正義の味方はねぇ……
「ちなみに、放火魔を発見したらどうしたら良いかな?
家に放火の証拠品とかがあったら、それとなく近所の交番とかに怪しい人を見かけたって密告したら良いと思う?」
家に帰り、お風呂を浴びて炬燵に入った私は碧に相談した。
やっぱ炬燵は良いわぁ〜。
一度入ると出たくなくなって、そのまま寝ちゃいたい誘惑が強過ぎるのが唯一の欠点だね。
それはさておき。
放火魔に関しては、意思誘導もしくは洗脳で今後放火をしない様に強いる事も可能だけど、私が勝手に手を出すよりは、法の下にやった罪に関して裁かれて償うべきだと思うんだよねぇ。
第一本人の歪み具合では意思誘導していてもそのうちまた放火し始めるか、じゃなきゃそれこそ車で人混みやガソリンスタンドに突っ込むとかする危険性もある。
それに下手に正義の味方っぽく悪を懲らしめるなんて事をやっていると、いつか自分が道を踏み外しそうで怖い。
何よりも面倒だと思うし。
正義の味方って本当に実在するとしたら、ある意味ちょっと頭がおかしいぐらいなお人好しだと思うんだよねぇ。
無償で自分の時間とエネルギーを顔も知らぬ他人の平和の為に費やしまくるってカルマ的には良いかも知れないけど、自己犠牲精神が異常に発達しててヤバいでしょ。
悪と戦うスリルジャンキーだって言うならまだある程度は分かるけど。
単に力があるならそれを正義の為に使う義務があるって考えだとしたら……それこそ、いつか世間に裏切られたって感じた時にボッキリ折れて、逆上しそうだ。
もしくは、力があるなら無知な民を管理する義務があるみたいなヤバい方向に『正義』が歪んでいくとか。
ヤバい人間を悪事をできない様に洗脳したり意思誘導したりするのって、一歩間違うとそのうちそいつが悪事を行うとか子供を作る前に殺しておくべきって考えになりかねないとも思うし。
取り敢えず。
目の前で誰かが転んだら助けるし、しょっちゅう夜に消防車のサイレンの音が鳴り響いて煩いならなんとかしようとは思うけど、勝手に私が最後まで手を下すのは良く無いと思うんだよね。
「火をつけているのを見たって証言するならまだしも、火をつけたのを見た上で、そいつが何処にいるかを確認出来るまで尾行したってちょっと胡散臭く無い?」
碧が顔を顰めつつ指摘した。
確かにねぇ。
匿名なタレコミ程度じゃ相手の家の中まで調べられないだろうから、そうなると放火した証拠も当局側が入手するのが難しくなるよねぇ。
かと言って自発的に目撃した人間を棲家まで尾行しましたって言うのも怪しいだろう。
冤罪狙いか?!と却ってこっちが疑われそう。
『だったら、火をつけた時に何かが爆発して頭に当たったことにして、発見されるまで現場に転がすとか?
火をつけた際に何かが爆発する様に力を吹き込むのは簡単ですよ〜』
炎華が提案した。
おっと。
放火しようとして、うっかり何かが爆発して頭を打って現場で倒れてて捕まったなんて事が実際にあったら笑えるけど、確かにそれも良いかも?
「でも、火をつけた瞬間に爆発させられるほど素早く反応出来るの?」
碧が炎華に尋ねた。
確かに。ライターの火や各家での調理の火に一々反応しているんじゃあキリがないから、放火といってもそれなりに火が大きくなるまで炎華も感知できないんじゃない?
『次の放火の時に見つけて家まで後をつけ、ハネナガにずっと見張らせて放火しそうになったら呼び出してもらって現場でボン!でどうでしょう?』
炎華が提案した。
「確かに、それが良いかな?
よし、ハネナガに長期サービスを頼むって声をかけておくね」
普段は短期な手伝いしか頼んでいないから、どの程度の頻度で放火するかにもよるけど数日ずっと見張りをして貰う事になるならしっかり魔力なり光り物なり、ハネナガの欲しがる物を準備しておかないと。
やる気がない使い魔って意外とポカをかます事があるからねぇ。