ロクデナシ?
「すいませんが、大学で怪しい悪霊が感じられるけど場所を特定できないと報告した調査員がどこを回ったのか、教えてもらえますか?」
武下さんに教わった見どころ校舎を回るルートを歩きながら碧が遠藤氏へ電話してみた。
折角歴史にある大学の敷地に来ているから見どころはどちらにせよ回るつもりだけど、調査員がどこをチェックしたのかは知っておきたいからね。
『……前年度に刃物で切りつける事件が起きた場所と今年度の襲い掛かった場所、および合格発表の結果が張り出される場所周辺を調べたそうです』
資料を確認していたのか、暫しの沈黙の後に遠藤氏の返事が来た。
え?
それだけ?
「取り憑かれた受験生が回ったところを確認しなかったんですか?」
思わず碧の通話に横から口を挟んでしまった。
『どうも悪霊の場所が移動しているようなふわふわした感覚があった為、最初から自分には探すのは無理だろうと諦めていたそうです』
遠藤氏が答える。
ええ〜、退魔師に任せるって投げてたの?
まあ、悪霊を感じられたんだから依頼を受けるのは問題ないって結論だったから、悪霊の場所を特定するのは祓う人間がすれば良いと思ったんかもだけど……ちょっと無責任じゃない?
『ふわふわした感触があった』ってどう言う意味なのかよく分からないけど。
「そうですか。
分かりました」
碧が短く応じて通話を切ってしまった。
まあ、あれじゃあ掘り下げて聞いてもあまり得るものはなさそうだったけど。
「退魔協会の調査員ってそれなりに有能だと思っていたんだけど、そうでもなかった?」
それとも今回のが偶々無能だったのか。
優雅なアーチが重なり合うような渡り廊下っぽいスペースを歩きながら碧に尋ねる。
西洋風な古い建物って優雅なのが良いよねぇ。
変に斬新でモダンな建物よりも好きだな。
これってそれこそオックスフォードとかケンブリッジとかの大学を見学しに行けたら更に歴史を感じられて良いのかもなぁ。
国外に出るのは危険すぎるからそれこそ3Dなバーチャル観光以上のことは出来ないけど。
そのうち観光がてらに明治維新後に外国人設計士に頼んだ日本国内の建物を見て回っても良いかも?
下手をしたら地震で崩れたり、耐震性が足りないからって撤去されたり耐震工事で見た目が微妙になったりするかもだから、あまりのんびりせずに早いうちに見に行くべきかもなぁ。
まあ、そのうちにだけど。
それこそいつかキャンピングカーを買ったら、源之助も連れて暑過ぎず寒過ぎない春や秋に国内旅行であちこち回るのもありかもだよね。
「調査員の仕事って、悪霊が存在するか、人間による犯罪や妄想かを確定させるのと、退魔師にとっての危険度査定だけだからね。
調査そのものはほぼ固定費だから、探し回って時間が掛かるような作業は契約をした後に退魔師が時給なり成功報酬なりを貰う約束をしてやるべしって言うポリシーなんだと思う」
碧が答えた。
なる程。
大学の敷地を探し回る作業は退魔師がお金を貰ってやれってことなのね。
「でも、移動しているようなふわふわした感覚ってどう言う意味だったんだろ?」
移動する霊はかなりレアだと思うだけど。
「今年の取り憑かれた受験生を調べた際の悪霊を感じ取れたけど、その強さが一定でなくて不安定だったから場所を確定できなかったって事なんじゃない?
動き回っていたんじゃなくって厄祓いでダメージを喰らって不安定だった可能性が高いと思う」
碧が指摘した。
「そっか、人から人へ移り回っている訳では無いかもなのね。
取り憑かれた受験生が回った場所を確認して見つからないから動いているかもって言った訳じゃ無いとしたら、それこそ私らが回ったらあっさり見つかる可能性もありか」
「と言う事で、真面目に見て回ろう。
でも、今まで見て来た校舎周辺には特に霊が取り憑いている様な場所は無かったよね?」
背の高い銀杏か何かの大木が並んでいる周囲を見回しながら碧が言った。
「うん、見た目は中々良いけど、特に悪霊は居なかったね」
そのうち闇落ちするかも知れない地縛霊は2体ほど居たけど。
「じゃあ、残るはあっちの池かな?」
碧が構内案内の地図の池を指差しながら言った。
「だねぇ。
池に居る霊だった場合は、受験に失敗して入水自殺でもしたのかね?
それとも夜中に忍び込んでうっかり冬に足を滑らせて溺死?
在学生だったら酔っ払ったり研究で夜遅くまで居たりでうっかり死んじゃう状況を色々と考えられるけど、受験生だとなんかあまりうっかりな状況は考えられないよね。
それとも若者が憎いってだけな年寄りの僻みが凝った悪霊が受験で不安定になっている若いのに取り憑いただけなのかな?」
自分を殺した相手やそれに連なる一族の人間を祟るならまだしも、完全に関係のない若い子に二度も取り憑いて暴力を振るわせようとしたなんて、あまり同情の余地がないようなロクデナシっぽい気がする。
見つけたら、碧じゃなくて私が除霊してやろうっと。




