相性は変わる
「そう言えば、凛って人のオーラというか魂と言うかなアレが視えるんでしょ?
それこそ男女の相性とかが一目で分かって凄腕マッチメーカーになれない?
退魔協会の合コンモドキパーティとかで凄い活躍が出来そうな気もするけど」
マッチングアプリの入力を終え、しっかり結婚希望時期を二十年先に設定していた碧がふと顔を上げて聞いてきた。
「う〜ん、こう、上手くいっているカップルやギスギスしていて破綻一歩手前なカップルは視たら分かるけど、お互いの事をよく知らない二人の相性が良いか悪いかは微妙かなぁ。
似た感じだったら必ずしも長期的に上手くいくとも限らないから」
オーラの色というか感触が近い人の方が価値観は近い事が多いが、価値観が近ければ上手くいくとも限らないからねぇ。
「あ〜。
確かに、自分にない感性を持った人に惹かれるタイプもいるよね」
碧が頷いた。
「そ〜。
自分に対する自己評価が低い人とかって自分と違うタイプを好む事が多いんだけど、やっぱ違いすぎると衝突に疲れちゃって長続きしない事もあるからねぇ」
かと言って、同じ様なタイプが揃っても退屈だって言うんで冒険を求めて浮気したり、無計画過ぎて生活が破綻したりって事もある。
「別に自分のことが嫌いじゃなくても自分と違う価値観を認める場合もあるよね?」
碧がちょっと首を傾げて指摘した。
「そうだね。
だから、オーラの噛み合わせは実際にある程度一緒に時間を過ごしていないと視ても分からないんだよねぇ。
それに現時点で良い感じにマッチしても、どちらかがそのうち変容する事もあるし」
特に社会に出て働き始めた後に、ノルマとか成功へのプレッシャーとかから価値観が変わることは良くあるからねぇ。
「うわ、学生時代にはぴったりパーフェクトだった二人が働き始めたらどうしようもなく駄目になる事もあるの?
社会人になって別れちゃうカップルって話し合いが足りないとか、より合う人に出逢っちゃったからかと思っていたけど、価値観そのものが変わる事もやっぱあるんだ?」
碧がしょっぱい顔をしながら言った。
「学生から社会人になるとそれなりに変わるし、社会人になってからでも部下がいる管理職になるとか、昇進競争が激しくなるとか、自分のキャリアの終着点が見えてくるとかで色々と変わるっぽいねぇ。
まあ、一度結婚すると何か大きなきっかけが無いと別れない人が多いけど」
実家の近所の知り合いなんかでも、結婚した時はパーフェクトな相性だったのに、数年ですっかりずれて不協和音マシマシ状態になっている夫婦も居た。
子供が出来て不協和音がマシになるカップルもいれば、前世の記憶が覚醒した時からずっと実質完全破綻状態になっている夫婦も居て、マジで見ていると結婚って勢いと惰性の産物なんだなぁと思ったものだ。
ちなみに、王宮魔術師時代はあまり親しい人に夫婦で王宮で働いている既婚者は居なかった(と言うか、親しい人自体があまり居なかった)。
寒村時代は村の中の限られた人口の中で適当に親同士の話し合いで結婚が決まったので、最初からそこまで盛り上がっていた訳ではないので誰の結婚生活も比較的平坦な感じだった。
それでも浮気したり家の中で暴力を振るう様なクズは男女どっちも少数ながら居たけどね。
小さな集団の社会だから、人の目が行き届いていたのであまり酷いと村の長老とかに窘められていたから、DV夫に殴り殺されるとか言う様なケースはあまり無かった気がする。
警察がしっかりいて治安が良い筈の日本の方がストーカー化したDV男に対処できてないって微妙だ。
あと、なまじ結婚に選択肢はあるせいか、現代日本では結婚するタイミングで一番盛り上がっている気がする。
盛り上がっていても実は相性はあまり良く無いなぁと言う夫婦もいるが。まあ、これは前世でも同じだったかな。
碧に会う前に結婚式場でバイトした時なんて、新郎新婦両方の興味がお互いの友人に向いていたりとか、片方がベタ惚れなのにもう片方はかなり醒めていたりとか、かなり切ない組み合わせも見た。
まあ、しっかり良い感じにマッチしているカップルも居たけどね。
ある意味、私の両親だって悪く無い感じではある。
碧パパとママの方がしっかりラブラブだけど。
「なんか微妙だねぇ。
ちなみにオーラ的な相性があるって事は、趣味とかってあまり夫婦が上手くいくか否かには関係ないのかな?
あのマッチングアプリも何故か趣味とか好きな物とか全然聞いてなかったけど。
趣味の一致って重要そうにも思えるんだけどねぇ」
碧が言った。
「お見合いとか合コンパーティとかでは会話のきっかけになりそうだけど、結婚生活ではあまり関係ないのかもね。
特に退魔師の場合はマジで子作りが何よりも重視されるっぽいし」
夢がないよねぇ。
まあ、私にしてもイマイチ『趣味は?』と聞かれても思い浮かぶものが無いから、書き込まないで済んだのは幸いだったと言えなくも無いけど。