殺し屋を雇いましょう!
今日は青木氏の不動産屋に子猫ちゃん達とちょっと遊ぼうと訪れた。
子猫達の健康状態を確認している碧はまだしも、私の方は純粋に子猫達と遊ぶ為だけに来ているので浮気っぽくって源之助に悪いな〜とも思うんだけど、最近は源之助もノリが悪くなってきたんだよね。
源之助ったら、自分が気が向いた時は『さあ遊べ』と要求しながら鳴いてくる癖に、こちらから遊ぼうとオモチャを振っても、直ぐに飽きちゃうのだ。
だから子猫達の無我夢中な遊びっぷりもたまに楽しみたくなって、碧に着いて来た。
ちゃかちゃかと暫く子猫と遊んだ後に猫部屋から出て一息ついていたら、丁度暇だったのかお茶を出してくれた青木氏が思いがけない事を教えてくれた。
「あのヤバい物件、なんで清めたんだってクレームが来たんですよ」
「はぁ?!
入院したって言う持ち主が、やっぱ払うべきじゃなかったって、ですか?」
自殺願望でもあるの、その人??
「いえ、あの家の元の持ち主の親族とか言う女性でしたね」
青木氏が言った。
「元の持ち主ってあそこで穢れ塗れになっていた死霊の親戚?
感謝されるならまだしも、何故にクレーム??」
碧も呆れた様に言った。
最近はとんでもないクレームをつけるモンスターペアレントが居たりカスタマーハラスメントがあると言うが、親戚の霊を昇天させたのにクレームをつけられると言うのは斬新だ。
いやでも。考えてみたらあの死霊って旧家の庶子で、本家の人間を呪おうとして返されたって遠藤氏は言っていたよね。
その呪われて返した本家の連中も死んだ男の『親戚』……になる?
「気になったので調べてみたら、元々の持ち主が亡くなった後にそのクレームをつけた人物の会社が一時期あの家を購入して所有していた様なんです。ただ、やはり健康上か事業上で問題が出て来たのか耐えきれなくて手放したようですね。
でも、売った後もできるだけ長く祓わせないように色々と画策したらしいですよ」
青木氏が言った。
え、マジ?
自分たちが呪詛返しで殺した相手が清められない様に手を回したの?
だけど、絶対に清められない様に敷地を購入して保持するだけの根性は無い、と。
自分勝手だねぇ。
呪詛塗れなの、分かっていてそれを売り付けた上に浄化しない様仕向けたなんて、カルマ的にもかなりマイナスな行動じゃ無い?
「人を呪わば穴二つって言うし、呪詛をかけて返されて死ぬのは自業自得でしょうが……。なんか呪われた相手方もかなり酷い人達っぽいですね」
つうか、一族の人間複数に致死レベルな呪詛を掛けようとするほど恨まれてたんだから、それなりな事をしてそうだよね。
遺産相続狙い程度じゃあなさそうだ。
「なんかもう、泥沼の争いだったようですね。
元々、婚約者がいた女性を無理矢理に手籠して愛人にして実質軟禁した上、正妻やその嫡子達が女性とその子供をかなり虐めたって噂は昔からあったんですよ。
その庶子の息子さんが大学を卒業した後に海外へ出て、どこかのファンドを立ち上げて帰ってきたら今度は本家の事業を片っ端から潰す勢いで妨害に近い嫌がらせモドキな活動をしたらしくて。
それで本家側が妾にされた女性に息子が手を引く様説得しろと言っている間に何かの間違いがあって女性が亡くなってしまったとかで、完全に修復不可能なレベルで拗れて……呪詛を掛ける事になったんでしょうね」
青木氏が言った。
おや?
意外と色々と知ってるんだね。
地元ではそれなりに有名なスキャンダルだったのかな?
とは言え。
「うわぁ。
思わず呪詛を掛けた側を同情しちゃいそう」
それなりに人権が保証されている筈の現代日本で呪詛を掛ける人間に碌なのは居ないと思っていたけど、どうやら呪われても自業自得レベルで酷い人たちだったみたい?
「そう言う人達って他からも恨みを買っていそうだけど、呪詛返しを依頼されたら流石に断れないからなぁ。
名前は聞かないでおく方が精神衛生上良さそう」
碧が顔を顰めた。
確かに。
幾ら『こいつら死んだほうが社会の為じゃない??』と思う様な人間でも、依頼されたら呪詛は流石に返さないとだからねぇ。
うん。
次の被害者が怨みを晴らそうとする場合は、呪師ではなく殺し屋を雇ってくれるよう期待しよう。
幸い、呪師はちょっとここんところ数が減っているみたいだしね。