ちょっと無責任じゃない?
「私の父親は退魔師で、退魔師系の旧家の跡取りなのに大学で会った一般人の母に惚れてあっさり恋愛結婚したんだ。
退魔師同士で結婚したところで確実に子供が退魔師になると言う訳ではないらしいが、退魔師と一般人の間では生まれる確率は下がる。
それでも沢山子を産めばまだ一人ぐらいは才能持ちが生まれたかも知れないのに、母の悪阻が酷かったからと二人目の子供を産ませる事すら反対した愛妻家でね」
お見合いモドキで紹介された相手(大澤拓海と自己紹介された)はちょっと水を向けたらあっさりお見合いモドキの裏に関して話し始めた。
「退魔師の家系だと、才能持ちが妻との間に産まれなかった場合は適当な血筋の女性を愛人にして子供を産ませ、才能持ちな庶子を引き取る事も多いそうですが?」
愛妻家ならそれもしなそうだが、男の『妻のため』と言う行動って時々女性視点から見たらありえない方向な事もあるからなぁ。
「父はそんなナンチャッテ愛妻家と違ってマジもんだから。
愛人を取れと迫った分家は本家からの援助を一切合切引き上げられて、夜逃げする羽目になったよ。
ただ、父としては母が大澤家の伝統を断絶してしまったと気に病むのも嫌らしくてね。私に才能持ちな子供をゲットする責任を押し付けて来たのさ」
拓海氏が皮肉げに口元を歪めながら言った。
「分家に才能持ちな子は居ないんですか?
そちらを養子にとるなり、退魔師としての大澤家の跡継ぎに指名するなりすれば良いように思いますが」
退魔師の旧家ならば一族の若いのの中に才能持ちが何人か生まれていそうだが。
旧家ならば金はそれなりにあり、子作りも推奨しているとなれば、相手を選べば一人も生まれないなんて事はないだろう。
つうか、考えてみたらそれこそ遺伝子検査で才能持ちを産みやすい男女の組み合わせとかの研究をどっかの旧家が金を出してやらしてそう。
でも、成功してもその情報を他の家には流さないかな?
それこそデザイナーベイビーもどきな才能持ちを寄付(こっそり購入もあり?)された卵子や精子を使って高確率で作れる様になったら、目が飛び出る様な高値でサービスを売り付けるんだろうけど。
学会の倫理委員会が反対する様な研究でも、公表しなければ違法行為とされないだろうから研究は絶対誰かやっていると思う。
……違法行為じゃあないよね??
それとも、精子や卵子を色々と弄って実験するのって提供者の依頼でも違法だったりする??
まあ、法規制があったとしても、金持ちがこっそり研究所でやっている分にはそう簡単にはバレないし止められないだろう。
それはさておき。
「分家には才能持ちが何人かいるけど、そちらに大澤家の当主の座を受け渡したら母が気にするかも知れないだろう?
だから私に退魔師の家系の女性と結婚するなり愛人契約するなりでなんとしても才能持ちな子供を得ろと煩く言ってきていてね。
まあ、社会人になって普通に働いている身となった今なら別に父親から家を継がせないとか資金援助をしないと脅されてもそれ程怖くは無いんだけどさ。
どうしても保証人が必要な場合だったら母なり他の親戚なりに頼めるんだし、最近は保証人が必要な状況自体も減って来ているからね」
拓海氏が続けた。
「では何故このお見合いモドキに出て来ているんです?」
しかも母親側の親戚まで頼っている。
「大澤家がどうなろうと構わないが、母親に『私』の事を失敗だと密かに気に病まれるのは癪だろう?
だからまあ、許容範囲内な性格な退魔師や才能持ちな女性がいたら婚前契約込みの結婚を持ち掛けるのも吝かではないかなと会うのだけはしているんだ」
拓海氏が説明した。
う〜ん、確かに両親に自分が生まれたのは失敗だったって気に病まれるのは嫌だね。
口に出して責められたらまだ『お前らの選択肢のせいだろうが』と反発出来るけど、何も言わずに後悔だけされてるとなんとも微妙な心境になってもしょうがないかもね。
つうか、気にするんだったら悪阻なんて我慢して子供をもっと産むなり、海外なりで代理母契約をして子供を産ませるなりすれば良かったんだよね。
旧家って事は長く退魔師の血筋が続いたって事なんだから、ある意味才能が遺伝しやすい家系なんだろう。ならば数を撃ては一人ぐらいは才能持ちが生まれただろうに。
手を尽くさなかった癖に今になって後悔して息子にその後始末を押し付けるなんて、ちょっと酷い。
まあ、これは相手側の視点であり、私にとってはかなり上から目線なムカつく話だが。
「残念ながら私はまだ結婚する気も、子供を作る為の道具になる気もないので、諦めて下さい。
父親の仕事関係で圧力を掛けられたから、タダ飯目当てに来ただけなので」
食事代は向こう持ちということで話がついているんだよね。
やっぱ高級レストランを人の財布で食べるのは嬉しいし。