汗は邪魔
『看板は見当たらないな』
翌朝、ハネナガに念話を送って周囲を確認してもらったら思わしくない返事が来た。
「何かこう、目につく変な建物とか無い?」
『変と言われても。
視野共有で主が見てはどうだ?』
ハネナガにそう言われたので、視野共有に切り替えて周囲を見回す。
何やら戸建て地域の家の屋根の上にいるのか、周囲に同じ様な高さの家が広がっているのが見える。ちょっと離れた左の方に背の高い建物が並んでいるね。
あちらが大通りや繁華街の方なのだろうが、確かに看板は車通りがあるほうに向けてあるのか屋根の上にいるハネナガの視野には文字が見えていない。
「なんかこう、大きなタワマンとか見えない?
幾つかあったらそれらとの距離や角度の関係で場所が分かるかも?」
碧が提案した。
「う〜ん、タワマンなのかビルなのか知らない高層な建物はあるけど、後ろから見て見分けられる程奇抜な形じゃ無いんだよねぇ」
元々、建物にそれ程興味があった訳じゃないのでどのショップが入っているかなどを見る為に看板には注意を払っても、建物の形とか色は余程特徴的じゃ無いと記憶に残るタイプじゃ無いのだ。
「近所の電信柱とか門柱に住所が書いてないか、ハネナガに見て回って貰えば?」
困っている私に碧が次の提案をする。
電信柱だったらかなり大雑把な住所しか書いてないけど、最近は門柱に住所を書いてない家の方が多い気がするからなぁ。
「ハネナガ、放火魔の家の門とかインターフォンとか郵便受けのところに住所が書いてないか、見て?
無かったら隣や向かいの家とかも確認お願い」
遠くならまだしも、ぴょんぴょん動き回られながら細かい詳細を見ようとしている使い魔の視野共有をすると3Dゲーム酔いみたいな感じで気分が悪くなるので、まずハネナガにそれらしきものを見つけて貰うよう、頼む。
何かあったら読み取るのはこっちがやるからね。
賢いカラスの霊とは言え、流石に人間の文字は読めない。
『これか?』
そんな事を考えていたら、あっという間にハネナガから連絡が入った。
慌てて視野共有したら、住所が書いてある古びた表札が見えた。
『でかした!』
住所を急いで書き写す。
「確認しに急いでそっちに行くから、放火魔が家から出てきたら教えてね」
ハネナガに頼む。
『分かった』
日中から放火はしないと思うから、出ていっても見張る必要はないかもだが……尾行させて怪しい行動をしてないか、一応確認した方が良いかな?
それこそガソリンや灯油を大量に買っていたりしたらヤバい。
昨日までは何やら適当なキャンプ用品らしきものを使っていたみたいだけど、固体燃料や炭で満足できなくなってガソリンを使い始めたら危険度がぐっと上がりそうだ。
まあ、ガソリンって爆発リスクもあるらしいから自爆リスクも上がりそうだけど。
でも、空き家で自爆して捕まるなら良いが、家の中に住民がいるのにガソリンを撒いて着火なんてされたらマジで危険だ。
そんな事を考えながらナビアプリで書き写した住所への行き方を検索する。
「ここから歩いて20分ってところかな。
こないだ火事があった現場より近いみたい」
まあ、考えてみたら自分の家のすぐそばでは放火しないよね。
近所の人に見られたら即座に顔バレするリスクが高いし、何よりも自分の家が燃えた困るし。
つうか、どうしても火をつけたいなら自分の家に火をつければ良いのに、迷惑な奴だ。
「取り敢えず行ってみて、住所を確認した後に一応中をハネナガに覗いて貰って放火の道具みたいのがあるか確認した上で田端氏に電話しようと思うんだけど、どうかな?
うっかり隣の家の人を犯人らしいって言っちゃったら不味いでしょう」
ついでに犯人の写真も撮れたら良いんだけど。
「だねぇ。
炎華が目撃した事にするんだから、私も一緒に行って場所を確認するよ。
私達の体力じゃあ炎華に教えられても放火現場まで走っていって犯人を尾行するのは無理なんだから、炎華の居場所を探す感じで犯人の家を見つけた事にしなきゃだしね」
碧が上着を手に取りながら言った。
「まあ、良い運動になると考えよう。
身体強化で走ってみる?」
ジョギングっぽい感じで走っていくの方が怪しまれなくて良いかも?
「汗かくからねぇ。
取り敢えず、今日は歩いて行こう、
帰りは走ってもいいけど」
碧が言った。
確かに、あっちで家の中をハネナガに探らせている間に汗が冷えたら辛いよね。
人間って汗をかく方が健康的だって言うけど、マジで色々と不都合〜!