代替物?
『え、ずっと見張っているのか?
ちょっと嫌なんだが』
ハネナガを呼び出して、放火犯の見張りを頼んだら渋られた。
「別に適当に木や屋根の上に留まって街を見ているのっていつもやっている事と大して差はないでしょ?
数日のことだし、魔力を追加で渡すから。
なんだったら、このイアリングをあげるよ?」
片方何処かで落としてしまったせいで使い道のなくなった青い宝石(ブルートパーズだったかな?)付きのイアリングを差し出して、光が当たってキラキラする様に動かして見せる。
『う〜ん、その金属は綺麗だけど、死んじゃったからもう昔の巣はないんだよ。
と言うか、巣に出来そうな場所を見つけても暫くしたら生きてる奴に乗っ取られちゃうし。
流石に子育てしようと頑張ってる若いのを追い出すのは可哀想だから、結局巣なし状態なんだよ』
ちょっと切なげにハネナガが言った。
確かに霊になっちゃったら巣はキープし難いか。
そして巣が無いと光り物も貯めて楽しむ訳にいかないのね。
「じゃあさ、取り敢えず放火犯を見つけて家まで尾行して貰って、翌日そこへ私たちが辿り着ける様にしてくれる?
実際に放火するところを目撃して逮捕するのは田端さんに頼もう」
碧が提案した。
「え、田端氏って放火も扱うの?」
退魔協会との連絡係なのに私達からの話だからってこきつかっちゃっていいんかね?
「何か退魔協会関係の仕事で忙しかったら別の人を紹介してもらえばいいし、特に何も無いと暇な時はかなり暇だって以前言ってたから、白龍さまに紹介された私の使い魔が放火犯を見つけたけど証拠がないから手伝ってって言えば暇な時だったら手を貸してくれるでしょ」
碧がにっこりと笑いながら言った。
そっかぁ、田端氏って暇なんだ。
いや、暇な時は暇って言うべきか。
閑職とまでは言わないけど、通常の仕事を警官として割り振られる訳でもないから退魔師関連で何かなければ暇なんだね。
「じゃあ、ハネナガは呼び出したら炎華と一緒に放火現場に行って、犯人のあとを付けて棲家を見つけ出し、翌日私らを案内するのを宜しくね。
魔力で払うから」
『分かった』
ハネナガがコクリと頭を下げる。
「そう言えば、巣が無くて困っているなら、ベランダに巣を作る?」
ベランダに燕が巣を作ったりする事もあるらしいから、実体がないならカラスが巣を作っても良いだろう。
生きていたら虫が涌きそうだから嫌だけど。
考えてみたら浮遊霊じゃあ実体がないから巣を物理的に作れなくない?
『良いのか?!』
ハネナガがピンっと体を伸ばして聞いてきた。
「まあ、良いとは思うけど、死んじゃっているのに巣を作れるの?」
一応碧の方に目をやったが、構わないと言う感じに肩を竦められたから、問題はない筈。
『うむぅ……。
小さな光り物だったら気力を尽くせば拾えない事もないんだが、流石に巣を作る程の枝を集めるにはかなり気力が必要になるな。
だが、今回の協力で魔力をたっぷりくれるのだろう?』
ハネナガが期待を込めて聞いてきた。
なんかこう、碌に使えもしない巣を作る為に魔力で払うのって微妙に無駄な気がする。
それだったらその魔力を亜空間収納を広げるのに使いたいなぁ。
「こう、突っ張り棒を買ってきて、ベランダの奥の隅の上の方にでも小さめな籠を固定するんじゃ駄目?」
そのうち引っ越す時に巣を撤去しなきゃならないんだし、だったら100円ショップで適当な籠と突っ張り棒を買ってきて固定しとく方が良い気がする。
台風が来る時なんかには家の中へ持ち込めるし。
つうか、カラスの巣ってベランダに作られたりするんかね?
燕の巣ってかなり小さな隙間にも器用に作っているのを見たことがあるけど、カラスって嫌われ者だからか巣を見たことがない。
燕だったら蝿とか虫を食べてくれる益鳥的な感じだけど、カラスって子猫を襲ったり、ゴミ捨て場を荒らす悪役ってイメージだから、巣があって雛の声が煩いとか糞が迷惑ってなった際にカラスの巣だったらさっさと撤去されてそう。
それに考えてみたら燕とカラスじゃあ体のサイズが大分と違いそうだから、生きてるカラスの体が休めるサイズの巣をベランダの壁に作るのは無理なのかも?
ハネナガは霊だからそこら辺のサイズと重量制限は柔軟に出来ると期待したいけど。
『……取り敢えず、今回の件が終わった後に、その籠を見せてもらおう』
ハネナガが重々しく応じてきた。
これだと、満足する籠を見つけるまであちこちの店を回る羽目になりそうだなぁ。
ここら辺で一番大きな100円ショップがどこか、探しておこう。