神さまへの支払いはどうするか
「だ、大丈夫ですか?!
かなり腐ったと言うか拗れた感じでしたけど??」
碧が思わず白龍さまの口を覗き込む様に尋ねる。
これが源之助だったら口に手を突っ込んで「ぺっ、しなさい、ぺ!!」と言っているところだね。
流石に白龍さまの口に手を突っ込みはしない様だけど。
『儂の魔力から考えたらこんな物、お主らが蟻を1匹飲み込んだ様なもんじゃ。
たとえ腐っておったって蟻1匹分だったら気持ちは悪いかも知れんが問題は無いじゃろ?』
白龍さまが悠々と宙に浮きながら応じた。
サハギンの魔石が蟻かぁ。
まあ、確かに龍との魔力比だったらそんな物なのかも。
とは言え、人間だったら火アリとかに噛まれたら1匹でも腫れて大変な事になるらしいから、サハギンって蟻どころかダニレベルかも?
まあ、それはさておき。
「こっちにサハギンが紛れ込む事もあるんですねぇ」
長い年月の間に色んな異世界の魔物や幻獣がアクシデントで境界門を潜ってこっちにきちゃって魔素枯渇で死んだんだろうけど、考えてみたら魔石の魔力がまだ尽きてなかったって事は比較的新しいよね、これ?
『そう言えば昔、境界門から迷い込んだが門を潜って元の世界に戻れず、境界門のそばの川で何とか生きていたサハギンの集団がいたな。
河童と呼ばれていた様だが、あの境界門もいつの間にか閉まっていたからサハギン達も死に絶えたんじゃろうのう』
白龍さまが思い出した様に言った。
「え?!
サハギンが河童?!
サハギンって頭の上に皿とか甲羅を背負ってたりしないと思ったんですけど、こっちにきて突然変異でも起きたんですか?!」
前世で知っていたサハギンって肌が鱗で覆われて、手足の指の間にヒレがついてて顔が魚っぽい感じだったけど、皿が頭の上に付いているとかって話は聞いたことが無いよ??
まあ、甲羅に関しては鱗が見間違えられたとか、防具を着ていたのが甲羅に見えたのかもだけど。
……もしかして『皿』はヘルメットだったの?
そんな防具満載じゃ無いと出歩けない状態になる程サハギンが人間と戦って居たとは知らなかったけど。
と言うか、サハギンってゴブリンとどっこいどっこいなぐらいの知的レベルなのが多かったから、人間を見境なく襲って反撃であっという間に壊滅しそうもんだけど。
それとも魔素が薄い世界だと魔物の攻撃性も下がるのかな?
『妖怪の形なぞ、八割想像じゃよ。
しっかり見る程近づいたら殺されているか殺しているかじゃし、この世界で魔物が死んだら通常の腐敗よりも早く体が崩壊するから、ちゃんとした死骸も残らん。そんな死骸から元の姿を適当に想像で補填するから色々面白いことになる』
白龍さまがあっさり言った。
そっかぁ。
水辺にいる変な生き物って事で水系な特徴を適当に想像して付け足したのが伝承にある河童の形なのかな。
それはさておき。
「でも、そんな河童の集団が居たって事は、こう言う魔石が他にも存在するって事ですか?」
碧が顔を顰めて問う。
『魔素が薄い世界では、魔石の魔力も時の流れと共に空気に溶け消える。
あまり残ってはいないと思うぞ?』
白龍さまが言った。
まあ願わくは、境界門が開いて変な魔物が通って来た挙句にヤバい渇望がへばり付いた魔石が出来ちゃっても、部屋を一つカビだらけにする程度の影響しかないと期待しよう。
周囲の気候とかに影響を与えられるぐらいヤバい魔物だったら、境界門を逆行して元の世界に戻れるだろう。
きっと。
……多分。
それにマジでヤバいのが来たとしても、碧が生きている間だったら白龍さまが何とかしてくれるでしょう。
『チェック完了〜。
他に特に変なのは無かったし居なかったよ〜!』
部屋を見回って居たクルミが戻って来て元気に報告した。
「ありがと」
クルミに報酬として魔力を渡す。
「じゃあ、青木さんに完了報告しようか。
何かちょっとヤバい水系の妖の残滓みたいのがあって湿気を呼び込んでいたけど、白龍さまが食べちゃったからもう大丈夫って……報告するのは口にしてみるとちょっと微妙だけど」
碧が寝室の窓を閉めに戻りながら言った。
「確かに。
でもまあ、今まで全然ダメだった対処法がこれからは多分効果があるよって理由を言わないと青木氏も困るだろうからねぇ」
考えてみたら問題を解決したんだから追加報酬を貰うべきな気もするが、やったのは白龍さまだからなぁ。
我々が報酬を請求するのもちょっと違う気がする。
そのうち機会があったら諏訪神社に寄付して下さいって言っておくかな?
白龍さま的には神社がどうなろうと気にして無いだろうけど。
神さまへの支払いって金銭よりは感謝の祈りの方が良いのかも?