パワーより人格でしょ
私が黒魔術師だと知らないって事は、今回のハニトラは碧目当てなようだね。まあ、そうだろうと思っていたけど。
流石に誰でも良いから手当たり次第のハニトラ狙いで、アメリカがリサーチ全く無しに日本語ができる若い顔の良い術師を態々寄越すとは思えない。
ちなみに、対面している相手が魔術師か否かは大体持っている魔力とその精錬度で分かる。
前世ではごく稀に、全然精錬が成ってない魔力だから魔力が大きいけど放出できない一般人かと思っていたら、怠け者で魔力を練る鍛錬をしていなかったお坊ちゃん魔術師だったって事もあったけどね。
今世では『退魔師ですか?』と聞く訳にもいかないし、退魔協会にいる連中を見る限り術師でも必ずしもちゃんと魔力の精錬が出来ているとは限らないようなので、基本的に誰でも魔力持ちなら退魔師の可能性があると考えて油断しないようにしている。
そんでもって退魔師だと分かっても元素系か白黒どっちか系かって言うのは相手が魔力を使おうとしなければ分からない。
だからキャロルがどの系統の魔術師なのかは未だに不明なのだが……ちょっとこのジェームス、私がどの系統か分かっていないのに考えを読もうとするなんて、うっかりだね。
それともいつも人の考えを読む癖がついていて、ついやっちゃったって事なのかね?
態々私が黒魔術師だと知らせる必要は無いので、意識の表面に軽い雑念の層を作って偽装しておこう。
さて。
流石に意識誘導で洗脳もどきな感じに碧を説得する事はないだろう。
詐欺師は上手く相手の表情とか過去に関する言動を元に『自分の事を誰よりも理解している』と相手に誤認させるらしい。今回も碧の感情や考えている事を読んで、上手い事言い包める計画なのかね?
まあ、アメリカ人だから、こっちが想像もしない様な杜撰な計画を立てている可能性だってゼロじゃ無いが。折角だから天罰デフェンスに期待をして、私が黒魔術師である事を言ったり、碧に完璧な防御手段を施してはおかない方が良いよね。
変な政治的な圧力もある事だし、単に断るだけじゃ無くって、天罰デフェンスで撃退できるのが理想的だ。
まさかここまで露骨な相手を送り付けてくるとは思っていなかったから、昨日のうちにどうやって相手へ天罰が降る様に上手い事隙を見せて誘導するかを話し合っておかなかったのは痛恨の失敗だ。
まあ、考えてみたら『ウザ!』と言う碧の感情とか、胡散臭いと考えている警戒心が露骨な方が、天罰に値する様なこちらの意思を無視した意識誘導とか洗脳をやらかすかもだから、ここは取り敢えず素知らぬふりが一番かな。
「英語が出来ないし、家族は日本にいるしだし、海外に行こうとは思わないわね。
退魔師として働けば日本国内でもそれなりにお金は稼げるし」
取り敢えず、ジェームスの海外留学の誘いは断っておく。
「じゃあ、それこそ二人でアメリカに働きに来ないかい?
教会に紐付けされていないpractitionerは貴重だからね。
大統領や副大統領の護衛チームにだって入れるかもだよ!」
ジェームスが張り切って更に踏み込んできた。
はぁぁ?
Practitionerって退魔師の事かね?
Magicianじゃ駄目なんだ?
まあ、ラスベガスのカジノとかでマジックショーをやっている連中もmagicianだろうから、そう言うのとの違いをはっきりさせる為に敢えて地味な名称を使うのかな?
それはさておき。
「何が嬉しくて二人して政治家の護衛チームに誘われなきゃいけないのよ。
冗談じゃ無いわ」
偶々キャロルとの会話に間が開いていて話している内容が聞こえたのか、碧が憤慨した様に口を挟んだ。
「世界で一番偉大な国のトップとその右腕だよ?
国の将来を決めるような動きをリアルタイムで見ながら、そんな政治家を守る栄誉を与えられる機会なんてそうそうないだろう?!」
ジェームスが胸を張って言った。
ちょっとこの人自身が政治家に洗脳されてない??
黒魔術師が洗脳されちゃうなんて、情けない。
それだけあのアホな大統領(もしくは副大統領の可能性もゼロでは無い)って口が上手いんかね?
「いや、幾ら現時点のGDPが多いと言ったって、面積がウン十分の一しか無い日本が長年二位になる程度で、しかも歴史が日本の五分の一も無い様な国を偉大と言われてもねぇ」
碧があっさりアメリカのことを貶した。
いや、それは多分言わない方が良いんじゃない?
どうもジェームスが自国を売り込んでいる間に碧の神経を逆撫でしていたようだ。
普段はここまで攻撃的じゃないんだけどねぇ。
「だけど、折角のヒーラーとしての才能を活かせないような国にいても、しょうがないじゃ無いか!
君がアメリカにくれば、それこそ世界を動かせる様なpowerfulな人たちに恩を売りながらガッツリ儲けられるんだよ?!」
ジェームスが続ける。
まあ、そう言う金や権力がある相手が向こうから来て、恩を売れるのはアメリカならでの事なんだろうねぇ。
でも、同盟国に地球上でも有数に大きな島を寄越せと武力を散らつかせて迫る様な人間なんて、幾らパワフルだろうと助けたいなんて思わないね〜。
そこら辺、アメリカ人はクソッタレでも金さえ貰えるなら助けたいと割り切っているのかな?




