根性かぁ。
「先日、父の仕事の取引先から退魔師である私に結婚も視野に入れて自分の甥に会って欲しいから、是非一度夕食でもと誘われました。
もしかして、退魔協会って私の家族の情報を調べてデータベースに入れていたりしてます?
あと、データの漏洩ってこないだのハニトラ用に使った某国案件以外にも起きているんですか?」
知らない人に私の情報が流れているかもと言う状況がかなり気持ちが悪かったので、遠藤氏に電話して退魔協会が情報漏洩元かを確認する事にした。
まあ、馬鹿正直に答えてくれるかどうかは不明だが。
『退魔師の家族の情報はデータベースに入れていませんよ。
保険の受取人に関してすら、保険会社に丸投げしているのでこちらでは管理していませんから。
ただ、退魔師本人の情報は退魔協会に来て会員課で閲覧出来ますから、退魔師の知り合いに頼めばそれなりに調べられますね』
と言う遠藤氏の答えはちょっと想定外だった。
「え??
退魔師の情報って退魔協会で退魔師相手だったらフリーに開示しているんですか?!」
なんで???
『以前は退魔協会の会員全員の住所と電話番号と生年月日まで載せた名簿が毎年全員に配られていたんですよ?
流石にあれは中止しましたが、それなりに地域の情報やそこに住む退魔師の有無などは必要とされる場合があるので完全に無しにするのは反対が多過ぎたんです。ですから、住所は区や市町村レベルまで、生年月日の代わりに退魔協会への登録日だけが記載された名簿を会員課の方で管理して、退魔師の要請があったら見せる事になったんです。
コピー機で大々的にコピーするのは許していませんが、登録してからあまり年数が経っていない女性の名前をメモする程度はやれちゃいますねぇ』
ちょっとため息を吐きながら遠藤氏が付け足した。
なんかこう、ちょっと涙ぐましい努力を変な方向にしてない??
正確な住所をデータベースにキープしているのに、なんだって閲覧用に詳細がない情報を態々纏めてるの??
「なんだってそんな事を?」
時間の無駄だし、やっぱプライバシーの侵害じゃない??
まあ、退魔師登録日となると年齢には直には繋がらないけど。
『ちょっと怪しげな石碑の悪霊に関連する様な依頼を受けた際に、地元の退魔師に連絡を取って情報収集したりするのは良くあることですから。
引っ越す時なんかに地元にいる退魔師に事前に挨拶する事も推奨されますし。
あとは……それこそお見合いの申し込みをする為と言うのもありますね』
遠藤氏が説明した。
マジかぁ。
「いやでも、それって他国の政府に買収された退魔師が日本の退魔師の情報をガンガン集めて売ったりしたら不味くないですか?」
態々退魔協会のネットワークをハッキングしなくても、退魔師を一人買収すれば情報入手し放題じゃない?!
『最近では情報の開示を求められても理由を聞くようにしていますし、誰がいつどんな情報を閲覧したかを確認して怪しい行動をとった方には調査員や必要がありそうなら警察の方からお話をお伺いしに行きますから』
遠藤氏が応じた。
うわぁ。
怪しげなレベルで情報収集していると調査部の黒魔術師が記憶を読みに来るかもってやつ?
それも怖いな。
でも、マジで前回のハニトラなんて『見合い相手を探してます』って言えば一々データベースに侵入しなくてもなんとかなったんじゃない??
「見合いをする気はないし地域の情報も持っていないから、自分の情報を開示対象にしないでくれって要求するのは可能ですか?」
横で源之助と遊んでいた碧が急に口を挟んできた。
『一応可能ですね。
あまり推奨されていませんが』
遠藤氏が渋々と言った。
「じゃあ、私と長谷川凛の情報を開示対象外にして下さい。
必要なら所定の書類に書き込んで申請書を提出しますので、手続きの流れを教えてください」
碧が電話の方にかがみ込みながら言った。
うんうん。
私らの情報は非開示でお願い。
でも。
拓海氏の親か従兄弟って頑張って関東一帯の若そうな女性の情報を全部抜き出して、興信所でも使って家族の名前や勤務先を見つけたんだろうなぁ。
なんとも根性だね。
と言うか、退魔師の旧家が色々と必死に才能持ちの子を産ませようとしている事を考えると、各地の退魔師の年齢とか親戚関係を調べて、子沢山な退魔師の家系の女性情報を集めている退魔師とか他にも居そうかも。
それこそ、退魔師としての腕前がイマイチでも閲覧権には関係ないんだろうから、仕事で稼げない分をお見合い先情報を集めて売る事で補おうと考える人が居ても不思議はない気がする。




