理想を形に出来るかね?
『会員名簿の公開に関する苦情がそれなりに集まっている事もあり、この度、退魔協会の方でマッチングアプリを買収して運営させる事になりました。
ですので出来ればお二方の情報及び希望の入力をお願いできますでしょうか?』
先日の会員情報閲覧の驚きが褪せる前に、更にびっくりな連絡が遠藤氏からきた。
マッチングアプリ???
退魔協会が??
「え〜と、こないだ電話で言った通り、私たちは現時点では特に出会いを求めて居ないんですけど」
碧が電話に向かって応じる。
マッチングアプリの会社を買収して運営を任せるにしてもそれなりに内部で決めなきゃいけない運営方針とかあるだろうから、前回ウチらの情報を非公開にしてくれって言った段階でこのアプリの話は進んでいたんだろうなぁ。
遠藤氏の顔が見えたらきっと微妙な表情になったんだろうねぇ。
対面で話し合っていると表情に出ていなくても本心的な微妙な反応を感じ取れるから『何か言ってないことがあるな?』って察知出来る事が多いんだけど、やっぱ電話とかチャットアプリってそう言う点は駄目だ。
まあ、一々会いに行く面倒が無い便利さには変えられないけど。
特に、白龍さまの天罰デフェンスでかなり安全な今だと、億劫過ぎるんだよね。
それはさておき。
『このアプリは独身で適齢期の退魔師及び三親等以内に退魔師の血を引く適齢期の方に登録していただき、積極的に相手を探すつもりが無い場合は近くにいる方の情報を受け取るだけで自分の情報は開示されない形になっていますから、ご安心ください』
遠藤氏が言った。
うん?
つまり、『こんな結婚相手募集中な人が近くに居るよ、一度会ってみない?』と提案する事で興味がない人にも『ついでだから会ってみるか』と思わせる狙いがあるんかね?
勿論、相手募集中に設定してあったら条件の合う相手が近くにいたら『出会いを求めている人が居ますよ!!』とアプリの通知が両方に来るんだろうけど。
あと、マッチングアプリだったら近くに居なくても興味がある人には条件が合う人との出会いも定期的に手配するんだろうなぁ。
なんかこう、退魔協会も退魔師の血を絶やさないために涙ぐましい努力をしているみたいだね。
昔みたいにお見合い結婚が当然で、家のために女性が犠牲になる(とまでは言わなくても大変な思いをする)のは当然と感じない世代だと、どんどん退魔師の才能持ちな子供が減りそうだもんねぇ。
ただでさえ二人の大人の間に二人子供を産む夫婦ですら減っているのに、才能が無いのが分かった時点でもう一人なんて言うのはかなり厳しいタイミングになる事を考えると、退魔師の才能持ちを減らさない為にはマジで『最低二人、出来れば三人』の子が必要になるんだろう。
「じゃあ、いつか結婚相手を探したいと思う様になったらこのアプリの事を思い出すようにしますね」
でも、今入力しなくてもいいっしょ。
面倒だし、退魔協会のデータ漏洩防止に関する信用度は低いから。
『お二人に入力して頂けたら、藤山家の今年前半の特権ノルマを熟した事に致しますから!』
ちょっと必死そうに遠藤氏が言った。
まあ、碧なんて結婚して子孫を残して貰いたい最たる対象だろうからねぇ。
強制は出来なくても、少しでも興味を引くのに必死なのだろう。
「私はまだしも、凛は藤山家のノルマに関係ないでしょう」
碧がムッとしたように応じる。
『長谷川さまの才能も是非とも次世代に繋いで欲しいものですから。
何でしたら、え〜と……密林社のプリペイドカード2万円分お渡しします!』
なんか一気に現実路線な提案が来たぞ。
「乗った!」
2万円相当くれるなら、多少の情報をマッチングアプリに登録して今後それの通知を無視するぐらい、構わない。
どうせ実質私の個人情報は退魔協会が持っているのだ。
どうせなら『こう言うのは嫌』って条件をしっかり登録して見当違いなオススメをされない様にして、2万円もらうのもありだろう。
『良いの?
2万円なんて依頼の報酬と比べれば微々たる金額だし、藤山家のノルマは凛には関係ないでしょう?』
碧が念話で尋ねてきた。
『良いよ、どうせアプリの通知が来ても無視するつもりだし。
ある意味、アプリが条件が合うってお勧めしてくる相手の内面がどんな人間になるのか、ちょっと興味があるし』
人格重視的な希望を登録した場合に、どの程度善い人がくるのか、ちょっと興味がある。
退魔協会だって黒魔術師の才能持ちな調査員がいるんだから、クソッタレなバカ殿もどきの実態は読み取れる筈だが、そう言うのをちゃんと外して勧めてくるか否か、興味があるよね。
クソッタレは家柄と金目当てな女性に勧め、人格重視を求める人間には形式的な条件はイマイチでも誠実でまともな人をお勧めしてくれるのか?
ある意味、黒魔術師の調査員にしっかり登録者の内面まで調べさせたら理想的なマッチングだって可能かも知れないからねぇ。
そう言うのが出来るかどうか、観察させてもらおう。




