頭の上に、カラス
『火をつけられました〜』
また2、3日待つ羽目になるかと思っていたら、放火魔は昨日の素早い鎮火が不満だったのか、翌日の夜に炎華がまた放火が起きたと知らせてくれた。
「ハネナガ!」
声をあげたら、ベランダのどの壁が良いかとウロウロしてたハネナガがすっと部屋の中に姿を現す。
「炎華と行って、火をつけた人間の住処を見つけるのを宜しく!」
取り敢えず動きが多くなるので多めに魔力を渡し、頼む。
『分かった』
ハネナガが頷き、先に飛び出していった炎華の後を追って姿を消した。
カラスの浮遊霊であるハネナガの方が、実体があるけど人目から隠して動いている炎華より早く飛べるんだよねぇ。
まあ、炎華が実物大になっていたらもっと早く飛べるんだろうけど。あのサイズになると人目から隠すのが更に面倒らしい。
雀サイズで飛ぶとなったら確かにちょっとスピードで負けてもしょうがないよね〜。
そんな事を考えながら視界共有でハネナガの動きを追う。
街頭やカーテンから漏れる人の家の明かりがあるけど、全然何処を飛んでいるのか分からない。
犯人が何か目立つ看板でも見える場所に住んでいると良いんだけど。
住宅街だと場所の特定が大変そうだなぁ。
まあ、放火した範囲まで歩ける距離に住んでいるんだろうから、いざとなれば放火現場からハネナガがいる方向へ歩けば辿り着ける筈。
放火魔が自転車に乗っていた場合は自転車か電動キックボードをレンタルでもしよう。日中なら1時間程度のレンタルですむだろうし。
そんな事を考えながらよく分からない夜景を見回しつつ現場に着くのを待っていたら、やがて何やら光が地面からちらちら上がっている場所に着いた。
まだ焚き火サイズっぽいね。
『あそこの影から見ている男だね〜』
ハネナガに話しかけた炎華の念話が聞こえ(?)る。
イマイチ私には分からないが、ハネナガには分かったのか、ハネナガが動いて、ちょっと戻ったと思ったら突然人間の頭の上にハネナガが停まっていた。
『え?!?!
何やってるの?!』
慌ててハネナガに声を掛ける。
『どうせこれっぽっちも霊感が無い男だ。
浮遊霊が頭の上に居ても分からんよ。
飛びながら追いかけるよりも軽く憑いて行く方が楽だ』
ハネナガが平然と応じた。
そっか。
霊感がある人が視たらカラスを頭の上に乗せて歩き回る変人って事になるけど、ハネナガが視える人なんてそれほど居ないし、視える人でも視ようとしなければ気づかないだろう。そうなると確かにこれが一番効率的かも。
そんな事を考えながら周囲をハネナガの視点から見回していたら、さっきの炎が本格的に燃え上がってきた。
どうやら古い小屋っぽい家の壁に着火したっぽい?
家に火をつけるなんて、中に人が居たら危険じゃ無い!
元々放火なんて危険だしやっちゃいけない事だけど、こいつは人を殺しても良いと思っているのか、この家が空き家だと思っているのか、どっちなんだろ?
ハネナガの視界から見える範囲だとかなり草や木がぼうぼうに生えているので空き家な可能性もあるけど、単に庭の世話をする資金的もしくは体力的余力が無い人が住んでいるかもなのだし、マジで放火って無差別殺人だよねぇ。
放火魔は何を考えているんだか。
暫くしたら炎が更に大きくなり、周囲が明るくなった。
近所の人もヤバい状況に気付いたのか、何箇所かの家のカーテンが開いたから消防車が呼ばれたのだろう。
戸建だったら周囲の家だって庭に蛇口とホースがあるだろうから、それで消火に出てこないのかな?
それとも自宅に燃え移る危険を考えて逃げる準備をしているのか。
そんな事を考えていたら、消防車のサイレンが聞こえて来た。
最近放火が多いせいか、消防車も初動が早いねぇ。
まあ、放火が多くなくても火事の通報があったら消防署の初動は早いんだろうけど、放火に気をつけて下さいって回覧板とかが来ていたら、煙っぽい臭いがして火が見えたら『まさか火事じゃないよねぇ?』とか考えてぐだぐだせずに、さっさと消防に連絡を入れた人が多かったのかも?
消防車が次々近付いてくる音が聞こえて、放火魔が動き始めた。
どうやら逃げるらしい。
放火魔って火事の現場を見守ってる訳じゃないんだ?
野次馬の写真を撮れば見つかるかもと思っていたのに、この放火魔もその話を知っていて先に逃げることにしているのかな。
まあ、最近だと携帯で動画を撮って動画サイトにあげる人が多そうだから、自分で立ち会わなくても火事の現場を見れるのかも。
取り敢えず。
明日の朝にこの放火魔の家を特定して、田端氏に通報だ。