情報共有と言う名の丸投げ
「どうだった?」
ふうっと息を吐いてハネナガとの感覚共有を切った私に碧が聞いてきた。
「こどおじだった。
汚部屋に如何にも放火に使いますって感じな道具が色々と積んであったから、間違いなく放火魔だね」
あの部屋の中を掻き分けて証拠品とか集めなきゃいけない捜査員にはちょっと同情する。
でもまあ、食事は母親に作ってもらった物を台所か食卓かで食べているらしく、部屋にはそっち系の残骸は見当たらなかったからGとかネズミとかカビとかは無かったっぽいから、片付いていないだけで汚部屋としてはランクが低いかも。
「こどおじ?」
碧が首を傾げた。
「いい年して自立せずに子供部屋に暮らし続けるおじさん。
この時間帯に家にいるし夜は放火して回っているしだから、オンラインで何か働いているか、非定期な臨時雇いか、完全にニートな脛齧りかじゃないかな」
考えてみたら、親に依存して同居と言えばパラサイトシングルも同じ様な意味だけど、あれはもう少しこう、独身貴族が働いて得たお金を遊びに使いまくって家に金を入れず、母親を便利に使っているってイメージだなぁ。
こどおじの方がもう一段階酷い気がする。
まあ、親と同居って言っても高齢者になった親の面倒を見るとか、孤独死が心配だから同居しているってケースもあるんだろうけど、あの汚部屋を見る限り、たとえ本人はそう思っているにしても親は迷惑に感じてるんだろうなぁ。
「いい年して親の脛を齧る様な中年ニートって親に暴力を振るったりする事もあるらしいけど、大丈夫かな?」
碧が少し心配そうに聞いてきた。
「どうも息子の自立を促す為に、もう家を売って自分の老人ホーム入居費用にするって荒技を使う事にしたっぽいんだよね。
そのストレスで少なくとも放火の頻度が上がっているみたいだから、下手をしたらそのうちキレて母親を殴るとか、母親が寝ている部屋に火をつけるとかする可能性もゼロではないかも?」
追い込まれたら死ぬなら諸共ってやりそうな気がしないでも無い。
遺産とか保険金狙いと言うよりも、あの調子じゃあ自分一人で生きていく自信がないから親に見捨てられるなら一緒に死のう!って開き直りそう?
「少なくともあのお婆さんは特に問題なく歩けていたよね。それなら今までの時点では殴られてないみたいだから、直ぐに殴り殺される危険性は低いかな?
だとしたら、田端氏が放火魔を逮捕するまで炎華に見張っておいてもらって、やばい感じに火をつけたら消してもらおうか」
碧が言った。
確かに、炎華がいればどれだけマッチなりライターなり固形燃料なりがあろうと火を大きく燃え上がるのを禁じられそうだよね。
炎華が他人の家の中にハネナガみたいに自由に入れるのかは知らないけど。
入れなかったら寒い外で見守るのは嫌がりそう。
「取り敢えず、まずは田端氏に連絡して、直ぐに来れるか人を寄越せるか聞いてみようか」
あとは家に帰ってから炎華に家からここをモニター出来るかの確認だね。
◆◆◆◆
『放火魔、ですか……?』
電話を受けた田端氏が呆気に取られた様に聞き返してきた。
はぁ?!って聞いてこなかっただけ、自制が効いているかな?
退魔協会関係だったら普通は殺人の痕跡を見つけたって連絡が多いだろうからね。
じゃなきゃ生霊関係の誘拐とか暴力とか?
少なくとも放火って言うのはあまり関係あるとは思わないよね〜。
「白龍さまが私の使い魔にと言う事で紹介してくれた炎の幻獣が、最近うちの近所で煩い消防車のサイレンの音は放火魔のせいだと教えてくれて、犯人を見つけてくれたんです。
火事の現場で見つけて家まで着いて行っただけなので、証拠とかはありませんが」
碧が説明する。
『炎の幻獣、ですか』
(白龍さま、なんでもありだな〜)と思っていそうな声で田端氏が相槌を打った。
「なので田端さんなり誰か近所の警官なりに犯人の家を見張って貰って、夜に放火するのを現行犯で捕まえて貰えません?
流石に私の使い魔の証言だけでは令状を取って逮捕したり家宅捜索したりは無理ですよね?」
碧が続ける。
『あ〜。
そうですね。
ちょっとそちらの警察と連絡して、状況を確認しますね。
どこの誰なのか、教えて貰っても良いですか?』
田端氏が聞いてきた。
「XX区ZZ町25の64に住む横田家の男性ですね。
高齢な母親と二人暮らしな様で、母親が今度家を処分して高齢者施設に入ると決めて動き始めた事が放火スタートのきっかけなストレス源なのかも?」
碧が老母への危険性を匂わせる。
どちらにせよ数日おきに放火しているんだから呑気に構えている余裕はないだろうが、母親に危険が迫るかもと思えば田端氏なりここら辺の警察なりも早急に手を打ってくれるだろう。
多分。