心残りを解消したら
五階の後に四階の廊下も覗いてみたが特にヤバい霊は居なかったので、青木氏に頼まれた三階の部屋に行く。
「クルミ、なんか変なのがあったり居たりしないか、確認お願い」
クルミを出して部屋に放つが、何か居る雰囲気は無いからここは大丈夫かな。
「普通な部屋だね」
碧が見回しながらコメントした。
「上の階と同じ間取りだとしたら、シングルマザーが子供と一緒に住むにはギリギリなサイズだけどね。
ヤクザの組長とか跡取りと結婚していた場合って離婚できたらめっけもんって感じで慰謝料とか養育費は出して貰えないのかね?」
アパートよりはランクは高いが、2LDKといっても50平米ギリギリぐらいな感じで、リビングも洋室もこぢんまりとしていて、天井も低いからクローゼットの中もそれ程収納スペースが無く、二人で住むには衣替えの服を仕舞うのにそれなりに苦労しそうだ。
「ヤクザの組長から離婚できるかもちょっと疑問だから、それこそ元々は父親は次男とか庶子で親の家業と関係ないと思って結婚したら、思いがけず席が回って来ちゃって話が違うってお母さんが離婚を要求したってとこなのかもね。
慰謝料や養育費もヤクザの金なんか要らんって断ったのかも?」
碧が提案する。
「それで更に息子が跡取りになっちゃったなんて、母親は怒り心頭かもねぇ。
まあ、反対に組長と元に戻った可能性もゼロじゃないかもだけど。
と言うか、考えてみたらリーマンショックの頃にヤクザの跡取りになるか自分で考えて意思決定できる程の年齢だったなら、今はもうその少年だった息子が若頭とか組長になっているかも?」
別の闘争で殺されてたり、何かで捕まって刑務所に入ってなければだけど。
「地位が上がっていたら、自分を襲撃から守るために死んだ男達の霊を昇天させる為の費用を払ってくれるかもね。
社会の裏側に密着しているヤクザなら、悪霊とか呪詛とか退魔師とかが実在しているのをちゃんと知っているだろうし」
碧が提案した。
「考えてみたら、不動産屋もヤクザとかとある程度はやり取りがありそうな職業だよね。
青木氏に提案してみても良いかも?
マジでこの部屋には何も居ないみたいだし、青木氏だけが除霊料金を負担するのは理に合わないでしょ」
まあ、推定事故物件ってことで買い叩けたんだったら賃借人が居着くようになって資産価値が上がればその差額で退魔料金をカバー出来そうだけど。
『何にもないよ〜!』
クルミが帰って来て元気に報告した。
だよね〜。
「帰りは一応あのエレベーターに乗ってみようか」
あのエレベーター霊が501の少年側の死者なのか、襲撃して来た中国人マフィア(もしくはそれに協力したヤクザ)の人間なのかも確認しておく方が良いだろうし。
そう考えると、ゴミ捨て場の霊も調べなきゃだよね。
二階の踊り場に居た霊は一緒に護衛役についた残りの二人も死んだと思っていたし、中国人が501に住み着いたことへの怒りを他の霊とも共有しているっぽかったが、地縛霊なのだ。
ゴミ捨て場やエレベーターのところまで行って井戸端会議をした訳ではないだろうから、思い違いの可能性だってある。
「そうだねぇ」
溜め息を吐きながら碧が言った。
「碧はドア側に居て。
私が情報収集ついでに霊の方に立つから」
と言う事で301号室を出て施錠し、エレベーターを呼び出す。
相変わらず血だらけの地縛霊が奥にいる。
これって中国人が乗ったら何か悪さをしようとするのかな?
そっと奥に入りながら霊に触れて情報を読む。
今回は除霊しちゃう気はないしうっかり魔力をあげちゃってパワーアップさせるとまずいので、現状で読み取れるだけを読む。
「やっぱ501の少年を守る為に来たヤクザだね。
どうやら高校生ぐらいだったみたいだから、マジで今は若頭とかになっているかも?」
何やら少年の姿が霊の意識に焼き付いている感じで、ほっそりしているけどちょっと目の鋭い美少年の姿が視える。
これがむさいおっさんになっていたら、切ないなぁ。
つうか、この少年(元、だけど)が来て霊達の冥福を祈ったら、退魔師を雇わなくても昇天する可能性もありそうじゃない?
もっともむさいおっさんになってたら……本人だと分からないか、もしくは立派な大人になったと安心するか、微妙なとこだが。
15年とか16年前って事だったらまだその時の年齢ぐらいの息子はいないだろうから、むさくなりすぎてて分からなかったら退魔師による除霊しかないね。
そんな事を考えつつゴミ捨て場を確認したが、こっちも501号室側のヤクザだった。
マジで中国マフィア側はどうなったんだろ?
誰も死ななかったのか、地縛霊になる程思い入れが無かったのか。
微妙に気になるなぁ。
青木氏って地元のヤクザの闘争の話とかって知ってるかな?