成功条件が不明じゃん
『実は、とある大学に質が悪い霊が出るらしく、それの除霊の依頼が来ております。
大学の評判にも関わる故に学生の様なフリをして探せる退魔師を希望との事なので、お二方にお願いしたいのですが』
退魔協会の遠藤氏から電話が掛かってきた。
ちょっと久しぶりに依頼の話な様だ。
だけど。
学生のふりをして探す??
「探すって、地縛霊じゃないんですか?」
碧が尋ねる。
『どうも大学の敷地内を彷徨く霊らしく、何度か悪さをやっていると思われますが、場所が変わる上に問題が起きた場所を後から探しても見つからないので、敷地内に囚われて彷徨っているタイプだと判断されています』
遠藤氏が答える。
「え、退魔協会の調査員も見つけられなかったんですか?」
調査員に実在を確認されないと依頼を受けてもらえないと思ったんだけど。
『悪霊の痕跡はありましたので、依頼の必要性は確認されています』
との事だった。
そうは言われてもねぇ。
「何度か悪さをやっているって何をしたんですか?
大学を彷徨っている死霊を倒して依頼完了と思ったら他にも悪霊が居て、依頼失敗なんて事になったら困りますが」
遠藤氏に詳細を確認する。
『受験に失敗して大学の敷地に来て自殺した霊なのか、受験しにくる子供たちが精神的に不安定で特に影響を受けやすいのかははっきりしないのですが、受験生が構内に入る時期になると被害が出る様子なそうです』
遠藤氏が言った。
うん?
そう言えば、去年どこぞの有名な大学の前で、受験生が他の受験生を襲いかかる騒動があったね。
もしかしてあれも悪霊に取り憑かれたか唆されての騒動なの?
「未練を残した霊なんて、それなりな大学だったら大量にいるのでは?
それを全部祓うとなったら大変な手間になりますが」
碧が指摘する。
と言うか、実質敷地内の悪霊を全部祓わないと問題になっている霊が祓われたかどうか、分からないんじゃない?
流石に受験に失敗して態々大学構内にまで忍び込んで自殺した霊とか、外で自殺したのに大学構内までなんとか移動してきた霊の数はそこまで多くはないだろうけど、単に精神的にギリギリで不安定な受験生にちょっかいを出す霊ってだけだったら、それこそ卒業とか就職に失敗して自殺した霊とか、男女の愛情の縺れで亡くなった霊とか、数千人の生徒が常時出入りする敷地じゃあ可能性はほぼ無限大に近い気がするんだけど。
『では……受験生が出入りする範囲だけの除霊をお願いすると言うのではどうでしょう?』
遠藤氏が代案を挙げてきた。
「ちなみに、学生が立ち入り禁止にされる範囲って構内にどれだけ厳密に設置されるんですか?」
受験する際の会場として指定される場所は決まっていても、入っちゃいけないって言われる場所を縄で仕切って見張ったりはしてないんじゃない?
受験生が全員受かる訳じゃないんだから、何度かに分けて試験があるにしても、毎回一学年の全生徒数の倍ぐらいは入ってきそうだし。
デリケートな精神状態になっている受験生を守りたいと言う気持ちは分かるけど、ちょっと条件が大雑把すぎて難しいよ、この依頼。
ある意味、時間を掛けて碧に敷地全部を浄化して貰う方が早いぐらいじゃない?
そうなると悪事を働いているらしき霊一体って訳にいかないからかなり除霊代が高くなるだろうけど。
『……依頼主側と条件をもう少し絞り込めないか、相談してみます』
遠藤氏が暫し沈黙してから言って、電話が切れた。
「それなりにきっちり事前調査して条件を固めてくれる事が多い退魔協会にしては、随分とズブズブな依頼の話だったね」
退魔協会って色々と信頼できないけど、それなりに依頼の査定とかに関してはしっかりしていると思っていたんだけど。
「どっかの政治家と繋がりの強い一流大学の学長あたりが政治家か官僚経由で捻じ込んで来たんじゃない?
確か超有名な国立大学で去年、受験生が門前で他の受験生を切りつける事件があったじゃん。
あれが霊のせいだったって気付いて慌ててるのかも?」
碧が指摘した。
「確かにニュースに出てた大学だったら官僚も政治家も卒業生にそれなりにいそうだけど、それだったらなんだって2月になる今更言ってきたんだろ?」
「もしかしたら受験の下見に来た学生が霊にちょっかいを出されて暴れたとか、変調をきたしたとかなのかも?
去年の騒動が単に良くある受験ノイローゼの結果だと思っていたのが、実は違ったかもと分かって慌てて依頼を出したのかもね〜」
碧が笑いながら言った。
うわぁ。
下手すると、それって霊のせいじゃない可能性もあるじゃない!
何をしたら事件(?)が解決したのかもはっきりしない案件なんて、最悪だよ?