実は巫女体質?
「持ち主が入院って青木氏は大丈夫だよね?」
依頼の詳細諸々を聞いて電話が終わってから、思わず碧に聞く。
「大丈夫でしょ、昨日も普通に猫部屋の子猫と遊んでいる動画を上げてたし」
碧がタブレットを取り出してメールを確認しながら応じた。
依頼主が入院してしまって緊急性が高いと言う事で、今から行ってくれって懇願されたんだよね〜。
その分特急料金で、ただでさえ難易度が高くて高額だった依頼が更に報酬が高くなってるみたいだ。
私らでも思わず二度も聞き返したぐらいの金額だったのだ。
退魔協会にマージンを取られている依頼主は一体どれだけ毟り取られているんだろうかとちょっと心配になった。
……青木氏に聞いたら教えてくれるかなぁ。
まあ、お金の話題はデリケートだし、変に薮を突かない方がいいか。
それはさておき。
「え、また子猫が増えたの?」
青木氏が動画をアップしたと聞いて碧に尋ねる。
青木不動産の猫部屋は基本的にストリーミングで猫の愛らしさを公開しているんだけど、時々猫と何かをやっているシーンの動画を別にアップしている事もあるんだよね。
これは基本的には新しく入ってきた子猫の紹介を兼ねて遊んでいるシーンが多い。
単に青木氏が子猫と遊んで楽しんでいるだけって言う説もあるけど。
とは言え。この上なく可愛いとはいえ、不動産屋に保護されて渡されちゃう推定野良な子猫はそれなりに多いらしく、果てしなく増えても困るからと里親を釣るために青木氏は可愛らしさの爆裂した個別動画もちょくちょくアップしてる。
猫部屋の猫数が極端に増えていない事を鑑みると、中々青木氏の動画編集スキルは侮れないと思う。
「いや、単にもうそろそろまた子猫が発見されられ始めるかもだから、猫部屋が混雑しちゃう前に里親に名乗りを上げてもらおうと子猫の魅力を紹介していただけみたいよ」
碧が言った。
ふうん。
まあ、青木氏が健康で、猫にも特に問題がない様で良かった。
「ちなみに今日は誰も現場で立ち会いに来たりはしないんだよね?」
青木氏が代理人みたいな感じで現れるかもと思ったが、遠藤氏は時間を指定しなかった。私らは適当にタクシーで直行して、清め終わったら終了の報告に電話してくれれば良いと言っていたから誰も来ないんだろう。
鍵は入り口の横に暗証番号付きのキーボックスが置いてあると言っていた。
いつの間にそんな手配をしたんだろ? まあ、あそこに忍び込もうと思う様な生存本能が死滅した人はそう居ないと思うけどさ。
「みたいね。
だからこのままの格好で行っちゃおう」
碧が言った。
二人とも普段着だが、一応部屋着よりはまともだから、これでいいか。
と言う事で財布と携帯だけ持って外へ。
丁度通り掛かったタクシーに乗って先日のヤバい家まで行った。
「う〜ん、これを一気に清めるのはキツイかなぁ」
碧が敷地の前で立ち止まって腕を組んで考え始めた。
「取り敢えず庭を右と左で分けて結界を張るから、一部ずつ清めてから家の方に取り掛かったら?
ある程度呪詛が薄まるだろうし、気力が尽きちゃったら家の中は明日って事になっても依頼主はなんとか耐えられるでしょ」
一人の人間が回復なしに使える魔力の量には限りがあるのだ。
幾ら碧の魔力が呪いに対して特効ありだろうと、無理だったら無理なんだから無駄に足掻く必要はない。
「う〜ん、まあ、取り敢えずは最初に庭からやっていこうか。
結界をお願いしていい?」
碧が頷く。
「勿論。
清めるのを碧に任せるんだから、そのくらい当然やらせて貰いますよ〜」
じゃなきゃ単なる穀潰しだもんね。
という事で、庭を清めた後にまた呪詛が家から漏れて来ないよう、まずは家を封じる形に結界を張る。
次に庭の右側と左側へ別々に結界を展開した。
「うん?」
結界を展開し終わってから周囲を見回し、違和感を覚える。
「どしたの?」
碧が聞いてきた。
「なんか、周囲から呪詛や穢れが微量だけど集まって来てる感じ?
あの死霊が穢れを呼び込んでるのか、濃すぎる呪詛や穢れって同種のモノを集める効果があるのか、知らないけど。
清めたら流れが止まるんかな?」
結界を張ったのにまだ集まる動きが完全に止まってない事自体も不思議だ。
もしかして、呪詛返し以外にもなんか追加で呪詛を掛けた人間がいるんかな?
でも、死んだ相手を呪えるとは思えないが。
「重すぎる穢れって重力みたいな効果を発するのかしらね?
取り敢えず、清めてからどうなるか様子を見よう」
碧が庭の中に入りながら言った。
だね。
確かに穢れが酷いところって時の流れと共にさらに悪化する傾向があるけど、それって穢れの原因である悪霊がパワーアップする為に穢れを集めるからだと思っていた。
だが、ここの死霊はまだそこまでのパワーはないと思う。
まあ、碧に清められたら不思議現象も止まる可能性が高いだろうけど。
碧が祝詞を謳い始め、結界の中の空気がキラキラと輝いたと思ったら、やがて結界の中に光が溢れるような感じになって穢れが消えていた。
「なんか普段と違わない??」
キラキラしいのはいつもの事だが、最後の光は普段はないよね?
「どうもいつも清めに手を貸してくださる神様的にも、ここの穢れは好ましくないと感じているっぽい?」
碧がちょっと首を傾げながら言った。
うわぁ。
なんか流石って感じだね。
ただの白魔術師なだけでなく、碧って巫女的な才能もあるんじゃない?
白龍さまの愛し子なのは単に性格が好ましいだけだと思っていたんだけど、もっと何かあるのかね?