確保!
「うおぉぉぉ!」
制止の声を聞いた放火魔は叫び声を上げながら……左の方へ逃げていった。
おっと。
叫ぶなら立ち向かってくるのかと思ったら逃げるんですか。
「ふんっ!」
これから逃走劇かな?と思っていたら、いつの間にか車から出てきていた田端氏がフライングタックル的に放火魔を薙ぎ倒し、なんかあっという間にうつ伏せに地面に押し倒して放火魔の腕を背中側で手錠に掛けていた。
早!!!
普段はスーツを着ていて、碧にそれなりに良い様に使われちゃう事も多い田端氏って普通なサラリーマンっぽく見えるんだけど、やっぱプロなんだねぇ。
流石に早い。
定期的に人を捕まえる練習の研修とか、受けているんかな?
退魔協会に派遣されていたらあまり容疑者を追いかけて物理的に止めて逮捕するなんてことはしなさそうだけど。
あっという間に手錠で放火魔を拘束した田端氏がもう一人の警官の方に何か声をかけた。
確保?
完了?
短い言葉だったから咄嗟になんて言ったのか、聞き取れなかった。
でも問題ないと言う知らせだったのかな?
『止まれ!』と叫んだ方の警官が直径5センチぐらいの打ち上げ花火っぽい筒を燃えている雑誌の方に向けたら、シュワ〜っと白い煙……か粉?が出て、火が消えた。
へぇぇ、あんな細い消火器?があるんだね。
あれだったら街中の道に時々赤い箱に入って設置してある消火器よりも持ち運びしやすそうだ。
「無事に放火魔が捕まったみたい。
火も消されたし、一件落着ってところかな?」
横で根気よく待っていた碧に報告する。
「現行犯で捕まれば流石に言い逃れは出来ないよね。
これから家を調べるんだろうけど、他の火事の現場と繋がる様な証拠が出てくるといいね」
碧が炬燵の上で寝ている源之助のおでこを優しく撫でながら言った。
「そうだね。
まあ放火魔って自己顕示欲が強いタイプが多いって話だし、どうせ今回現行犯で捕まってるからうまいこと煽てて追い詰めたら自白するんじゃない?」
これで十分な証拠が出てこなかったら……ある意味、本当の事を話したくなる様な意思誘導を使いたくなる状況かもねぇ。
そう考えると、なんで自白剤を検査当局側が使わないんだろうと言うのはちょっと不思議かも。黙秘権に反するからと言うのがあるんだろうけど、黙秘権がなんで認められるのかも微妙に不思議だ。
そりゃあ、喋らせるために拷問するとかはダメだけど、やっていないと主張するのと黙秘権って違うのかな?
第一、自白するまで2日とか3日拘束して朝から晩まで『吐け!』って攻め立てるのって全然黙秘権を守ってないと思うし。
イマイチよく分からない。
まあ、実際のところ現在存在する自白剤って副作用があるとか後遺症があるとかで危険なんだろうね。しかも、都合よく『嘘を付かずに本当の事をバラす様になる』と言うよりは『人の言う通りに行動しやすくなる』ってだけで、尋問側がその気になれば混乱させてやってない犯罪に関しても自白っぽいセリフを吐く様に誘導できちゃう危険性が高いんだろうなぁ。
せっかく怪しい人を捕まえたのにちゃんと立件できなかったらマジで悔しいだろうとは思うけど。
前世だったら黒魔術師が出てきて尋問すれば一発だったからなぁ。
まあ、貴族側も王族の為に動く黒魔術師に手当たり次第に情報収集されちゃあ困るって事で、黒魔術師による貴族の尋問に関してはそれなりにやって良い状況の規定が決まっていたけど。
何故かそう言う規定が幾つかあるのにクソッタレな王族がやりたい放題だったのは今から考えるとちょっと不思議だ。
役立たずを処分しやすい様に、ある程度は敢えて見逃してたのかね?
「さっさと有罪判決が下されて犯人が刑務所に叩き込まれる様になると期待しよう。
ここら辺だったら火事になっても消防車が入れない様な地区は無いと思うけど、それこそ母親が実際に高齢者施設に入って、あの放火魔が別のところに移動したらもっとヤバい事になってたかもだしね」
碧が言った。
だねぇ。
それにやたらと風が強い時もあるから、ここら辺でもヤバい偶然が重なったらガッツリ火事が広まるなんて事も起きかねなかったかもだし。
風が強かったら、火をつけてもちゃんと燃え上がる前にかき消される可能性は高い。だけど消えない様に放火魔がしっかり最初の火種を育てたら今度は燃え上がった炎から火種が風にガンガン飛ばされて危険な事になりかねない。
まあ、そんな事になったらそれこそ炎華に活躍して貰ったかもだけど。
そこまでいく前に、ちゃんと現行犯で確保出来て良かった。