一生に関わるかもだからねぇ
『試験会場に待機していただき、異常行動をとった人間、若しくはそちらで憑依を気付いた人物を一時的に拘束し、その人物に憑いた悪霊を祓っていただくと言うことでどうでしょうか?』
大学のどこに居るかも分からない霊の対処の件で電話があった翌日に、遠藤氏から改善案の連絡があった。
「それって何日間なんですか?
あと、異常行動を起こした人が誰かを傷つける前に拘束できる保証はありませんよ?」
碧が応じる。
試験を受けに来て悪霊に取り憑かれて誰かに暴力を振るうって言う場合だったらシャーペンで誰かを指すとか誰かを拳で殴る程度になるが、それこそ試験会場の下見に来て取り憑かれ、本番でやらかす場合は刃物とかを持ってくる危険性だってある。目の前で暴れ始めたならまだしも、広い大学敷地内の何処かで誰かが暴れ出し、連絡を受けて到着する前に起きた怪我を防げなかったって責められても困る。
『試験の日程は3日です。
全ての被害を防ぐのがほぼ不可能なのは大学側も理解しており、安全確保の為に通常より多く警備の人員を配置して異常な行動を取ろうとしている人物を見かけたら即座に隔離する手順になっています。
お二人にお願いしたいのはこう言った人物の行動が霊障の結果なのかの見極めと、必要に応じた除霊です』
遠藤氏が説明した。
問題が起きてるのが目視されたら対処する方向で行くのか。
何千人も居る受験生を見張るだけの人員を雇うぐらいだったら、碧に大学の敷地を全部除霊してもらう方が安上がりになるんじゃ無いかねぇ?
それとも敷地が広いと除霊料もバカ高くなるのかな。
まあ、広いから全部の除霊にそこそこの日数が掛かるだろうし、数百万円ぐらい掛かるかもだけど。でも、その敷地に散らばる数千人を見張って守る人件費だって凄い事になるんじゃないかね?
除霊にそれだけの費用を掛けるのは難しいのだろうか。
大学の費用の公開ってどのくらいの詳細まで開示しなきゃいけないんだろ?
まあ、それはとにかく。
『ちなみに報酬は通常の待機時に払う時給プラス除霊した場合は一回につき10万円です』
遠藤氏が続けた。
碧がこっちを見たので『良いんじゃ無い?』と口パクした。
これって片っ端から異常行動した人を『霊に憑かれていた』って私達が主張して除霊費用を請求されたらどうするつもりなんだろう?
見張りを兼ねて、退魔協会の調査員にも同行させるのかね?
でも、退魔協会にしたって報酬の何割かを受け取るんだから沢山除霊したって主張に合意する動機があるんだけどね。
まあ、碧も私もそんなちゃっちいズルはしないけどさ。
「分かりました、それで良いでしょう。
何日にどこへ行けば良いのか、報酬の計算方法も含めてメールで詳細を送って下さい」
碧が答える。
入試でのヘルプだから、うっかり日を間違えたとか違う敷地に行ったなんて事があったら取り返しが付かないからねぇ。
しっかりメールで証拠を残して見直しも出来るようにしないと。
『承知しました。
依頼を受けていただき、ありがとうございます』
遠藤氏が答えて、通話を終えた。
「なんか随分と遠藤氏が下手に出ている感じがしなかった?」
依頼を受けてありがとうなんて今まで言われたっけ?
定文的な『お疲れ様でした』とか『いつもお世話になっております』みたいな『ありがとう』は毎回言われていたと思うけど、今回はなんかこう、凄く真摯な感謝っぽかった。
「自分の子が受験するのかも?
そのくらいの年代の子が居てもおかしくない年に見えるし」
碧がちょっと悪戯っぽく笑いながら言った。
「退魔協会の職員の子だったら才能持ちな可能性も高そうだけど、ある意味あの大学に受験するだけの学力があるなら違うのかもね」
別に魔力と学力は関係ないが、将来的に退魔師になる子が国内屈指の大学を受験出来るほど勉強に頑張るとは思えない。
まあ、そこまで頑張って勉強しなくても成績が良い天才肌な子の可能性もあるけど。
どちらにせよ。
大学受験なんて一生を変えかねないイベントなのだ。
必死に頑張ってきた努力が、不満を忘れられなかった死者のせいで台無しにされては可哀想だ。
頑張って依頼に取り組みましょう。