張り込み
『寒いのは嫌です〜。
ハネナガに見張っておいて貰って、火がついたら声を掛けてもらえれば消しますから〜それでいきましょうよ!』
放火魔男の家を老母の安全のために見張っておいてくれないかと提案された炎華はやはり嫌がった。
『風に吹き飛ばされない様な箱型の巣を設置してくれるならやってやっても良いぞ』
ハネナガちょっと偉そうに提案した。
昨日見て回った100円ショップの籠は、素材はまだしも形が浅すぎて中身が風で飛ばされるのでは無いかと心配しているっぽい。
「う〜ん、箱型のバスケットにトレーを固定して蓋なり壁なりな感じにして、蓋部分の高さが足りない分が入り口って感じな巣で良い?」
流石に100円ショップに鳥の巣箱は売ってなかったんだよね。
それっぽいのを服とか洗濯物を入れるバスケットに加工して作るんで負けてくれるかな?
ホームセンターにあったか微妙だけど、あそこまで歩くのは遠いからなぁ。
あ、そう言えば密林社に騙されてプライム会員になったのがまだ有効期限内だから、こっちで1000円程度に鳥の巣があったらそれを買うかな?
これの方が無難かも?
「これなんかどう?」
タブレットで密林社のサイトに行き、『鳥の巣』で検索したら1000円で思っていた様な深い壺形な籠で出来た鳥用の巣があった。
「と言うか、考えてみたら外じゃなくてこの部屋の窓辺の上の方にこれを固定するんでどう?
外は見えるし、風で吹き飛ばされる危険も無いよ?」
薄い籠ならまだしも深い籠だと虫が中にいそうで、台風の時に家の中に持ち込むのは微妙に嫌なんだよねぇ。
その点、最初から家の中にある分には安心だ。
カラスとは言え霊だから、家の中に巣があっても粗相や虫湧きの危険は無いし。
『ふむ。
外で何かを拾った際に窓を開けてくれるならばこれを窓の内側に設置するのでも良いぞ』
ハネナガが言った。
そっか、ハネナガ自体は外から家の中に直接壁や窓を突き抜けて入ってこれるけど、外で見つけた光り物は壁を通り抜けられないよね。
私が窓を開けることで、蝉の抜け殻とかを持ち込もうとしたら止められるから丁度いいと言うことにしよう。
まあ、カラスが自分の巣に蝉の抜け殻や死骸を持ってくるのか知らないけど。
猫だとネズミとかGの死骸をベッド元に持ってくる事があると聞くが、考えてみたらカラスはそう言うことはしないよね??
「よし、じゃあこれをオーダーしとくから、ハネナガはあの放火魔を見張っておいて、誰かに暴力を振るおうとしたり変なところに火をつけようとしたり、その他怪しい素振りを見せたら教えて。
特に放火しそうだったら炎華に即座に知らせて鎮火させるの、よろしくね」
ハネナガに頼み込む。
ちょっとした魔力払いでほいほいなんでもやってくれたクルミと違って、ハネナガはシビアだなぁ。
まあ、適材適所だし千円程度構わないけど。
『うむ、では行ってくる』
ハネナガが壁を突き抜けて飛び出して行った。
「考えてみたら、田端さんはまだあのハニトラ騒動の後始末で忙しいかも?」
炬燵に入りながら碧がふと言った。
「あ。
そう言えば?
なんかもう終わった気がしてたけど、どの位田端氏が関与してるんだろうね?
スパイ戦みたいな感じになっていそうだけど、警察がそのまま関与し続けるのかな?」
もっとCIAかFBIみたいなところが対処してそう。
いや、日本でもアメリカのNSAみたいな国家安全保障局って言うのが出来たらしいし、そっちかな?
そんな事を話しながらお守りを作ったり炬燵の魔力に負けてうたた寝したりしていたら、夕方にハネナガから念話が届いた。
『田端とか言う男が来たぞ』
お?
これから張り込みですかね?
住宅街の場合ってどうやってするんだろ?
街中だったらそこら辺の喫茶店とかファミレスに入れば良いだろうけど、あの放火魔の家の辺は完全に住宅地だったからなぁ。
『ちょっと見せて』
気になったので視界共有をハネナガに頼む。
『うむ』
視界が切り替わったら、屋根の上にいるらしきハネナガの視界が見えた。
霊体だから寒さなんぞ関係ないって事で、外に居るみたいだね。
ハネナガの視線の先に注意を払ったら、あの放火魔の家からちょっと離れた斜め向こうの方に路駐してある車があり、その中に人がいる様だった。
露骨にダークガラスじゃ無いんだけど微妙に暗いガラスのお陰で、中に人がいるのが分かりにくいが、ハネナガの視力だとしっかり助手席に座っている田端氏の姿が見えた。
なるほど、路駐車を使うのか。
近所の人に通報されないと良いけどね。
『先ほどまで男と女の二人組だったが、夕方になって田端とか言うのともう一人の男と交代したようだ』
ハネナガが教えてくれた。
うわ〜。
もしかして、田端氏ったら日中は退魔協会の仕事(それこそハニトラ関係?)をしていた上に、夜はここで張り込みをするの??
丸投げした身だけど、ちょっと同情しちゃうな。
と言うか、疲れてて二人ともうたた寝して見過ごすなんて事はしないよね??
『もしも放火魔が家を出そうな感じになった時にあの二人が寝てたりして気付かなそうだったら注意を引いてあげてくれる?」
何か小石でも車の屋根の上に落とせば目が覚めるかもだし、それこそ野良猫に声を掛けて車に飛び乗って貰うのもあり?
最近はあまり野良猫が居ないから、都合よく協力的な猫がそこら辺にいるかは微妙だけど。
『あの巣の中に柔らかい生地を入れてくれるなら、一瞬だったら車の中で音をさせるのも可能だ。驚かして注意を引いてやろう』
ハネナガが言った。
なんか随分と巣のアイディアが気に入ったみたいだねぇ。
鳥の巣なんて比較的短期間に使い捨てするのかと思っていたんだけど。
まあ、他の鳥との競争とかが無くなった今だこそ、拘っているのかな?
「了解〜。
何か古くて柔らかくなった布を探しておくよ」
ボロくて着れなくなったTシャツでも切って巣に敷こう。