私生活が露呈しまくりだよね
「密林ったら置き配を断ると問答無用で配達物を宅配ボックスに入れる様になったみたい。
凛は今日、出掛けてないよね?」
外から帰ってきた碧が、源之助のドライフードの入った箱を手に聞いてきた。
「うん?
ええ、今日はずっとお守りを作ってた」
ウォーキングは夕方に日が翳り始めてから行く事にしている。
そうすればロングコートに帽子とマスクですっぴんとボロい室内着を隠せるからね。
ウォーキングのために化粧するのも着替えるのも面倒になった私の最近の手抜き術だ。
「でもこれが宅配ボックスに入っていたんだよねぇ。
密林で買った時に置き配不可って設定して、『留守だったら宅配ボックスへ』ってコメントで書いたのに。凛が居たのに宅配ボックスに入っていたってことは、インターフォンを鳴らさずに問答無用で宅配ボックスに入れたって事でしょ?」
碧がドライフードの箱を開けて中身を猫用食料の引き出しに仕舞いながら言った。
「マジ?
確かに一々各家のインターフォンを鳴らして居るか確認するよりも部屋の前に放置したり宅配ボックスに直接突っ込む方が早いとは思うけど、宅配ボックスの数だって限られているんだから留守してない人の分はちゃんと届けて欲しいね。
その為に最低料金以上買えって強要しているんだし」
このマンションは一階に宅配ボックスがあるがそれ程数が多く無いので時折全て埋まっている様子が見受けられる。廊下も各部屋の前にポーチがある訳では無いので配達物を置かれたらそれなりに目立つし、物のサイズによっては邪魔なんだよね。
だから基本的に部屋への配達を希望しているのだが……。
どうやらいつの間にか密林は『置き配しないなら宅配ボックスへ直行』と言うポリシーになっていたらしい。
買い物天国サイトよりも配達料無料に金額が低いせいか、配達に関するコストカット重視な姿勢が露骨だなぁ。
「なんかさぁ、昔はそれこそペット不可のマンションだったらペット用品は偽装して送りますかって聞かれるぐらいだったのに、今じゃあ何を買っているのか同じ階の住民にモロバレな感じで晒すのも躊躇しない様になってきたねぇ。
でも置き配で勝手に置いて行った購入物が盗まれた場合って密林の方がちゃんと賠償してくれるのかね?」
「多分?
でも本当に、ペットを飼っているかとか、好きな清涼飲料水のブランドとか、色々と置き配されている物を見ると近所の人の生活が垣間見えるよね」
碧がドライフードの箱を畳みながら言った。
そうなんだよねぇ。
大学生とは言え、オンラインで受ける授業も多いせいか、私らって部屋に居がちだから他のフルタイムで働いている人たちが買って玄関の前に置き配されている物を色々と見ちゃうんだよね。
お陰で奥の部屋で猫を飼い始めたっぽいのも発覚したし。
子猫用の餌を買っていたから、多分最近買い始めたんだろう。
と言うか、サラリーマンと思われるのに留守にしている間、子猫はどうなっているんだろ?
ちゃんとオモチャとかケーブルとかを齧ったり誤食したりしない様に部屋を完璧に片付けているか、ケージに入れるかしているのかな?
色々と源之助を買った時に調べた子猫を迎える際の注意事項とかが気になるが、流石に相談された訳でも無いのに廊下に置いてあった買い物から推測した情報に基づいて、マンションの郵便受けとかの辺で会った際に忠告とかをし始めるのは不味いだろう。
ちょっと気になるけどねぇ。
もしも変な誤食をしちゃって子猫ちゃんがヤバくなった時には碧を頼れよ〜と言う訳にもいかないし、中々ヤキモキする。
まあ、それはさておき。
「そう言えば、青木氏からメールが来てたよ。
久しぶりにまた、推定事故物件の確認を依頼したいんだって」
「ふうん?
3月〜4月は引っ越しが多い時期だから、それに合わせて推定事故物件も綺麗に除霊しちゃおうって話なのかな?」
碧が台所で手を洗い、タブレットを手に取った。
「かもね。
まあ、事故物件から出て行くのって別に3月まで待たないと思うけど」
「新しく部屋を探す人が沢山現れる時期だから、貸し出せる様にしておきたいんでしょ」
碧が指摘する。
「そう考えると、3月4月とかって事故物件関連の浄化依頼が多くて退魔協会も忙しいの?」
あまりそう言う認識は無かったが。考えてみたら4月は授業の選択とかで忙しいから、基本的に依頼を断っているんだよね。
「かも?
基本的に4月は依頼を受け無かったから、知らないけど」
碧もちょっと首を傾げながら言った。
まあ、まだ2月末だ。
さっさと推定事故物件の鑑定をやって、早いところ退魔協会に依頼を出せる様にしてあげよう。




