだろ?」
碧が首を傾げた。
「呪詛の詳しいメカニズムは知らないけど、私の知っている常識だと紋様と血と相手の体の一部があったら燃やすだけで機能するなんてあり得ないと思うから、何か新しい技術的ブレークスルーがあったんだろうねぇ。
呪いたいと言う恨みというか熱意があったら上手く機能する助けがこの紋様なのかも?
とは言え、流石に以前伝達速度を調べる為に試したニキビと違ってこれはやってみる気にはなれないけど」
しかもこれって呪詛返ししてもサイトの運営者じゃなくて実際に呪詛を掛けた購入者に行くから、サイトを作った呪師は呪詛返しの危険なしに儲けられて、ウハウハなんじゃないかな。
「これじゃあ、それこそ誰かが私を呪ったとして白龍さまに天罰デフェンスして貰ってもサイトの運営者を罰せられるか微妙なところだね。
私らでなんとかするのは諦めて、田端さんにでも教えて警察に対処して貰うしかないかな?」
碧が言った。
「確かに、退魔協会がなんとかしてくれるかはかなり怪しいから、警察にこの呪詛は実際に効果がある様ですよって伝えて摘発して貰うしかなさそうだね」
退魔協会はお金を払えば呪詛返しをしてくれるだろうけど、事前に呪われない様にこう言うサイトを潰す方に労力は掛けてくれないだろうから、やっぱ警察しかないよね。
折角呪師が減ったのに。こう言う嫌な方向な技術革新なんて必要ないぞ!