エレベーターは対象内?
「終わりました。
流石にあのカビ臭さなら壁紙を替えたほうが良いでしょうが、これからは多分普通に換気していれば大丈夫では無いかと思います。
少なくとも超常的な問題は終わった筈です」
電話に応じて車を回して来た青木氏に調査結果を報告する。
「うん?
問題は終わったって……お祓いしてくれちゃったんですか?」
青木氏がちょっと困ったような顔をしながら聞き返してきた。
やって貰ったなら報酬を払うべきだけど、ちゃんとした団体相手じゃ無いと支払いの正当性を税務局に疑われるのかな?
一応快適生活ラボも正式に登録して事務所として起業はしてるよ?
「ちょっと河童に近い、水系の妖の残滓がへばり付いた石みたいのが台所の排水管のところに落ちていたんです。
それが水気を集めて居た様で。
どうやって取り出そうかと凛と話していたら白龍さまが取り出して処分してくださったんです」
碧が報告する。
パックリとで、あれは早かった。
変な穢れと言うか渇望がへばり付いていなかったら、この世界では滅多に入手できない魔石のサンプルとして色々と使い道があったんだろうけどねぇ。
まあ、魔石って実質使い捨てだから、一個だけ手に入ってもあまり長続きしないから実用性は微妙だけどさ。
第一、私が作れる程度の魔道具だったらそれこそ聖域の雑草で殆どは足りるからなぁ。
もしくは自力で直接魔力を注ぐか。
「河童に近い水の妖、ですか」
ちょっと呆然とした様に青木氏が繰り返す。
「ちなみに、あのアパートが最初にカビだらけになった時の賃借人が今どこにいるか、分かりますか?
出来ればどこであの石を拾ったのか聞きたいんですが」
流石に他にサハギンが生き残っているとは思わないけど、魔石が残っているならちょっと手に入れたいかも。
もしくは、怨念や渇望がへばり付いててヤバい状態だったらそれこそ白龍さまにそれらもパックンして貰った方が安全だろうし。
最近じゃあどこもかしこも水害が起きかねなくて危険だからねぇ。
「最初にカビの問題が起きた時の住人ですか?
売主に分かるか聞いてみますね。
その石って危険なモノだったんですか?」
青木氏が車を発進させながら聞いてきた。
「川とか下水に落ちていたらどうなのか不明なので、ちょっと他にもあるなら探して確認しておきたいかなってところですね。
多分それほどの効果は無いと思いますが。
あの部屋にしたって、カビは凄かったですが排水管が溢れて下の階を水浸しにしたなんて訳では無いのですし」
とは言え、前世ではちゃんとした魔法陣と魔石があればお風呂の水を汲めた。つまり場合によっては排水管を溢れさせるだけの水を集める事だって可能な筈なんだよね。
水を出す魔法陣だったら元素系魔術師じゃないと作れないけど。
それとも、水系の魔石があれば普通に私の魔力で描いた魔法陣でも水を喚べるのかな?
あまり前世では魔石の種類って気にして無かったけど、今回のは魔石自体に水を寄せる効果があった。
あれってサハギンの魔石だったからなのか、それともサハギンの渇望の怨念のせいなのか、どっちだったんだろ?
怨念付きじゃないと水を喚べないとなると使い勝手は悪いな。
まあ、何度か引っ越した(と思われる)賃借人に連絡が取れる可能性はあまり高くなさそうだし、連絡が取れてもどこで石を拾ったかなんて覚えて無いかもだから、何か分かるとか入手できる可能性があるとは思わないでおく方が無難だろうね。
「なるほど?
聞いてみますが、最近は個人情報の保護規定が色々あるので連絡先が分かっても教える為に本人の了承を得る必要があるので、あまり期待しないで待っていてください。
さて。
次のここは、何故か人が居付かないマンションです」
大した距離を動かず、あっという間に次の部屋だった。
こっちはマンションっぽくってランクが上かな?
さっきのはアパートって感じだったから。
まあ、アパートとマンションの定義って微妙に不明だけど。
狭くて2階建程度なのがアパートで、もっと背の高いしっかりした構造だとマンションなのかな?
「では、また終わったらご連絡下さい」
青木氏がそう言って車で走り去っていった。
オートロックのところに貰った鍵をさして開け、マンションの中に入る。
オートロックのそばに管理人室があるけど、誰も居なかった。
昼間って管理人が居るもんじゃないの?
電気もついていないって事は管理人は週何日かしか来ないとか、決まった時間しか来ないんかね?
「あまり掃除がしっかりされている感じじゃないね」
碧が周囲を見回しながら呟く。
「管理人のいる時間が短いと、掃除もしっかりする暇も無いんかもね。
入り口の印象が悪いと資産価値が下がりそうなもんだけど」
住民やオーナー達に怒られないんかね?
それとも、最近は人手不足だからちょっと埃が溜まっている程度じゃ文句を言えないんかな?
そんな事を考えながらエレベーターボタンを押したら、すぐにエレベーターが降りて来てドアが開いた。
「おっと。
もしかして、これが原因で賃借人が逃げるの?」
思わず中に入るのを止めてマジマジとエレベーターの中を見つめる。
なんかいかにも『殺されました!!』って感じに傷だらけで血がダラダラ垂れている地縛霊が居るんだけど。
霊からポタポタ血が垂れているのに、エレベーターの床に着く前にそれが消えているのってちょっとシュールだ。