悪質な愉快犯
「あ、霊発見」
ぶらぶらと緑豊かな(と言っても2月だから常緑樹だけが緑で残りは茶色な幹と枝だけど)構内を歩き回り辿り着いた池のちょっと脇の方に石碑っぽい物があり、そこに霊が取り憑いていた。
「う〜ん?
これは……合格祈願すると効果あるかもって最近言われるようになった石碑だね。
実際には単に大学を建てた際のスポンサーが書いた詩を彫っただけの記念碑らしいけど。
何か、ここを思わせる大学が出てくる小説で主人公が合格祈願していたらそこでヒロインと出会って、2人とも合格して大学でウフフあははな楽しい人生を暮らすきっかけになったのにあやかってここで祈願するのがここ数年流行ってるらしい」
携帯でささっと調べた碧が教えてくれた。
「えぇ?
なんかそれ、合格祈願と言うか彼女と上手くいきますように系の効果がありそうじゃない?」
しかも単にフィクションの中で似ている場所が出て来ただけで全く関係ないのに、祈るのが流行るって。
日本人ってマジで流行りで祈るのが好きだよねぇ。
多数がガッツリ祈れば湯島神社の菅原道真じゃないけど対象が神格化して効果が生じる可能性もゼロじゃあ無いのかもだけどさぁ。
ここはなんか、タチの悪い霊が棲家にして人の想いを喰らって力にしているっぽいね。
そっと石碑に手を当てる。
うん。
潜んでる霊は悪意ありなタイプだ。
魔力をガンガン流し込んで拘束し、中身を読み取る。
どうやら大元の霊は受験に失敗してここで自殺したらしい。
別に貧乏で浪人出来ないわけでも、私立の大学に通う資金力が無いわけでも無いのに。
「何か異常な程にプライドが肥大化していた受験生が、合格出来なかったと人に言うのが耐えられないと試験結果を見たその帰りにここの近くで首を吊って地縛霊化したみたいね」
碧は顔を顰めた。
「何それ。
失敗したのを認めるぐらいなら死ぬって?
迷惑すぎる」
普段だったら流石に人目がある所で首なんぞ吊ろうとしたら準備している段階で発覚して止められただろうに、偶々雨で人が出歩いてない日の夕方で、薄暗い中で地味なグレーのコートが背景に混じったのか、本人が死に切るまで…‥と言うか金曜日だった事もあって月曜日の朝まで見つからなかったみたい。
本人(霊)にはそれも不満だったっぽい。
どれだけ構ってちゃんなんだ。『残念だったねと言われる屈辱を受けるぐらいなら死ぬ』と勝手に首を吊った癖に。
「なんかこう、不満一杯なままに死に、本人が満足するほどのドラマもなく発見された後に死体が撤去されて埋葬されたけど、それも不満だったから当然成仏せず。気付いたらここで地縛霊になっていたみたい」
そのうち褪せて消えちまえば良かったのにね。
まあ、恨みの感情ってしぶといからねぇ。
「それとこの受験祈願の石碑もどきとどう関係あるの?」
「本当は全然ないけど、受験で神経質になっている人がそこそこ来るようになってその漏れたエネルギーでちょっと活性化して、根性でその石碑まで移動して祈りを吸収するようになったっぽい?」
お盆の時に頑張って駅で移動していた絵奈さんの霊もだけど、意外と地縛霊も多少なら動けるんだねぇ。
動こうとするインセンティブが無い地縛霊が多いんだろうけど、祈りっていう餌に釣られてこの霊は動いたようだ。
「祈りの対象じゃ無いのに何か吸収できるの?」
碧がちょっと驚いたように尋ねた。
「まあ、ダメ元な漠然とした期待だから、石そのものへの軽い祈りって感じで、石に取り憑いた霊でもちょっと吸収出来たみたい?
そんでもってここに下見で来た連中のうちでストレスで一杯一杯になっている被害者に取り憑き、他の受験生へ嫌がらせをし始めたみたいね。
一昨年はなんか鼻を啜ったり咳をして周囲の気を散らすのと大声で文句を言う程度しかやらせられなかったみたいだけど、去年は波長が合っちゃったのか大事になって、そいつに取り憑いて騒ぐのを楽しんでいたら、お祓いされてびっくりして逃げたんだね。
なまじ祈りを喰って多少なりともパワーアップしたせいか、神社での厄祓いで散らずにここまで戻れちゃったっぽい?」
「そんな無茶な」
碧が呆れたように言った。
「日本人のいい加減な祈りの習慣が悪い方向に働いちゃったみたいね〜。
取り敢えず、祓っちゃうね」
特に何か調べて救ってあげるべきな状況や親戚がいるっぽい感じでも無いから、さっさと消そう。
人を苦しめて楽しむような悪質な愉快犯な悪霊なぞ、存在するのも許せん!