やった、ノルマ扱いだ!
3月に入り、春休みと言うことで仕事を請けつつちょっと多めにお守りを作っている毎日になったが、意外にも退魔協会からあのヤバい呪詛塗れ物件の依頼が来ないね〜と碧と話していたら、遠藤氏からその件で電話があった。
まあ、最近の仕事の依頼は基本的に遠藤氏なんだけどね。
こないだも彼から電話があって、『あれか?!』と碧と盛り上がっていたのに全然違う案件だったし。
『実はちょっと特殊な案件で、呪詛が溢れている敷地ごとの浄化をお願いしたいのですが』
遠藤氏がいつも通りに淡々と依頼の話を始めた。
「誰かが敷地も呪ったんですか?」
碧が素知らぬふりをして尋ねる。
考えてみたら、青木氏(もしくは青木氏に泣きついたあの物件の持ち主)が退魔協会に依頼を出す際に、私と碧が先に霊障が原因の事故物件か下調べしているって話をしているのか知らないんだよね。
どうなんだろ?
普段は青木氏も私らをバイトとして雇っているって事を言及しないだろうけど、悪霊を祓うだけじゃなくて敷地を清めないと呪詛は消えないって話についてちゃんと契約上念押ししようと思ったら誰かに相談したって話はする必要はありそうに思える。
まあ、青木氏だったら顔が広いだろうし、『知り合いから助言された』で誤魔化しているかな?
それはさておき。
『いえ、どうも呪詛返しが偶然多数重なったことで、呪いの依頼主一人の死だけで贖えなくて変な感じに敷地へ溢れ出てそこに溜まってしまったようですね』
遠藤氏が答えた。
これって青木氏から聞いた話なのか、それとも退魔協会の調査員が自力で達した結論なのか。
ちょっと知りたい気がするけど、聞かない方が無難だろうね。
「危険な呪詛を複数掛けるなんてアホで危険な行為だと思いますが、それの返しが重なるなんてあり得るんですか?」
実際に起きてはいるんだけど、どうやったのか不思議なんだよねぇ。
『敷地が事故物件化した時点に死んだ持ち主はとある旧家の庶子だったとかで、本家筋の人間を軒並み呪い殺そうとしていた様ですね。
本家の方で一族の人間が呪われていることに気付いて一気に返させたのか、偶然強力な神社にでも一族でお参りに行って呪詛返しが起きたのか不明ですが、なんらかの理由で同時に呪詛返しが起きたのは事実なのでしょう』
遠藤氏が答えた。
ふうん?
つまり、退魔協会ではそう言う呪詛返しの依頼は受けていないんだ?
ふむ。
もしかして、それこそ一昨年のハロウィンの時に碧が展開した浄化結界を通るルートにあるレストランとかで一族が集まるなんて事があったら、一族全員の呪詛が短時間に集中して返されてたかも?
いや、でもハロウィンの渋谷に旧家の人間が集まる訳は無いか。どう考えても客層が違うよね。
そう考えると、どこか白龍さまの諏訪神社並みにパワフルな氏神さまがご在中な神社で一族纏めて厄祓いでもしたと考えるのが現実的かな?
「旧家の一族を多数狙う様な呪詛の返しが溢れるなんて、かなり強烈なものになってそうですね。
ちょっと私たちは新学期の準備をそろそろ始めなきゃいけないんで、今回は遠慮しても良いですか?」
碧が軽い感じで断りを入れた。
そう言えば、この案件は来たらゴネてなんとか藤山家のノルマ扱いにするから驚かないでねって言われてたっけ。
『えっ』
一瞬、遠藤氏が絶句しているのが電話越しに聞き取れた。
「敷地に溢れ出る程に強烈な呪詛を清めるなんて、絶対に疲れが溜まりそうだよね」
私も碧に合わせる感じで応じる。
『確かに大変な案件になりそうではありますが、是非とも請けて頂けませんでしょうか?
こちらも色々と案件が立て込んでいて、これクラスを任せられる退魔師には限りがありますので……』
遠藤氏が困った様に懇願してくる。
「では、これは藤山家のノルマ扱いで良いですか?
既に上半期のは先日熟した扱いになっている筈ですから、下半期分を前どりみたいな感じで」
碧が要求する。
あまり楽しげに言っちゃダメだよ〜?
遠藤氏の反感を買ってもいい事は無いだろうし。
『ちょっと上と相談しますので、少々お待ちください』
電話が保留された。
流石に相談するから後日連絡しますにはならないんだねぇ。
考えてみたら、ヤバい案件を依頼して大金を振り込んだのに、退魔協会が退魔師を送り込むのに時間が掛かってその間に依頼主や依頼主の大切な人が呪い殺されたりした場合って、退魔協会は損害賠償責任を負うんかね?
裁判所に大っぴらに訴えて損害賠償金を寄越せと騒ぐのは難しいかもだけど、単に依頼費を返すだけじゃあ済まなそう。
それこそアメリカみたいな訴訟社会だったらこう言う場合にどうなるんだろ?
教会とか、魔術師協会(?)相手に訴訟があって、多額の賠償金が認められたなんて言うニュースは聞いた事がないけど。
『お待たせしました。ノルマ扱いで結構です。
ですので至急にお願いできますか?
持ち主の方が先日入院されたとの事なので』
遠藤氏が電話に戻って来て言った。
おお〜。
持ち主が既に入院中なんだ?!
早!!