霊だけじゃ駄目
「やはり駄目な意味でヤバイですよね、ここ?」
車に戻ってきてドアを開けた私達に、青木氏が諦めた様な感じで聞いてきた。
「いやぁ、稀に見る穢れでしたね!
でも、主たる原因は悪霊じゃないですね。どうも変則的に複数の重い呪詛返しがほぼ同時に起きて、呪詛を掛けた人が途中で死んでしまったせいで呪詛が敷地に溢れ出たようですね。なので少なくとも術師に対する危険性はそこまで高くないかも?
ただ、これを清められる実力がある人は少ないでしょうねぇ」
思わず先にコートや髪をパタパタと払ってから、車に乗る。
一応浄化結界を自分の周りに纏っていたし、物理的に穢れが付いたわけじゃ無いんだけど気分的にあの穢れた空気と一緒に車に乗りたく無い感じ。
「凛でも無理?」
碧がちょっと驚いた様に聞いてきた。
「かなり時間を掛けて徐々に敷地を清めていくなら可能かもだけど、私への依頼って結局は快適生活ラボへの依頼じゃない?
だったら碧がやる方が効率的だね。
碧でもかなり疲れるとは思うけど」
碧が清めようとした時に、悪霊とか呪詛が襲い掛かって来そうになったらそれを弾き返す役かな、私は。
まあ、白龍さまが居れば碧に害が及ぶ事なんて無いとは思うけど。
とは言え、白龍さまは風系の力が強いって言っていたからなぁ。
あそこまで濃厚な呪詛から碧を守る為に白龍さまが咄嗟に魔力で穢れを吹き飛ばそうとしたら、近所の家まで物理的に吹っ飛ぶかも。
そう考えると、私の存在意義もそれなりに有りそう?
まあ、碧に依頼が来るかどうか、知らんけど。
「藤山さんでも大変なレベルですか……」
青木氏がうげ〜と言いたげな顔をした。
分かる。
碧レベルが必要ってマジでヤバいよね。
「ちなみに、悪霊じゃなくて呪詛が諸悪の根源なんで、離れていても持ち主の運とかが悪くなるかも?
退魔料金が高すぎるからとずっと持ち続けて収まるのを待つのはお勧めしません」
多分待ちに転じたら、穢れが薄れるより前に悪運に見舞われ過ぎて破産するか事故死するかの可能性が高いと思う。
「なるほど。
どうしても退魔師を雇うのも底値でどこか他に売るのも嫌だと言う様なら、付き合いを断った方が良い、と」
青木氏が頷きながら車を発進させた。
「あ、ちなみに我々は学生なんで、四月になると大学の方で色々と忙しいから五月までは依頼を請けませんよ」
碧が付け足す。
そう言えば、気がついたらいつの間にか三月になっている。のんびりしていたらこの依頼が間に合わないかも。
悪霊って血縁を祟っている様な特殊なのとかじゃない限り一度も来ていない人まで取り憑いて祟る事はあまり無いんだけど、呪詛って縁の繋がりで多少は伝播するからねぇ。
あの呪詛混じりの穢れが伝播するかもな状態を五月まで放置するのはマジでお勧めしない。
「ちなみに退魔協会の依頼って、お金を払ったのにちゃんと穢れが祓えてなかったらもう一度やってくれるの?
リビングに悪霊化しつつあるめっちゃ穢れ塗れな最初の死霊がいるから、あれを昇天させたら終わりなんてアホなことを考える退魔師が来たらどうなるんだろ? あれだけを除霊しても実質的には依頼が完了しないと思うけど、そこら辺ってちゃんと契約でカバーされるん?」
碧にふと尋ねる。
依頼が『悪霊祓い』だったらあのリビングに居た霊を祓えば契約完了かもだが、この家を住める状態にするにはあの穢れと呪詛を祓うのが重要なのだ。
悪霊なんぞ、今回はオマケでしか無い。
「家を住んでも大丈夫な状態にするって言うのが契約になる筈だから。悪霊だけ祓って終わりとはならないだろうけど、二度手間になる可能性はあるかも?」
碧が首をちょっと傾げながら言った。
そっかぁ。
まあ、調査員だって何が問題か分かるとは思うけど。
「つまり、家の中にいる霊だけでなく、敷地全体に漂う穢れと呪詛もきっちり清めて下さいねと念を押しておくべきと言うことですね?」
私らの会話に耳を傾けていた青木氏が要約する。
「ですね〜。
なんだったら、私らが確認の際に視た際に霊だけ昇天させても駄目だし、下手をしたら霊そのものもあの穢れを清めなきゃ祓えないかもだから、大変そう〜って碧が言っていたとでも言及しても良いかもですね」
まあ、私らの話をどのくらい退魔協会が参考にするのかは知らないけど。
白龍さまが言ったならまだしも、私と碧はある程度有能っぽいかもだけどまだ経験の浅い小娘って扱いなんだろうからなぁ。
数日以内に連絡が来るか否か、乞うご期待ってやつかな?