駄目ですか
「ゴミ捨て場とエレベーターに地縛霊が居ました。
301号室は綺麗ですけど、毎回エレベーターに乗り降りするたびに血塗れなヤクザの霊と接触するとなると、直接地縛霊側に悪意がなくても居心地が悪く感じる人が多いのでしょうね」
車を回して来た青木氏に報告する。
「エレベーターとゴミ捨て場、ですか?」
車を発進させずに、びっくりした青木氏が私達の方へ振り返った。
「リーマンショック直後ぐらいに、黒部組の一族の誰かと離婚した母親に引き取られた高校生の息子を組の跡取りとしたいと交渉をしている最中、中国マフィアとそこに乗っ取られた地元の組のどこかに襲撃を受けた様で。残っている地縛霊はその息子を逃す為に死んだヤクザ二人っぽいですね。
どうもその息子さんが昔住んでいた部屋に偶然中国人が入ったせいで、変な感じに怒って活性化したのかも?」
説明を付け足す。
「黒部組??
……そう言えば、あそこの若頭って組長の亡くなった次男の息子で、いつの間にか引き取られてきていたんでしたっけ」
思い出した!と言う感じに手を打ちながら青木氏が言った。
おお〜。
流石、地元密着型不動産屋。
あのヤクザの事も知っていたんだ?
「ちなみに、共用部の除霊でも青木さんが支払うんですか?
管理組合が払うのか、微妙な気がしますが」
考えてみたら、管理人どころか管理組合の理事長だって勝手に組合の資金から何十万円もの資金を引き出して使えないだろうから、年に一度の総会で承認されなきゃ払えないんじゃない?
そうなると、普通の住民とか投資家が出費に合意するかどうかは益々怪しい気がするなぁ。
「守られた少年が今は若頭になっているなら、黒部組に払って貰えませんか?
若しくはその若頭が冥福を祈りに来たら、もしかしたらそれで昇天するかも?」
碧が指摘する。
まあ、退魔師が同行しないと冥福を祈った効果があったかどうか分からないから、それなりな出費はどちらにせよ必要になるけど。
と言うか、考えてみたらヤクザだったらそれこそ呪詛返しとか悪霊祓いを頼むお抱えの退魔師がいるんじゃ無いの?
一応退魔協会に登録してある人な可能性は高いけど、無料サービスでさえ無ければ料金を回収できる自信があるなら除霊の依頼って退魔協会を通さなきゃいけない訳じゃあ無いのだ。ヤクザのお抱えだって選択肢としてはありなんだろう。
多分。
うっかりすると呪詛を掛ける方を頼まれそうで私はごめんだが。
「黒部組は比較的まともな組織ですが、流石にヤクザに自分から接触していくのは無しですね〜。
301号室のためという事で、こちらが自腹を切って共用部のお祓いを頼むのが一番現実的でしょう」
青木氏が車のエンジンを掛けながら言った。
へぇぇ。
ヤクザにも比較的まともとかまともじゃ無いってあるんだね。
それでもあっちが諸悪の根源のような案件なのに、お金の請求の為に連絡を取ったりするのは駄目なのか。
仁義とか、一般人は巻き込まないとか言った考え方はやっぱ現実では存在しないのかな?
まあ、ちょっとお金を払って助けてもらうって言うならまだしも、お金を請求する方だからねぇ。
舐められたら終わりって言う考え方に基づくと『昔の襲撃で死んだそちらの舎弟が地縛霊になって迷惑だからなんとかしてくれ』って言うのは、いちゃもんつけて金を巻き上げようとしていると受け取られるんかな?
まあ、どちらにせよ。
青木氏が退魔料金を払うつもりならそれが一番無難なんだろうね。
ある意味、さっきのカビ物件の壁紙を全部貼り替えるよりは安そうだし。
考えてみたらカビ物件を白龍さまが無料で対処してくれたんだから、プラマイゼロぐらいかも?
壁紙代は掛かるが。
「で。
こちらが最後の物件です。
物凄くヤバい感じがするので、車から視て退魔協会に依頼すべきって確認してくれるだけでも良いですよ」
ちょっと裏通りに入った先にある戸建て住宅地で、ボロい一軒家の前で車を停めた青木氏が言った。
うわぁ。
なんかこう、敷地全体がホラー映画に出てくるヤバい墓地みたいな感じにオドロオドロしい。
これって隣の人も逃げてないの??
こんな家の隣に住むのは私だったら絶対に嫌だよ?!