粘着引き寄せ?!
「最近は体調とか、どう?
なんか新型の感染症が密かに流行っているなんて噂も聞いたけど」
講義の後、萌を駅のそばのイタリアンまでランチに誘い、不調について言い出しやすい話題を挙げてみる。
「え〜、そうなの?
体調は問題ないかなぁ」
メニューを見ながら萌が答える。
あれれ?
体調不良系じゃない呪詛なのかな。
確かに顔色はそれ程悪くはないが、少しオーラは疲れた感じがある気がするんだけど。
「そうなんだ?
春って新しい事が多くてストレスが溜まりやすいから疲れやすいし、変な行動する人も多いらしいから、何か相談したい事があったら良かったら頼ってね〜。
話を聞くだけしか出来ないかもだけど、気休めにはなるかも?」
体調不良系じゃなければ、精神的に不調を起こす系が呪詛だったら多いと思うんだけど。
携帯で選ぶオーダーを入力した萌が一瞬手を止めてから、ちょっと困った様に息を吐いた。
「実は、最近ちょっとキモい男に良く声を掛けられてて困っているのよねぇ。
だから誰かから私の連絡先とか聞かれても、私に直接確認しない限りチャットのIDとかメアドとか携帯番号を流さないでね」
ううん?
ヤバい男を引き寄せる様な男運ダウンな呪詛?
ちょっと想定外だけど、軽い気持ちで気に入らない相手に呪詛を試すにはありそうかも?
今時だったら変なストーカーに粘着される様になる呪いって実は実質殺人狙いになりかねないけど。
と言うか、そう言う呪詛って返されたらどうなるんだろ??
「うわ、無害な相手でも嫌だし、キレちゃう様な相手だったら下手したら危険かもって感じだね。
最近ストーカー系の被害ってマジで危険なのもあるみたいだし、一応警察に相談してみたら?そこまで大事にしたくないって言うなら少なくとも大学側には相談して、それこそ個人情報の漏洩防止に関して釘を刺しておけば?
バイト先の知り合いなんだったら、下手に個人情報がバレる前にバイトを変えるのもありかもだね」
いや、インターンシップならまだしも、4年のこの時期にバイトはしてないかな?
弱い呪詛ってこう言う場合だとどのくらい効果があるんだろ?
前世だったらそれこそ魔力持ちだったら弱い呪詛なんて弾き飛ばしちゃうから、ここまで弱い呪詛モドキなんて実質ほぼ見た事が無かったからなぁ。
「そうねぇ。
ただ、就職先として良いかなぁと思っているインターンシップで一緒になった人なのよ。
微妙にキモい人がいるからって働きがいがありそうな所を私が諦めるのも業腹じゃない?」
萌が悩ましげにため息を吐いた。
「確かに。
とは言え、変な同僚がいたら結局職場だって諦めて転職する羽目になるかもよ?
そのインターンシップ先の内定率がどの位かそれとなく確認して、何だったら人事の人かインターンシップでの上司の人にでも、そいつに何度か誘われてちょっと気不味い関係になっちゃったけど彼もインターンシップ先に就職希望なの聞いてみるとかしてみたら?」
同じ職場になった場合、同僚によるセクハラやストーカー被害を相談しても満足できる対応をして貰える勤務先かは不明だからねぇ。何と言っても、日本ってそう簡単に人を解雇できないから。微妙な粘着度程度な男は扱いが難しい可能性が高いし、下手したら萌側に自意識過剰なクレーマーもどきな評判が立つリスクさえある。
八幡先輩の時みたいに、露骨でかつ他にも被害者がいる様な状況じゃないとしっかりとした対処は難しそう。
「そうねぇ。
ちょっとインターンシップでお世話になっている女性に相談してみようかなぁ」
萌がため息を吐きながら言った。
「まあ、今すぐ行動しなきゃいけない訳じゃあ無いし、相談程度だったら気軽にしても良いんじゃ無い?
あ、そのネイルのラメ、綺麗だね。
ちょっと良く見せて?」
悩ましげに色々とインターンシップ先のことを言っている萌の言葉に相槌を打ちながらその手を取って、爪を光に当てる様に動かす。
萌はネイルに凄い拘りがあるタイプなんだよねぇ。
これって就職した後も続けるんだろうか?
ちゃんと常識的な長さに揃えてあるからキーボードとかをタイプするのに問題は無いだろうけど、微妙に目を引いて古いタイプのおっさんとかには嫌がられそう。
まあ、ちょっと個性的なお化粧と大差ないんだけどね。でみ男性って化粧にはコメントしなくても、爪に関しては意外と文句言っても良いと思っている人が多い気がする。
何でだろ?
まあ、それはさておき。
爪を見ているフリをしながら呪詛を確認する。
うわ、粘着タイプな男を惹きつける呪詛だって。ドンピシャじゃん。
呪詛返しの転嫁はついていないみたいだし、これは縁切りとして適当な神社でも勧めておけば良いかな?
ちょっと弱すぎて呪詛を追い掛けるのは厳しいし、オカルトを信じていないと言っている萌の手を取ったまま動き回って三角測量するのは難しいからね。
頼まれてもいないのに、そこまでする謂れもないし。
「なんかさぁ、あの男がインターンシップ先で内定貰うとは限らないじゃない?
なのに先に諦めるのって後ろ向きすぎるかなぁって気がして」
手を離したら、萌はまだインターンシップ先のことを話していた。
「綺麗なネイルだね。この光り具合が絶妙だわ。
それこそ、そのヤバい男が気になるなら、隣駅にある神社で厄祓いでもしてみたら?
あそこって縁切りで実際に効果があるみたいだって前DV気味な男と別れるのに色々苦労した知り合いのお姉さんが言ってたし、気分だけでも『縁が切れている筈!』って思えれば、断る言葉にももっと鋭さがついて効果が出るかもだよ?」
適当な嘘を混ぜて、近くの当たりな神社を勧めておく。
取り敢えず、次に授業で会う際にでも呪詛がどうなっているか、要確認だね。