そこは忖度しちゃダメでしょう!
『ホームステイ先としてのご協力は無理でしょうか?
お二人とも活躍していると評判で、少しでも何かを学びたいと縁を持つことを希望される方が多数いらっしゃるのですが』
遠藤氏が先日のホームステイ協力のお願いに関して電話してきた。
マジか。
「学生ですよ、私たち。
都会で住んでいる若い女子大生二人のルームシェアで、誰か下宿人を受け入れられるほど大きな部屋に住んでいる訳がないでしょう」
アホ言うな、と言う口調で碧が応じる。
下宿人どころか、ホームステイって下手したら善意のボランティアって事で殆どタダなんじゃない?
いや、流石にお金は払うかな。
でも情報交換が目的なんて建前だったら、マジで文化交流の為に実質タダで受け入れろって言われそう。
『やはり無理ですか』
あっさり遠藤氏が引いた。
まあ、大金持ちな旧家ならまだしも、神社の改修工事の為に宮司が退魔師として働いていた藤山家だもんねぇ。
古さは十分だろうが、資金は全然足りないよね。
長谷川家は普通のサラリーマン家庭だし。
とは言え、考えてみたら藤山家は古くからある家だし、それこそ明治維新前ぐらいだったらそれなりに利権とかもあって蓄財してても良さげな気もするけど。
まあ、明治維新後の寺と神社を減らす改革で神社は色々と苦しくなったらしいし、ちょっとやそっとの蓄財じゃあ保たなかったんだろうね。
神社じゃあ露骨に利益目的な経済活動はしにくかっただろうし。
これが東京や大阪とか、諏訪でももっと駅の近くとかだったら土地からの収入とか土地の売却利益等があったかもだけど、諏訪湖近辺とは言え、駅からは遠くてあまり便利じゃない所だから山の資産価値も大した事ないんだろうね。
元々白龍さまの聖域周りの土地を売る気はないだろうし。
『では、実は今回ホームステイに来る方のうちの二人はお二方の通う大学に留学するそうなんですよ。
大学の案内だけでもお願いできませんか?』
遠藤氏が続けた。
「まあ、ちゃらっと大学の敷地を案内するぐらいは良いですが……下手をしたらハニトラ目的なんですよね?
何だってそんなのに利便を図る様に退魔協会が『お願い』してくるんですか?」
碧が尋ねる。
来る予定なのは主にアメリカ人で少数のヨーロッパ人が含まれるって話だけど、それに協力する謂れはないだろうし、歴史の浅いアメリカじゃあ大した知識の蓄積もなさそう。
まあ、エクソシストだったら国が何処であれ蓄積してきた2000年近いキリスト教会の知識を持っているかもだけど。
『実は政治家の先生の方から頼まれてしまいまして……。
関税に関する交渉で、向こうの『お願い』を国として拒否すると経済的に打撃が大きくなるかもと言われたらしく、幾ら将来自分たちの首を絞める事になるかも知れないと言っても引いてくれないんですよ』
遠藤氏が言った。
うわぁ。
退魔師がハニトラに引っかかって減っても政治家の個人的な生活には多分大きな影響は無いが、関税交渉で不利な条件を押し付けられたら次の選挙でそれをライバル候補者にがなり立てられて落選するかもって事で、国益なんぞ無視してアメリカに忖度しているっぽいね。
退魔師が減って呪詛や悪霊がちゃんと祓えなくなったら困るのは日本国民なんだよ?
今じゃあ日本から輸出している貿易量だって円安が必ずしも経済にとってプラスにならないぐらい減ったんだし、弱気になるなと言いたい。
マジで政治家って国全体の利益より自分の事を優先してるよねぇ。
実際にこれで碧がハニトラに引っ掛かってアメリカへ移住したら、ほぼ確実にその政治家の将来は真っ暗だろうけど。
家族がいるんだしそうはならないと舐めてかかってるんかな。
人が確実に自分の都合がいい様に動くと決めて掛かっちゃうダメだよ?
マジで、そう言う政治家の肝を冷やす為にハニトラに引っ掛かった振りをして、海外旅行でも行こうかって言いたくなるわ〜。
「退魔に関する情報を特に教える気はありませんし、海外へ行かないかと誘われても有り難がったりしませんよ?」
溜め息を吐きながら碧が応じる。
ここで折れてあげるんだから、碧って親切だよねぇ。
やっぱ旧家ってそれなりに柵があって退魔協会のお願い事を断り難いのかね?
なんだったらその外国人が碧にセクハラして、白龍様の天罰デフェンスでも喰らえば良いのに。
ついでに今回のゴリ押しをしてきた忖度政治家も。
ああうざい。
今後も大学校内でそいつらが留学生として彷徨いているとしたら更にウザいなぁ。