ヤマトナデシコ?
「コンニチハ! キャロル、デス」
「ジェームスです、よろしく」
取り敢えず大学の構内を一度案内すると言う事で話が落ち着いた留学生達は若い男と女の二人組だった。
男女どちらでもハニトラで引っ掛けられる組み合わせなのかね?
一応魔力はあるが、大したことは無いので退魔師(と言うか魔術師)として大成するよりも、あっちの協会みたいな組織の為に働く事を選んだタイプなのかね?
まあ、普通程度の除霊や呪詛返しなら出来そうだけど。
考えてみたら、日本だったら普通の街程度でもちゃんとした神社やお寺で厄祓いすれば悪霊を祓ったり呪詛を返せることがそれなりに多いけど、欧米だと普通の教会でそう言うことをやってくれるんかね?
なんかエクソシストを呼ぶとなると一気にハードルが上がって待ち時間も長くなりそうな印象だけど。
キリスト教って厄祓いをするよりも食事時や日曜日の礼拝で祈るのと讃美歌を歌うのと、カトリックだったら懺悔をするって印象だけど、どれも悪霊祓いや呪詛返しが出来そうな印象ではない。
まあ、神様が至る所にいるし祟る霊も拝めれば神になるなんて言う日本の宗教観のせいで日本はあっちよりも呪詛や悪霊が多い可能性はあるが。
でも、悪霊は宗教観よりも恨みが大きな要因だからなぁ。
それはさておき。
男の方は日本語もそれなりに上手い様子だ。
女性の方は英語混じりなカタコト日本語と通訳アプリを使って色々と私に話し掛けてきている。
何を言っているのか理解するのにかなり集中力が必要で疲れるけど、それなりに日本に興味があるのか、本気で質問している感じでまあまあ印象は良い。
男の方は……マジで碧目当てなんじゃ無いかな?
訛りはあるものの日本語がかなり上手くてちゃんとスムーズに会話が出来てるし、ずっと碧に張り付いて色々と話を盛り上げている。
「キョウトにもvery much want to イク デスネ!」
ジェームスに裏について考えていたら、キャロルが新学期スタート前の今後の予定について話し始めた。多分。
これって京都に行きたいって言ってるよね??
「行ってみたい気持ちは分かるけど、慣れてないあっち出身じゃ無い魔術師や退魔師が京都に行くと、どこもかしこもぐちゃぐちゃな結界だらけで頭が痛くなるらしいよ?」
慣れてたらぐちゃぐちゃになった結界の中でも平気なのかと碧に以前聞いたら、あっち出身だったら結界の一部には一族の人間として許容されているから問題なく、問題がある地域は教わっているから寄らないし、ある程度の慣れもあって耐性を少しは身に付けるから一応街中を歩く程度では倒れないのだと言っていた。
キャロルみたいな外人だったらワンチャン結界の対象外な可能性もゼロではないが、魔術って人種や国籍はほぼスルーするから、駄目だと思うんだよねぇ。
「ケッカイ? ...boundary? ナゼ??」
私の言葉を通訳アプリで確認したキャロルが不思議そうに聞き返してきた。
アメリカだと、昔の権力争い的な陣地取り紛いな結界ってないんかね?
まあ、なんと言っても歴史が短いし人口密度も低いから、日本の古都とは全く違うのかもだけど。
明治維新なんて日本の歴史の流れの中ではごく最近って感じだけど、アメリカじゃあその維新の10年前ぐらいにやっと南北戦争が終わって国の形が最終形になったって話だからねぇ。
マジで歴史の長さが違う。
そう考えると京都を見に行きたい気持ちは本当に良く分かるが。
せめて鎌倉にした方が無難じゃないかな。
どうせ京都のかなりの部分は鎌倉時代の後の応仁の乱で焼け散ったんだし。
とは言え、鎌倉だってそれほど歴史的な物は残ってないかな?
京都の方は天皇が居たから、時代の権力者がちょくちょく予算を掛けて手入れしてそうではあるよね。
「結界は歴史の色々なドロドロの結果らしいね〜。
そこら辺は碧の方が詳しいよ。
碧! 京都が術師の観光先として向いてない場所になっちゃった背景をキャロルにちょっと説明してあげて〜」
ちょっとウンザリしているっぽい気配を滲ませていた碧に声を掛けて、留学生の相手を入れ替えた。
「ジェームスは日本で何を学びに来たんです?」
碧に逃げられて文句を言われる前に、さっさとジェームスの方に近付いて声を掛ける。
「日本の古い魔術のやり方を知って知識を増やしたいと思ったし、あとはヤマトナデシコと仲良くなりたいですと思って!」
ちょっと冗談がましくジェームスが応じる。
へぇぇ。
「ちなみに、大和撫子って武家の娘みたいな、いざとなったら領地と一族を守る為に薙刀を手にとって戦い、最後には捕虜になって辱めを受けるぐらいなら死ぬって自分で首を掻っ切るような女性の事?
それとも男の三歩後ろを歩いて常に夫を立てる男尊女卑の洗脳が染み付いちゃった、男の理想を押し付けられた女性の事?」
ちょっと意地悪くツッコミをいれる。
この場合、どっちも無しだと思うけど、どう答えるかね?
「え?
随分とヤマトナデシコに対する印象が悪いんだね?
日本の女性は自国の文化を憎んでるのかい?」
ジェームスが私の質問に答えずに別の質問で応じた。
「男尊女卑な日本のカルチャーは働きたいと思う様な独立心のある女性にとってはどう考えても不利だからねぇ。
それこそ懐刀を身に付けていた武士の娘の方が、明治維新後の大和撫子なんていう男にとっての良いとこ取りな女性像よりマシだと思う。
押しの強い女性に疲れた外国人はお淑やかなヤマトナデシコ像を理想だと感じるかもだけど」
とは言え、外国人ってはっきり自分の意見を言わずに行間を読んでこちらの希望を察しろと願うタイプも実は苦手だと思うけどね。
「ふうん?
君は日本社会に不満があるの?
だったらアメリカに来るのも選択肢の一つだと思って、留学にでも来ないかい?
大学の単位とか奨学金に関して、色々と相談に乗るよ?」
ジェームスがこちらの目を覗き込みながら言った。
あ。
こいつ、黒魔術師だな。
ちょっとこっちの想いを読もうと精神に触れてきたぞ。